ホーリーが消えた貴族学校②
第44章
室内は重い空気が流れ、第2皇子は次の質問が出てこない、ルーツィは、持っているペンを止めて、
「第1皇子が倒れる前に、帝国で何をしていたか、わかりますか?」と質問を開始した。
「僕は、第1皇子とご一緒に貴族学校を卒業し、そのまま留学に同行した、いわゆる下位の側近でした。帝国の授業について行くのも苦労しまして、お役に立つのは、数合わせの時くらいで、ずっと、第1皇子が帝国て何をしていたかは知りませんでした」
「‥‥兄上は何かを画策していたのか?」
「第2皇子はご存じないのですか?僕が国王陛下のご命令だと聞いたのは、第1皇子が倒れる前日です」
「陛下と兄上は帝国で何をしていたんだ?」
「魔力持ちの奴隷の買取です‥‥」
◇◇◇◇◇◇
あの日、ミスドルは第1皇子の側近と一緒に街に出た。帝国の王都では雪が降る事などなく、国王陛下は魔力を使い雪雲を消滅させたようだが、外気温は元に戻らなかった。
こんな寒い日、第1皇子はどこに向かうのかと思っていると、下町の薄汚れた店に入って行った。
入店前に、強力な「他言無用」魔術契約を結んで、その契約は親や親族にも及ぶ魔術契約で、それから身動きができなくなった。
店内に入るとひとりの側近が第1皇子に報告する、
「第1皇子、ここまで気温が下がりますと国に送り出す前に死んでしまいます。どうしますか?」
ミスドルは、そこで見た無残な様子を忘れる事は出来ないだろうと、その時、思った。薄汚れた檻に子供たちが入れられていたのだ!それも人ではない‥‥
「か、彼らはどうしてこのような事に‥‥、他の国の‥‥、どうして‥‥」
「我が国の魔力持ちの人口は減少するばかりだが、ここ帝国もそうだ。しかし、帝国は力があり、他国からの留学も多く、色々な人種も集まりやすいんだ。そこで、帝国ではこのような交易も行っているのだよ。父上からの指示で皇室留学中に沢山の奴隷を買い付け国に送る。それが私の仕事だ」
「君は辺境の出身だったよな。寒い地方ではどのように生き延びている?何か工夫はないか?服を着せ、ストーブを焚いたが、ここ数日で半数以上が減った。だから、知恵を借りようと思ってな。この冬を越さなくては国に移動できない」
「か、か、彼らは暖かい国から来たのではないですか?気温の差や食べ物も違いますし、環境もひどく、ストレスも‥‥」何とか環境を改善して欲しくて色々提案したが、
「君は平民の生活を知らないのではないか?平民はどこでもこのように生活しているらしいぞ」
(そんなはずない、僕の領土の平民たちは、凍える事もなく、家庭を持ち幸せに暮らしている)
「今は、いい助言が思い浮かびません、明日、またここを訪ね改善します」と、言うしかなかった。
その日の夜は、涙が止まらずに胃の中の物を全部吐いた。自国の家族を思うと誰にも相談できなかった。ただ、次の日、第1皇子も側近たちも魔力欠乏症に罹り、目を覚まさなかったので、僕は、第1皇子達が目覚める前に、あの店に向かい、ただすべての鍵を開けた。魔術契約で話す事が出来ない為に、彼らに自由を伝える事も出来なかった。
「一族や家族が心配で、それ以上は出来ませんでした」と頭を下に向けたままミスドルは話した。
「だから、兄上たちが消滅し、「他言無用」の契約魔術がなくなりこの国に戻れたと言う事か?」
「はい、店に捉えられていたのは、狼族の国の子供達でした。王都のアカデミーには、大勢の国から留学生が来ていますので、僕も狼族は知っていました」
「それで、帝国はどうなっている?」
「第2皇子は、その‥‥、」
「兄上の事か?驚かないのか?悲しくないのか?と聞きたいのか?」
「‥‥‥」
「僕は、皇室とその取り巻きが、諸悪の根源だと思っている」
ルーツィもミスドルも信じられない顔で第2皇子に目を向けた。(本心を言い過ぎだ)
「僕は、無意味な王宮の会議に出て思ったんだが、魔力不足、古代魔法、魔法陣も関係なく消滅が始まったのではないかと、この国で消滅が始まったのも魔力奴隷の発見が最初で、次に亜人の魔力奴隷が見つかった領土の一部も消滅した。君の領土の隣の領土だ。平民の多くは君の領土に飛ばされ、難民として生活しているが、前の生活には戻りたくないようで落ち着いているよ、君の領土は、本当に良い領土なのだろう」
「それから、伯爵の屋敷に残った使用人たちの証言が、君の証言と一致している。伯爵家一族と地下で亜人たちに関わっていた使用人たちは砂が蒸発するように消えたとね」
