ホーリータウンの変化④
第51章
プレジーは早朝からフェリクス先生の家を訪れて、マリアさんからお店の指示を受け取り、ケルフは出来上がった小麦粉数袋を箱馬車に乗せる。
「どうして小麦粉を乗せるの?」
「リン商会にも行くだろう?小麦粉の鑑定はしたけど、品質の確認をして欲しいし、それにバーグ先生の所にも持って行ってよ」
「え~~、重いよ」
「その為のプレジーだろう?先生たちのおかげて随分と早く小麦粉になったんだ。自慢もある」
「ケルフ、まるで村長みたいよ」
「ああ、村長だからナ」
「ははっはは、では、行ってきます~~」
新緑が眩しい朝、ホーリーとプレジーは、機嫌がいいアレキサンダーを連れて貴族学校に向かった。
◇◇◇◇◇◇
貴族学校に到着後、早速、バーグ先生の温室を訪ねる。早朝にもかかわらずバーグ先生は、いつもの様に温室内で花の手入れを指示している。ここには変わらない日常が存在していて、なぜか嬉しくなる。
「バーグ先生、お久しぶりです。ご連絡ありがとうございます」
「聞いたよ、フェリクス先生はホーリーの村にお邪魔しているらしいね?」
「はい、秘密ですよ。フェリクス先生、なぜか、王都に戻りたがらないのですよ」
「今は、第2皇子と近くなると、家門に迷惑がかかると思っているのかも知れないな、大人の事情だ」
「はい、お貴族様は大変だと聞いた事があります。先生は、いいのですか?」
「僕は、子供や孫に爵位を譲っているし、貴族学校に所属している老人に過ぎない。王宮に登城命令も出ていないからね」
「登城命令ですか?」
「今は、国王陛下が倒れられて、魔力が足りない状況になっているから、有力貴族たちは呼び出され奉納している」
「奉納ですか?お貴族様も奉納するのですか?」
「慣例ではない。それくらい異常事態だと言う事だ」
「先生、今は家門のご当主様が奉納しているだけですよね?今後、先生も呼ばれる可能性があるのではないですか?」
「どうだろう、僕はここにいるからね‥‥」
「え?もしかして、貴族学校にも魔法陣があるのですか?」
「アガシー先生が、王都を出る時に教えてくれた。早めに領土に戻るように言われたが、僕はここが大切だからね、奥さんと出会って、この温室で花や木を育て、多くの生徒を送り出した。僕の人生そのものだから、魔力を引き出される事に不満はない」
「う~~‥‥‥先生、フェリクス先生がアナベルのお家にお邪魔した時に、私の魔馬の馬房の土で発芽させて、アナベルを驚かせたようなのですが、その土に興味ありませんか?」
「え、もう?その土の事は知っている。君が休んでいる時に、ケルフが持参して来た土で確か枇杷の種を植えていた。3人は鑑定も頑張って、発芽や発育にも真剣に取り組んでいたから、そうか、それはすごいな、しかし、フェリクス先生にも特別な才能があるんだろう」
「フェリクス先生は土魔法を使う能力が高いのではないでしょうか?最近、魔法陣を書いて気づいたのですが、魔法陣を描く時に最初に書くのは土魔法の魔法陣ですよね?」
「そうだね、土魔法が基本になっている。フェリクス先生は土を形に変える事も出来るが、金属の変化も出来るらしいと、アナベルとグレイが言っていた」
「なんて万能なのでしょう!!」
「まぁ、そのくらい出来なくては、芸術教室の教師は務まらんがね」
「バーグ先生、今日、お時間があれば馬房の土を見に行きませんか?自慢のアレクサンダーも紹介します。今日は、久しぶりの王都で機嫌がいいのですよ」
「天気もいいし、それでは、行ってみるか?」
プレジーは、出来上がった小麦粉を1袋、バーグ先生の従者に渡し、バーグ先生と従者、プレジーとホーリーは、アレクサンダーの馬房に向かった。
