ホーリーが消えた貴族学校③
第45章
いつもの様にお茶を飲み、女神像を脳内で完成させていると、ケルフが話しかけて来た。
「フェリクス先生、ホーリーが魔力欠乏症に罹って当分の間、お休みしますので、僕もホーリーが戻るまで、土魔法と緑魔法の教室で勉強する事にします」との事だった。
「ホーリーは、どうして魔力欠乏症になったのだ?妖精の彫刻が出来上がったのか?」
「‥‥‥、神殿で古代数式を写している時になったそうです」
「神殿?ミルサーチさんに何かあったのか?」
「いいえ、アガシー先生の用事です。僕はこの前のテストで本が貰えなかったので、これからは入室できなくなりましたが、麦や他の作物が心配なので、鑑定の授業を少しでも進めようと思います」
「神殿、神殿か‥‥」と、振り返った時にはケルフとプレジーの姿はなかった。逃げたな‥‥
◇◇◇◇◇◇
屋敷に戻りマリアにホーリーの話をして、見舞いの品の準備をさせていると、家令がやって来て、王宮からの呼び出しだと告げる。
前回の伝令よりは驚きが少ないのは、普通の手紙での招集だったからだ。
「では、行って来る」家令やメイド達に見送られ、ジモールが馬車を引き、ユルが従者につく、王宮では大勢の貴族が集まって、国王陛下の登場を待っていたが、登場したのは王妃と宰相だった。
「国王陛下が魔力欠乏症に罹り、しばらく政務につく事が出来なくなりました。その為、宰相や大臣たちと話し合い、領土に戻っている家門の責任者は王都に戻るように伝達して下さい」
国王陛下の膨大な魔力が無くなったのだから、当然と言えば当然だな、両親と連絡が取れても4、5日の猶予はある、貴族学校の生徒たちにも連絡しなくてはと思っていると、貴族学校は事実上の閉鎖になった。生徒を地方に戻すようだ。王都に魔力の多い貴族を集め、地方は切り捨てるつもりか?
それにしても、ホーリーも魔力欠乏症、この前、訪ねて来た帝国の友人からの情報では、第1皇子とその側近も魔力欠乏症、そして、国王陛下までもが魔力欠乏症に罹った。そう言えば、ミルサーチさんも魔力欠乏症で、長い間、眠りについていたようだが、どうして、魔力欠乏症になるのかは解明されていない。
壇上に居る第2皇子の顔は、蒼白に近い、まだ、12、3歳で、国王陛下に何かあった場合は、彼がこの国の国王になる事は間違いない。その重圧は計り知れないな‥‥可哀そうに
◇◇◇◇◇◇
屋敷に戻ると、家令に両親が戻ってくることを伝えると、翌日から、屋敷内は賑やかになる。母は華やかな事が好きな人で、兄上もそうだ。父上はその様な母上に興味がなく、執務室で過ごす事が好きなようだ。
好きなだけで、仕事ができるとは限らない。短い間に帳簿の不具合がいくつも見つかったからだ。平民のホーリーやケルフ達の方が、仕事ができるのではないかと思ったくらいだ。しかし、波風を立てる事は面倒だと思っている為に、あえて言う事はない。
1週間後に両親が戻り、簡単な引継ぎを行う。話題は殆どが王都の貴族の話と、留学中の兄上の話になる為に、両親に代わり領土の戻る事を提案した。ホーリーとケルフ達も教室に現われない、暇なのだ。
マリアを残して、ジモールとユルを連れて領土に戻る旅に出る。各地にある平民神殿を回る旅だ。
「坊ちゃん、マリアさんの顔が怖かったですね」
「ああ、まるで、僕達が逃げ出したように怒ってましたね。裏切り者って!顔に書いてありました」
「マリアは、間違っているんだよ。王都より安全な場所はない、それは断言できる事実だ」
「坊ちゃん、本当に領土には戻らなくてよろしいのですか?」
「ああ、あそこは危険だ、その内消滅する。それに辺境の田舎の神殿だったら、貴族を判定する魔法陣もなく女神像を見れるかもしれないだろう」