「第2皇子、それは、もう、神の領域ではないでしょうか?」
◇◇◇◇◇◇
「しかし、僕は魔力不足は消滅に関係すると思います。帝国では魔法塔がという組織があり、魔力量を表す塔の魔力量がめっきり減っているのです。魔法塔は、貴族でも平民でも確認できる高い塔です」
「ですから、気象変動は魔力量の低下だと、帝国のすべての国民は信じています」
「それなのに、領土を切り離し、属国を吸収しているのか?それこそ魔力の使い過ぎではないか?」
「それは、帝国の皇室内での事情があるのです」
「‥‥、まさか魔力奴隷?」
「いいえ、国王陛下の愛していた王妃が亡くなったのです」
「もしかして、王妃がお亡くなりになって、魔力不足が起こっているのか?」
「それが、なんとも言えないです。王妃は随分前に離婚して帰国していますので、わかりません」
「その様な事、小国の皇族留学生の側近には調べられる訳がありませんよ、第2皇子」
「では、ルーツィは、もうすぐ留学予定だが、出国するのか?行き先はどの国にしたの?帝国?」
「行きませんよ!国がこのような状況で、第2皇子が留学する時にお供します」
「僕は、出国していた方がいいと思うよ、そうすれば情報が‥‥」
「皇子‥‥勘弁してください」
◇◇◇◇◇◇
それから、第2皇子はミスドルに向き合い真剣に聞く、
「それで、君が見て来て、これからの帝国との交易はどうなると思う?」
「なくなると思われます。王妃の国の吸収が始まってから、多くの国の留学生も商人達も出国して行きました。今まで帝国は交易の中心で、流通の要でしたが、その姿はもうありません、ですから、この国で、物資を待っていても来ないと思います」
「そうか、事情がわからず、大量にワインを出荷したばかりだが、無駄だったようだな‥‥」
「現在、ワインなどは帝国でも手に入りにくいです」
「はぁ~~、己の無知を悔やむな‥‥」
「仕方がありませんよ。帝国の情報が入りにくくなってましたから」
「所で、君はどうやってワイバーンを入手できたの?帝国内で出国が続いている状況での入手は困難ではなかった?」
「はい、空室だらけの寮内で立ちすくんでいると、狼族の学生、近づいて来て、譲って下さったのです。あの魔力奴隷の中には、手違いで皇族の子供も含まれていたようで、ずっとこちらの様子をうかがっていたらしく、第1皇子が消えてしまった事も、そして、僕が1人だけ残り、子供達を助けた事も知られていました」
「そう、それは良かったが、狼族の国から戦争を仕掛けられても、文句は言えない状況で助けてくれたんだ。君の人徳のおかげだ」
「はぁ、まぁ、狼族は、奴隷産業が進んでいるようで‥‥、それは、なんとも言えません‥‥」
「第2皇子!第2皇子の仮説が正しければ、その様な国は、最初に滅亡しているのではないでしょうか?」
「ルーツィ、僕もバカではない、今の話で、僕もわかったよ!やはり、魔法陣と古代数式の解析だ!」
「すいません」
「あのぅ、第2皇子、僕は、家族の元に戻ってもいいですか?」
「‥‥‥、少し時間をもらえないだろうか?家族の心配はしなくてもいい、君の領土に難民が押し寄せているが、君の妹は難民たちと農業を始めようとしている。緑魔法を習い、食料自給率をあげようとしている」
「あの、固い土でですか?」
「そうだ、僕たちも援助をしているし、バーグ先生も協力して下さっている。だから、もうしばらくは王都に居てくれないか?」
「しかし、どこに匿いますか?ワイバーンもいますし‥‥」とルーツィは言う。
「僕は、ここがいいのですが、ワイバーンの面倒も見れますし、なぜか大根や芋もあってワイバーンの餌にも困りません」
「‥‥‥、ここは、結界もありワイバーンを隠すには丁度いいが、アレクサンダーの馬房だからな、どうするか‥‥」
「ミスドル、ここは、ホーリーと言う平民学生の馬房で、彼女は魔馬を特に可愛がっていて、ここの馬房は特別なんだよ。彼女の村にもいける移動魔法陣も併設されていて、今は病欠でいないが‥‥」
「第2皇子、結界を隣の馬房まで広げるのはどうでしょうか?それと、ケルフ達の隣の部屋が空いていますので、この移動魔法陣を利用して部屋までつなげましょう。いくら何でも寝る場所ではありません」
「そうだな、小屋の餌は分けてもらうように話して、ワイバーンの寝床は隣に移せるか?」
「はい、出来ます。後、干し草の中に魔石が落ちていましたけど?」
「ああ、拾って置いてくれ、ウサギのだな、アレクサンダー、もしかして食べてるのか?」




