貴族学校2回生⑩
第40章
病欠2日目、ホーリーとプレジーは、ミルサーチのお見舞いに向かう。ミルサーチの診療所は王宮内に有る貴族の診療所だが、派遣されてくる神官は、平民神殿から派遣されてくる。
どこに行っても明白な身分差は存在していると言う事だ。しかし、平民神殿の方が彼女には都合がいいようで、ここでの文句は出て来ない。
「久しぶりね。元気だった?プレジーはどうしたの?」
「プレジーは、皇子達に持たされた多くの品物を、診療所の皆さんに配りに行ったよ」
「フェリクス先生には内緒で来たから、そこの所はよろしくね」
「わかったわ、それでどう?貴族学校は楽しい?」
「まぁね、今の所は普通に過ごしてます」
「あなたが訪ねて来るとは思ってもいなかったから、貴族学校で何かあったの?」
「帝国が一部の領土を切り離した為に、貴族学校が大騒ぎになっていて、その関係で、神殿内に古代の数式が書かれている資料が残っていたら見せて欲しと思って来ました。ダメかな、どう思う?」
「そう、帝国が‥‥、神殿の方は大丈夫だと思うわ、でも、あなた、古代の数式を解けるの?」
「見て見ないとわからないけど、私が転生して来た世界は、比較的ぬるい世界で、任務も薬草を探すとか、聖女の見守りとか簡単な任務で、困った事に、どこでも勉強を頑張った記憶がないのよ」
「ふふふ、まぁ、大変ね。それで、ここでの勉強はどう?」
「もっと、魔術がわかればいいのだろうけど、勉強は難しいわ、特に数式は苦手みたい」
「そう?随分と楽しそうに感じるけど、勉強も頑張りなさい。所で、このウサギの置物はホーリーが作ったの?」
「へへへ、そうなの、お見舞いです。可愛いでしょ女子学生には人気なのよ。フェリクス先生の興味は引けなかったけどね」
「そうそう、フェリクス先生がさぁ~~」
2人は本当の親子のように、暖かい風が吹く病室で日常の出来事を話していると、プレジーが、戻って来て、ミルサーチに照れながら挨拶をして、ケルフと2人で用意したお見舞いを渡す。
「ミルサーチさんの顔色が良くて、安心しました。これはケルフと僕からです」
真っ赤になって、お菓子と花束を渡すプレジーに、ミルサーチが嬉しそうに微笑み、ホーリーは冷静に聞く、
「どうだった?神殿の資料は見せてもらえそう?」
「うん、診療所に来ていた神官様に聞いたら、ミルサーチさんの身内の方だけを、特別に許可を出してくれるって、言われた。僕が見ても多分わからないけど、数字を写すくらいは出来たのにすまない」
「大丈夫、どうにかなる、写すだけだもん、代筆屋の実力を見せてあげるわ、それに、解いて帰って来いと言われた訳ではないし‥‥」
ホーリーは、意気込みを伝え、ミルサーチに、
「お母さん、本当はもっと長くいたいけど、第2皇子の命令だから、もう、行くね。また来るから元気でね」
「僕も、今度はケルフと一緒に来ます。お元気で、失礼します」と挨拶して2人は平民神殿へ向かう。
「ホーリー、大丈夫?久しぶりにお母さんに会えたのに時間が短すぎるよね」
「でも、会えただけでも嬉しい、それに元気そうだったでしょ?」
「ああ、ケルフも心配してたから、安心したよ。フェリクス先生にお見舞いの件がバレるのを心配して、ケルフを芸術教室に出席させろって、第2皇子の命令だから仕方がないけど‥‥」
「私たちが平民神殿に向かう事がバレる方が大変でしょ?先生、絶対について行くって主張しそうだもの‥‥それに、身分を偽っても貴族がわかるらしいのよ。私みたいな魔力持ちは大丈夫なんだけど、その違いはどうなっているのかしらね?平民神殿は、平民の魔力持ちが奉納に来る場所でしょ?貴族は魔力の奉納はしないのかしら?」
「今は、どこも魔力不足だから、お貴族様は、お金で奉納するのでは?フェリクス先生はこの診療所に寄付しているみたいだよ」
「ねぇ、プレジーの情報源って、もしかしたらマリアさん?」
「え!!どうして、わかったの?」
「だって、今回のお花やお菓子のチョイスがマリアさんらしいし、情報の集め方も偏ってる」
