消滅の予兆③
第54章
お昼は野菜たっぷりのパスタを作って振る舞う。
「スプリンド先輩、アガシー先生はどうして上空で大きな魔法陣を展開しないのですか?」
「国の魔力低下が著しいからとアガシー先生は言っていたではないか‥‥」
「そうですけど、‥‥アガシー先生は、なんだがとっても嬉しそうでした」
「ああ、本当なら帝国で教授にもなれたらしいけど、貴族学校で自由に研究できる環境を選んだと聞いたことがある。先生は、実は地道な実験が好きなんだよ」
「誰でも自由は好きですからね」
「先輩は、これからどうなると思っていますか?」
「わからない、僕はもう失う物がないからな‥‥実はどうなってもいい、ただ、ここはこのまま残って欲しいと思っている、ここは本当にいい場所だよ」
「俺は、失うものは多いが、ここでの生活には満足している。年を取ってからの生活にはここが一番いいな、国が消滅してもここで暮らせればそれでいいと、最近は思うようになった」
「クリフトルさんやジェシー姉さん、従業員の皆さんはどうするのですか!!」
「ベル商会の従業員は全員、魔力持ちではないから、助かるのではないかと最近は考えている」
「そう言えば、あまり平民が消滅したとは聞きませんよね」
「土地の消滅の時に、巻き込まれる可能性は残ってますよ、それとも、全員が無事なのでしょうか?」
「国はそのような情報を流さないからな‥‥」
「ただいま戻りました」と、ミスドルが入って来た。
「どうでした?何かわかりましたか?」と、聞いていると、ミスドルの後ろに仮装した緑の人間が現れた。
「アガシー先生、物凄い仮装ですね」
「ああ、この魔法陣は効き目が凄かった。死ぬかと思った。上空から森の中の魔法陣を発見できずに戻った事は心残りだ。スプリンド、この植物の魔力を測定し結果をまとめてくれ」
「はい」
「腹減った~~」
「久しぶりの上空はどうでした?」と、リンさんは聞く。
「最高だった。調査に有効な魔法陣が書けたら、リンもミスドルに頼むといい、書けたらな‥‥」
リンさんはどうしてもワイバーンに乗りたいようで、その言葉に闘志を燃やした。
「森の魔法陣に反応しない魔法陣を考えるのが、一番難しいのですよ、アガシー先生!まったく!!」
「そうですよね。反応されるとスタンピードが発生して、とんでもない事になるのですからね」
「そう、強調しなくてもわかってる!!慎重に取り掛かるよ」と怒りながら返事を返す。
◇◇◇◇◇◇
昼食が終わるとお茶の時間、久しぶりにお菓子を並べてティーセットを出しお茶を注ぐ。
「それで、上空から見た森はどのようでしたか?」
「ああ、ミスドルの感想と一緒だ。時が止まっているような静寂と魔力だ。もしかすると森は本当に聖域かも知れないと思った」
「人間はいませんでしたか?」
「肉眼では発見できなかったが、魔法陣を展開すれば魔力でわかるのだが、今は刺激しない道を選んでいるからな‥‥」
「しかし、平地のように思えたが低い山脈も発見した。後は、この村の川は森の外の川からの支流だとわかった。見事な結界で川が結界に沿って流れている様だった」
「へ~~、そうなんですね」とみんなでワイワイ話しながらお茶をしていると、突然、王都からの移動魔法陣が光、バーグ先生と従者2名、メイド2名、そして、アナベルとグレイが荷物と共に現れた。
ミスドルは、「アナベル‥‥」と呟き、固まっている。
5人は急いで外に出て、何かあったのかと心配しながら近づく、
「バーグ先生、貴族学校で何かございましたか?」と、ホーリーは落ち着きを装いながらたずねると、
「第1皇子と一緒に出国している領土の領主邸が、消滅したのは聞いたかね?」
ホーリー達は、ただ頷く
「僕らの故郷の領主邸の消滅が予想されている。だから、ホーリータウンに少しお世話になりに来た」
「‥‥‥、彼、彼はミスドルか?」
「兄上‥‥」
「ミスドル兄さま‥‥」
