ホーリーが消えた貴族学校①
第43章
「第2皇子、ホーリーに付けた護衛から連絡が入りました。彼女が魔力欠乏症で倒れたようです」
すぐにルーツィを神殿に向かわせ、報告を待っていると、数式を写す時に魔力を使い過ぎて重度の魔力欠乏症に陥り、すでに、ホーリータウンへ戻ったとの事だった。
しかし、問題は、ホーリーが調べて来た数式だった。
その数式を持ってアガシー先生を訪ねると、リン氏の力が必要だと言われ、リン氏にどうにか協力して欲しいと頼み込んだが、王都には行けないと断られ、まったく、魔法陣の解析が進まない。
アガシー先生は、ヤレヤレと言う感じで、
「僕の生徒たちもこの数式の法則を探していますが、時間がかかると思われます。ホーリーは、すべて正確に転写して来たのでしょうか?彼女と話をしたいのですが、通信魔術具が繋がりません」
「平民神殿内には魔術具を持ち込む事が出来ず、すべて外したようだ」
「彼女は、本当に1週間で戻ってくるのですよね?」
「神官が言うには、1週間眠りにつけば、魔力欠乏症は寛解するらしい。その後、しばらくは魔力制限をしながら暮らせば、完治すると聞いた。だから、僕は、1ケ月間は無理をさせないつもりだ」
「平民は、自分の中の魔力をコントロールする習慣を身につけていないだろう?貴族学校に戻ったらそこから教えていかなければならない‥‥困った事だ」
「‥‥‥、失礼ながら、皇子、我々にそのような時間は残っているのですか?」
「多分‥‥」
◇◇◇◇◇◇
ホーリータウンは閉鎖され、こちらからの通信は遮断された状態が1ケ月以上も続いたが、貴族学校の日常は平穏に続いていた。あの日、王宮からの帰宅命令が下さられるまでは‥‥、
「国王陛下は意識不明、王宮の魔力が低下しています。第2皇子は直ぐにお戻りください」と伝令!
「‥‥‥」何も言えなかった。貴族学校で立ちすくみ、側近たちと王宮に向かう以外にできる事がなかったのだ。
王妃は、直ぐに領土にいる貴族たちに王都へ戻るように命令を出し、貴族学校の学生と平民は領土や屋敷に戻るように発表するようにと、第2皇子に指示を出した。
そんな中、兄上の件を知らない側近たちは、母上に第1皇子の帰還を迫ったが、今、帝国では内乱が予想されていて出国が出来ないと、詰め寄る貴族たちを説得し続けた。
その後、地方で領土を管理している貴族が王都に戻ってくると、毎日のように会議が入り貴族学校の事も、ホーリーの事も忘れていたが、ある日、貴族学校を任せているルーツィが、アガシー先生が研究所を閉鎖し、王都を出てプラザ町へと出発したと報告に来た。
「彼は、領土持ちではないのか?‥‥まさか、王妃の命令に背くのか?」
「爵位を息子に渡したようです」
「ああ、そうか、でも、リン氏は、アガシー先生を受け入れてくれたのか?」
「プラザ町には立派な研究所があるようで、アガシー先生が、これまで発行していた本をすべて持ち込む事で話がついたようです」
「‥‥フェリクス先生はどうした?彼はホーリータウンに入れたか?」
「いいえ、ご両親が王都の屋敷に戻った為に、フェリクス先生が領土に向かいました」
「‥‥‥、そうか」
「では、バーグ先生は?」
「バーグ先生は、奥様が大切にしていたあの温室を離れる事はないのでしょう。毎日、温室に出向いています。すでに爵位は息子や孫に譲っていますし、ホーリーが戻るのを待っているように思えます」
「そうか、彼女を待っている人が1人でも残ってくれた事に感謝すると伝えてくれ」
「はい」
◇◇◇◇◇◇
国王陛下の容態は落ち着き始め、皇族や貴族が安堵した後、帝国が属国の吸収を始めたと連絡が入った。
「どういう事だ。吸収とは予想がつかない、ポータルを繋げただけではないのか?」
帝国ではポータルの研究が進んでいて、遠い国に人や物資を送る事が可能だと聞いたことがある。
「ポータルが成功していたら、属国を引き寄せる事はしないだろう?」とある大臣は言う。