馬房では機嫌のいいアレキサンダーは、大人しく澄ましていて、その周りには土の山が存在している。
「先生、私のアレキサンダーです」
「おお、立派な魔馬でいい毛並みをしている」
「この辺りの土は、アレクサンダーが蹴り上げて出来ている様で、いつも溜まっています。箱馬車に植木鉢があるので土を入れますね」
「これは、私の窯で焼いている植木鉢なんですよ。フェリクス先生も気が向くと作ってくれます。この綺麗な鉢はどうでしょうか?」
「いいのかい?これは立派な鉢だね」
「ええ、この後、商会に納品するので、いっぱい持って来ています。気に入られた物がございましたらお譲りいたします。本のお礼です」
その場で植木鉢の品評会を行い、バーグ先生は大変気に入ったらしく、従者とプレジーは、本と植木鉢の交換を行いながら小屋の整理をしている。
「バーグ先生、ここに私の村への移動魔法陣が有ります」
ホーリーは魔法陣を光らせて見せる。
「先生に許可を与えますから、何かあった場合は、ホーリータウンに来てください。勿論、従者さんやメイドさん達も一緒に、いかがでしょうか?」
「ホーリー」
バーグ先生は、ホーリーの両手を握り、嬉しそうに感謝する。
「いいのかい?年寄りを引き取る事は大変な事だぞ‥‥‥」
「大丈夫です。今、ゲストハウスも建設中ですから、皆さんが増えても問題はありません。だから、どうか頭の隅にこの魔法陣を覚えておいて下さい」
ホーリーは、バーグ先生のブレスレットに許可を出し、その場で別れを告げた。
午後からは、ベル商会に小麦粉や植木鉢を納品し、マリアさん指定の店も周り貴族学校に到着した。
「ホーリーは、このまま寮に泊まるんだよね?」
「そうよ、プレジーは戻りたいなら箱馬車と一緒に戻すけど、どうする?」
「ホーリー、1人を置いて帰れないよ。明日、いつもの場所で待ち合わせでいい?」
「いいよ、頑張って起きるから、プレジーも気をつけてね」
「わかってるよ、じゃあ、明日」
◇◇◇◇◇◇
翌日、少し遅刻したが、プレジーと合流して、ミルサーチの療養所に向かった。相変わらずの静寂を味わいながら、マリアさん指定のお店のお菓子を差し入れして、面会を待つ。
「ホーリーさん、お待たせしました」とこの前の神官が現れて挨拶をする。
「ミルサーチさんは昨日から眠ったままで起きていませんが、お顔だけでも見て行きますか?」
「はい、お願いします」
診療所は、王宮の敷地内に有る為に、立派な建物で、平民のミルサーチには贅沢過ぎるように思えるが、他国の元皇族の扱いは受けている様で、清潔を保ちながら気品のある部屋に静かに眠っている。
付き添うプレジーが息を飲む様子がわかるほどに、彼女は儚く美しい‥‥‥
「お母さん、折角、来たのにまた眠っているのね、お母さんが提案した小麦が収穫できたのよ。ケルフが自信たっぷりに持たせてくれたの、目覚めたら食べさせてもらってね」
ホーリーは、ミルサーチの魂はここにないと感じ、もうすぐ、この世界の崩壊が本格的に始まる予感がする。今日の訪問の目的は、その話をする為だったが、少し遅かったようだ。
自然に涙が頬を濡らした。
「ホーリー、ミルサーチさんは寝ているだけだよ。きっと、また、目を開けて笑ってくれる。大丈夫だから泣かないで‥‥」と、プレジーは何度もホーリーの涙を拭いて慰めてくれるが、ホーリーはシクシク泣くしか出来なかった。
面会の後、先程の神官にホーリータウンへの許可を出した。
「王都に何かあった場合は、貴族院の平民用の馬房に移動魔法陣がございます。避難先のひとつになればいいと思います。このような事を頼むのはお門違いかも知れませんが、母の事、どうぞ、よろしくお願いします」
「わかりました、あなたのお気持ちは伝わるでしょう」