「でも、平民神殿は、奉納の為の神殿ですよ。領主が管理しているのでそれはないと思いますよ」
「見れなくてもいい、各地を、のんびり回って、最後にホーリーのお見舞いに向かえばいいさ、折角、マリアが見舞いの品を用意してくれたんだ、旅立ってしまえば理由は後からついて来る。最後の旅だと思って楽しもう!!」
「坊ちゃん‥‥」
◇◇◇◇◇◇
無計画な旅だが、最初に向かった場所はペーター家があった場所だ。ミルサーチさんの魔力をすべて奪いながら消滅した領土。隣の領土との境は見事に表れていて、消滅と言う言葉が相応しく足元が震えるのがわかる。近くの村に住む人に話を聞くと、農民は少数ながら保護され、この村でも暮らしていると話してくれた。
「保護された農民たちに話を聞く事が出来ますか?」
「彼らは怯えて話せないと思うよ、酷い領主だったようで、税も高くてみんな痩せていたからね」
「‥‥‥、この辺りに神殿はありますか?」
「神殿?聞いたこともないな~~」
「ありがとうございます」
伯爵の領地は反対方向でここから何日もかかったが、途中で平民神殿を2カ所発見できた。お貴族様は入れないと、近づいただけで神官に呼び止められて、丁寧に断られた。
従者2人も下級貴族の為、あっさり断られた。
「僕たちは、ホーリーよりも魔力が少ないですけど、どうしてでしょうかね?」とジモールは言う。
「そこは不思議なんだよ。ホーリーはペーター家の戸籍に記載されていた。養子だとしても一応貴族にあたるだろう?それに魔力持ちだ。しかし、ペーター家は没落し廃爵した時から平民になる。僕も廃爵したら平民神殿に入れるのか?」
「そんな恐ろしい考えは止めて下さい。マリアさんが気絶します」
「そうだよな、この世の中で、僕が貴族以外で食べて行けるとは思ってもいないよ」
「では、貴族らしく次に町では少し綺麗な場所に泊まろうか?少し休憩を入れてのんびりしよう」
フェリクス一行は、辺境の街についた、この街の石畳は素晴らしく街は王都のように清潔で美しい。
「坊ちゃん、カフェも有りますよ、寄りますか?」
「そうだな、少し甘い物を頂こうか、マリアがいればどこでも甘い菓子が用意されていたがな」
「すいません、気が利かなくて」
「まぁ、いい、ここは素晴らしいぞ、街中に彫刻が飾られている。当分、ここで過ごすか?」
「そうですね、馬も休ませましょう」
それから、フェリクス一行は街を探索し、神殿で断られ、毎日カフェに入り浸りのんびり過ごした。
◇◇◇◇◇◇
「フェリクス先生、フェリクス先生ではないですか?」と女子学生に話しかけられるまでは、
「え~~と、君は僕の生徒だったかな?卒業生には見えないが?」
「違います。2回生でした」
「ああ、君の家はこの領土だったのか?」
「はい、領主の娘のアナベルです。兄は、フェリクス先生のお兄様と一緒に帝国に留学しています」
「先生!!今、帝国が大変なようですが、兄は大丈夫なのでしょうか?」
「???ごめん、僕は旅に出ていて王都の情報が得られないんだ。帝国はどうした?まさか滅亡したのか?」
「ち、ち、違います。両親たちは王都に呼ばれ、旅たち、その後帝国が属国の吸収を始めたと聞き、叔父上までも王都に向かいました。私とグレイは従妹同士で貴族学校から領土に戻って来ていて、毎日、心配で、心配でどうしたらいいかわかりません、兄上は大丈夫だと思いますか?」
「‥‥君の兄上の名前は何ていうんだ」
「ミスドルです」
「ミスドルか、彼なら元気だと帝国の友人から聞いたよ。安心したまえ、しかし、僕がここで話した事は秘密にして欲しい。わかるかい?」
アナベルはその場で泣きながら何度も頷き、「ありがとうございます、ありがとうございます」と言い続けた。