「我が国は属国ではないが、その国のように引き込まれるのか?その後はどうなるのだ?」頭を抱えた大臣は叫ぶ。
「属国では物資不足が深刻らしい、そうなると我が国に回ってくる物資がないのでは?この前、消えた穀倉地帯がここで響いてきますな‥‥」冷静な宰相は言う。
王妃と宰相、大臣たちは、情報が錯綜している事を何日も議論して、解決策がなく無駄な時間が過ぎているが、末席に座っている第2皇子は、黙って聞いている。
長い話し合いが終了し、王宮内の廊下を歩いていると、ルーツィがいつの間にか隣に寄り添う。
「第2皇子、会議で何か進展はございましたか?」
「ない、せめて母上が第1皇子の件を公表してくれたら、もっと違う方向に進むとは思うが、進言しても受け入れてもらえない。国王陛下だけでなく兄上までも、眠ったままだとは知られたくないようだ」
「そうですか、王妃には宰相が付いてますので、手強いですね。」
「でも、第2皇子、朗報ですよ。第1皇子の側近の1人が、秘密裏に戻って来ました」
「え?誰だ、フェリクス先生の兄上か?」
「いいえ、ミスドルです」
「どうやって、戻ったのだ。ミスドルとはどこの家門だ?」
「鉱山地域の出身者で、例のフリーネ嬢の隣の領土です。今、彼を貴族学校で匿っています」
「辺境出身者だな、どうやって戻った?ミスドルは、飛べるほどの魔力が残っていたのか?」
「ええ、彼は嫡男で魔力が多く、ワイバーンで戻って来ました」
「そ、それは凄いな、しかし、ワイバーンなら大きくて目立っただろう?誰かに見られている可能性はないのか?」
「夜中でしたし、それほどの大きさでもなかったので、馬房に隠してあります」
「馬房?なんだか嫌な予感がするが、彼女の馬房か?」
「そうです。あそこは第2皇子の移動魔法陣がある為に、関係者以外は立ち入り禁止ですし、ホーリーの魔馬がいる為に、魔力が存在しても疑われませんので、いい隠れ家です」
「‥‥今晩、そちらに移動するとして、しかし、それまで彼を馬房で隠し通せるか?」
「実は、アレクサンダーの馬房ですが、小屋も併設されてまして、芋や大根など野菜の他に、椅子とテーブル、魔石コンロ、トイレ、水瓶、氷室まで用意されてました」
「彼女は平民学生だが、まさか、そこで暮らしていたのではないだろうな?」
「それは、違うと思いますが、それほどアレクサンダーを大切にしていたのでしょう。意外に広くゆっくりできる空間のようで、ミスドルがそこで待っています」
「馬房でか?貴族の子息が‥‥」
「はい、馬房でです」
◇◇◇◇◇◇
第2皇子は、剣士の側近のシモークを連れて王宮を抜けたし、貴族学校に向かった。
「第2皇子、本当にこのような場所で何をなさるのですか?王妃はよろしいのではないでしょうか?」
「シモーク、君とは「他言無用」の魔術契約を結んだ。君が、誰かに密告した場合はわかるよね?その誰かも‥‥」
「‥‥‥、勿論、わかっています。小屋の前で警護にあたり、目を閉じ、耳を塞ぎます」
小屋のドアを開けると、ミスドルは立ち上がり、正式な挨拶を行い、彼がこの国の貴族の子息であると証明した。
「座って話を聞こう、丁度、椅子が3脚ある」(このような時に、あの3人の姿が浮かんだ)
「それで、帝国はどうなっているのか?兄上は目を覚ましたか?」
「はい、現在の帝国は、この国と同じように魔力不足に陥っていまして、気温が急激に低下しています。その為、魔法塔は全力を挙げ魔力確保に動いたようで、第1皇子とその側近は壊滅しました」
「壊滅とは?それでは、兄上はもう‥‥」
「私が出国する時、留学にお供した側近も魔力欠乏症により眠りについていましたが、属国の吸収が始まると、みんな砂のように体が蒸発していきました」
「消えたのです。まるで空気の中に戻るような勢いで消えて無くなりました」
「そ、それは、この国で起きている現象と同じ‥‥だ」




