消滅の予兆②
第53章
ホーリーはカーズ村からの入り口を通り、アレクサンダーと一緒に戻って来た。長旅で夕方になったので、カーズ村の人たちは町に戻る。
「ホーリー、お帰り、ご苦労様、街はどうだった?」と、色々な人と挨拶し、「お疲れ様」を返しながら歩き、そして手をふる。
「お疲れ様でした。マコーミットさん、全員、戻りましたか?」
「あぁ、僕が最後だ。待っていて、ケルフを呼んでくる」
ケルフはすでに待機していて、二人で結界を張る。ケルフと見つめ合い頷き、別々の家に戻る。
自分の家には明かりが灯されいて、リリーさんの用意してくれた夕食の臭いがしてくる。長く居すぎた、こんな小さな風景や臭いで涙がこぼれそうになる。でも、話さなくては、手紙を見せなくては‥‥
「ただいま」
「あぁ、おかえり」
3人はそれぞれの作業で忙しくしていて、心のこもっていない返事を返してくる。
「ケルフの所に第2皇子から手紙が届きました。読みますか?読むなら今しかありませんよ」
3人はそれぞれ手を止めて、ホーリーを見て、深く頷いた。
ホーリーは、ミスドルが戻る前に3人に手紙を読ませる事に成功したが、3人とも言葉を発して来ない。この状況は予想していなくて、少し困っていると、ミスドルが帰って来た。
「お帰りなさい、ミスドル、ワイバーンはどう?アレクサンダーが戻って来たけど平気だった?」
「ああ、平気だ。昨日から森の上を飛ばせているからね」
「森って、あそこの森の上?飛べるの?」と、ワザと明るく振る舞う。
「うん、空には結界は張られていないようだ」
「でも、不可侵の結界は残っているのでしょ?」
「今は、徐々に低空で飛べる訓練をしている。国全体の魔力が薄くなって、不可侵の魔術も弱まっているのかも‥‥」
ここでアガシー先生は質問をする。
「魔物は見えたか?」
「はい、多少は存在しているようですが、スタンピードで現れるような魔物ではなく、なんて言ったらいいのかわかりませんが、大人しそうな魔物は存在していました」
「これは私の主観ですが、森は魔物の存在は確認が出来、不思議と木は育ち、花の咲いている土地です。それで、僕はここではあまり役に立ちませんので、明日からも森の調査をしたいのですが、いいでしょうか?」
「いいんじゃないか?」と、頷き4人は声を揃えて返事をする。
「さぁ、夕食にしましょう。ミスドルさんもお昼には戻って来て食事をして下さいね」
「ありがとう。でも麦の乾燥も手伝うつもりだ。食料は大切だからね」
「それは、カーズ村のみんなが、助かると思いますよ。農民5人分の働きだって感謝してましたよ」
その日の夜は、誰も第2皇子の手紙の事を話題にはせずに、静かに眠りについた。それぞれの頭の中を整理するのには時間が必要だった。
◇◇◇◇◇◇
翌日、ミスドルを見送ると、アガシー先生はどこからか地図を取り出し、大きなテーブルに広げる。
「第1皇子の側近の領土を思い出したか?」
「多少ですが、そういう事に興味がなかったので2つだけ思い出しました。多分、こことここですね」
「儂もさっぱりだ。これは、フェリクス先生が戻って来てから聞くしかないな‥‥」
「フェリクス先生のご両親は、王都のお屋敷に戻っていますけど、フェリクス先生は、ミスドルさんの妹さんと従妹さんとは、領主邸で面会したと言ってましたよね?」
「ミスドルに真実を打ち明けるのは、フェリクス先生が戻って来てからにした方が良いですね」
ホーリーは、広げられた地図をじっと見ていると、スプリンドは「どうした?」と聞いて来た。
「この国の地図って初めて見たのですが、ホーリータウンはどこですか?」
「ここだ」
「森は、こんなに広くて、土地の消滅とは無縁に思えませんか?ここは魔力が満ちているのですよね?」
「でも、ここには入れないぞ!」