アナベルとグレイは、ミスドルに飛びかかり泣いて「どうして、帰国を教えてくれなかったのですか~~」と、何度も、何度も聞いては、泣き、聞いては、泣きを繰り返し、落ち着いた所で、
「むさくるしい所ですが、家に入りませんか?」と招待する。今のホーリーの家は、本当にむさくるしい家なので、謙遜ではない。
どこの貴族のメイドさんは同じなのか、ホーリーがお茶の用意をしようとすると、持参して来たお茶で用意を始め、お菓子を出そうとすると、持参してきましたと言われる。これで2度目なので笑顔でお願いし、バーグ先生たちの元に戻る。
バーグ先生の話をまとめると、今、王都はプチパニック状態で、第1皇子の死亡の噂が立った。国王陛下の病状も不安定で、国のツートップが居なくなるとどうなるか、誰でも予想ができるようで、貴族たちもどう立ち回った方が良いかわからない状況らしい。
その中で領主邸の消滅、当然、フェリクス先生の領土の領主邸も消滅したらしく、王都の屋敷ではご両親が悲しにくれたらしいが、フェリクス先生から無事を知らせる通信があり、屋敷内は落ち着きを取り戻したようだ。
「それで、バーグ先生は2人を連れてここに?第2皇子に言われたのですか?」
「イヤ、彼女たちは、丁度、領土から王都に戻って来た時に、第1皇子の件と領主邸の消滅の噂が流れたので、私がそのまま貴族学校の寮に滞在した方がいいと助言したんだ」
「なぜだか、わかるかい?」
「もしかして、アナベル達の領主邸は消滅していないのですか?」
「そうだ、王都まで距離があるにしても、彼女たちの領主邸だけが無事となると、色々と調査が入るだろうし、聞かれても、彼女たちは答えられない。彼女たちの出発のタイミングの良さと、消滅していない事実だけが残る」
「わたしは、混乱している王宮内に、このような子供を送り込みたくない」
「バーグ先生‥‥」アナベル、グレイ、ミスドルは涙を流しながらバーグ先生に感謝している。
「それでは、皆さん、しばらくはここでのんびりして下さい。ミスドルさんともお話がしたいでしょう?部屋をご用意しますのでゆっくりして下さい」
「ありがとうございます」
◇◇◇◇◇◇
広い食堂では、感動の再会組と冷静に分析する組に分かれて、話し合いが始まっている。
「フェリクス先生も家門の領主邸の消滅の話を聞いたようですね」
「ああ、彼は、本当に貴族学校の教師で優秀だな。きっと、予想していたのだろう。自分の領土には1度も戻っていないのだろう?この事実が発覚すれば、王宮での取り調べは酷い物になっただろうに‥‥」
「まさか、拷問されたりするのですか?」
「そこまではしないが、睡眠は奪われ、貴族にとっての有効な情報が得られるまでは軟禁状態にされる。フェリクス先生も早くここに戻ってきた方がいい‥‥」
「貴族の方は、どうして、フェリクス先生みたいに、現場に足を運んで調査したりしないのですか?」
「貴族は、基本、執務室から出ない、書類の精査も家令や役人、代官の仕事で、最終的に判断するだけが当主の仕事だ。研究に溺れる儂やスプリンドの父上などは、その役目を他人に任せて終わりだ。だが、有力な情報を得る為には残酷な事もする。それが今の王宮の役人の仕事なのだから‥‥」
「アガシー先生、フェリクス先生と通信魔術具で話す事は可能ですか?先生が心配です」
「あぁ、そうだな、彼らが戻ったら、ここの結界も強化した方がいい」
◇◇◇◇◇◇
その後、フェリクス先生と通信魔術具で情報交換すると、
「どうやら、両親は、領主邸の起点に貴族の証のステッキを同化させていた、領主邸が消滅し僕は平民になった!」と、話だし
「折角、平民になれたのだから、明日、平民神殿に奉納してからそちらに戻るよ。結界の強化はカーズ村も一緒に行うので、僕らの帰りを待っていて下さい」と、意外に軽い返事が戻って来て、全員で呆れていた。
「フェリクス先生‥‥親不孝者」