「ホーリー、マリアさんは凄い人なんだよ。僕は、フェリクス先生の1番の従者はマリアさんだと思う」
「まぁ、そうでしょう。あの先生が連れて歩くくらい信用しているんだからね」
「それより、魔術具は全部外した?資料室に持ち込み禁止って言われたからね」
「わかってる。魔術具が付いていると、神殿にも入れないらしいよ。フェリクス先生に女神像の映像を見せたかったのに、残念だね」
「映像を見せたら、今日、ここに来た事がバレるのでは?」
「‥‥‥」
◇◇◇◇◇◇
あまり季節を感じない王都でも、外出すると気持ちが和む、プレジーは、きっと、ホーリータウンの小麦の心配をしているのだろうな~などと思いながら、立派な診療所から平民神殿まで歩く。
「ほら、ホーリー、アレクサンダーが見えるよ。大人しく待っているみたいだね」
ここまでの行き方がわからなかった為に、第2皇子が用意した護衛と一緒に並走して来たアレクサンダーだが、その馬たちと足並みが合わずに、不機嫌で、ここまで来るのが非常に大変だったのだ。
「プレジー、私が神殿に入っている間、アレクサンダーについてあげてくれない?」
「良いけど、大丈夫なのか?ここから結構距離があるぞ」
「大丈夫、何かあったらアレクサンダーを呼ぶから、この距離ならわかるはずよ。賢いから」
「そうか、昼食はどうする?」
「さっき、お母さんの所でお菓子を頂いたから、プレジーだけ先に食べていて、箱馬車のお弁当があるでしょ」
「知っている、第2皇子が用意してくれたんだろう?真っ直ぐ帰って来るように‥‥」
「あの人そう言う所、抜かりがないのよね。寄り道したかったのに」
「帰りも護衛付きだ。諦めろ」
プレジーと別れて、しばらく歩くと神殿が見えて来た。通っていた神殿と似た感じで馴染みがある。入り口で待っていてくれた神官は、若い神官で、案内を頼まれたらしい。
「今日は、どうぞよろしくお願いします」と頭を下げる。
「こちらこそ、ミルサーチさんのお子さんとお聞きしました。貴族学校の2回生でいらっしゃるのですね。2年目を迎えられる学生は珍しいです」
「神官様も貴族学校に通われたのですか?」
「はい、私が通っていた頃は数名の平民が在籍していましたが、長くても1年で退学していました」
「‥‥神官様は?」
「はい、1年で退学です」
「そうですか、私は、たまたま、いい先生に巡り合えたのでしょう」
「フェリクス先生ですか?」
「よくご存じですね?」
「ここでは有名ですから‥‥」
(え?どんな風に、とは、聞けなかった)
「女神様の像は、どの神殿でも同じなのですね?」
「はい、平民神殿には必ず女神様がいらっしゃいます」
(‥‥、貴族神殿にはどうしてないのですか?とは、聞けなかった)
「この先に、資料室がございます。あの魔石は、奉納と同じシステムになっておりますので、魔石に奉納してドアを開けて下さい。私の案内はここまでになります」
「ありがとうございます」と頭を下げて神官様とドアの前で別れた。
大きなドアの前に立ち、魔石に魔力を吸わせると、ドア一面に魔法陣が現れて、『カチッ』と言う音がして、ドアが開く、当然だが、中には誰もいなくて、このままドアを閉める事を躊躇う。
「大丈夫、閉じ込められても第2皇子の権限で探し出してくれるはずだ。プレジー、アレクサンダー何かあったら助けに来てね」と願いながらドアを閉めて中に入る。
資料室の中は想像通りで、小窓から入る光の線にはキラキラと埃が映し出され、冷たい空気が頬を撫でる。
「静かだ~、ガタガタ震えている場合ではない。文献を探さなくては」
書庫は何列にも並び、丁寧に分別されている様で、見て回るのは大変ではない。ドアから書庫を通り抜け進んで行くと、大きなテーブルがあり、椅子は置いてなかったが、そのテーブルの上には、既に古代数式の本が重なって置いてあった。
「誰が用意してくれたの?」
ホーリーは立ったまま、紙とペンを出し、最初の本をめくる。
「これって完全に数学だわ、古代数式って数学だったの?でも、私、数学ってどこで習ったのかしら?どうして、これらがわかるの?いつの転生‥‥思い出せない」