「空からは可能かも知れませんよね。ワイバーンとミスドルさんは飛べたのですから?」
「ワイバーンは1体しか存在しないし、森だけ残っても仕方がないだろう?」
「そうですけど、不可侵の結界は、今まで私たちが魔物の住む森だと考えていましたが、意外に森の方が聖域だったりしませんか?森から見たら私たちが魔物になりますよね?」
「‥‥‥たとえそうだとしても、それに気づくのには遅すぎた。調査も研究の進んでいない」
「スプリンド先輩、ワイバーンは何人乗れますかね?」
「まさか、君も飛ぶつもりではないだろうな?グリフォンにも乗った事がないのに?」
「アガシー先生はあるのですか?」
「僕は留学しているから、当然、乗れる。仕方ない、明日、ミスドルと調査に行って来るか?ここでいくら考えても間に合いそうもない、違う道も用意しておくべきだ」
「‥‥‥」
「しかし、私達数名が森に入る事で生き延びても、食料がなくて死んでしまいますよね?」
「まぁ、そうだな」
「不可侵の結界を、ちょっとこちらに広げられたらどうでしょうか?畑も有りますし‥‥」
「スタンピードが起こるだろう?」
「そうですね‥‥失念していました」
「いや、その考えはいい、森は魔力が満ちている、森を広げれば消滅を逃れる土地も増えるのでは?」と、リンさんが珍しく発言する。
「どうやって?」
「森の中にはきっと魔法陣が存在しているはずだ。それを利用する」
「僕たちは、国全体の魔法陣を探し改良の道を探していたが、もう、そんなに時間は残っていないだろ?」
誰も頷かないが、心の中では思っている。
「森の中に入るのか?」
「いや、どうにか森の魔力を分けてもらう方法を考える」
「森は木が育ち花が咲いていて、魔物も存在しているとミスドルさんは言ってましたよね?木に花に魔力が存在している事はありませんか?アレクサンダーが魔馬のように、魔木とか魔花とか?」
「そのような考えも出来るな‥‥」
「しかし、どうやって、森の木を伐採して来るんだ?」
「ワイバーンに括りつけて?」
「ワイバーンはそこまで万能ではない!」
「種を拾って育てる」
「時間がないだろう?」
「そうですね、種が採取できても、発芽や育成には緑魔法の使い手が大勢必要ですよね」
「しかし、調査は必要だな」アガシー先生は薄っすら笑う。
◇◇◇◇◇◇
そして、また翌日、アガシー先生は、ミスドルの許可を得てワイバーンに乗って調査に向かった。その姿は笑ってはいけないが、体中に吸引の魔法陣を貼り付けた、いで立ちだ。
「アガシー先生、この魔法陣に虫が着くのですか?虫取り魔法陣?」
「バカ者、植物限定にしたあるに決まってる。間違って魔物が着いたらどうする?ここまでして、落下で終わりたくない」
「昨晩、遅くまで、私たちが書き上げた魔法陣が、このようになるとは思いませんでした。沢山書いたので、吸収の魔法陣は覚えられました。ありがとうございます」
麦畑を通って、研究班5人は、ワイバーンのいる所に向かって行くと、忙しい農夫の皆さんも手を止めて様子を伺っているのがわかるが、どうやら恥ずかしいと思っているのは私だけで、リンさんは羨ましいと表情に出ている。
風もなく穏やかな日、このようなバカバカしい実験で、破滅から逃れられるとは思えないな~~と、空を見上げると、この世界には太陽も月も存在しない事に改めて気づいた。今頃か~~!!
「では、行ってきます。お昼には戻りますので、期待して下さい」とミスドルさんはワイバーンと、飛び立った。
ワイバーンが飛び立つと、機嫌のいいアレクサンダーがウサギを銜えて遊びに来る。その姿を見つけると、アデルはウサギの回収に家までやって来て、夕食にウサギの料理が出る。
「あ~~、夕食はウサギのスープか、昼はパスタにしてくれ」
「いいですよ。私も食べたかったので‥‥」




