貴族学校2回生⑧
第38章
翌日、またもやホーリータウンに戻る。ワインを運び出す為だ。マコーミットさんが連れて来た下級文官たちは、静かにその時を待っていた。午前5時、アレクサンダーの馬房で待ち合わせ、『早くない?』
「ホーリー、おはよう、良く起きられたね?」
「おはよう、全然、起きてないよ。眠くて死にそうだよ」
「でも、この時間に出発しないと、授業に遅れるだろ?あ!叔父さん、おはようございます」
「早いね。でも、移動魔法陣が僕の魔力で動くか、実験もしてみたかったから助かるよ」
マコーミットさんは、貴族学校の職員に転職して、このようにカーズ村とホーリータウンの担当になっている。スタンピードの功績で叙爵され男爵の地位を頂いたらしい。この世界は、爵位がないと部下に指示も出せないので、有難いと言っていた。
魔法陣を発動する為に魔力は欠かせないが、残念な事にマコーミットさんには魔石の補助が必要だったようだ。
「1人では難しいか‥‥」
「でも、今は、魔石はいっぱいあるし、僕も手伝うよ。大丈夫、早く行こう!」とケルフは慰める。
貴族学校が始まる前に、ホーリーは、マコーミットさんに許可を出した。この許可を出すと言う行為は、カーズ村の人たちがホーリータウンに入って来れる事と一緒らしい。許可を得た人が同行を認めると一緒に移動できるらしい。曖昧な気もするが、そうでなければ移動魔法陣を使うたびにホーリーが許可を出さなくてはなれなくなり、大変な事になるだろう?と、フェリクス先生が教えてくれた。
ただ、ホーリータウンはホーリー自身が結界を張っているので、時間の規制、人物の規制、不在時の使用制限が出来る。その為、今日は使用制限を解くために同行している。
あの後、マコーミットさんとケルフは協力して、移動魔法陣を発動させる事に成功し、無事、ホーリータウンに到着する事が出来た。
時間がない為に、カーズ村には知らせていないが、ケルフとプレジーは、家族に会いたそうに門を見ている。優しい顔したマコーミットさんが肩を叩き、ワインの運び出しを催促している。
ホーリーに会いたい家族は存在していないが、家の中に入るとフェリクス先生の壁の絵が迎えてくれて、植木鉢で健気に帰りを待ってくれた花や、昼寝用の動く椅子までもが愛しく感じる。
みんなが運び出しをしている間、この家で英気を養う事が出来て幸せを感じた。
「ホーリー、野菜は持って行くか?」とプレジーが聞きに来たので、
「勿論、お願いします。新鮮なのがいいな~~」
「まったく、わがままだな‥‥」
「さぁ!戻るよ~~」とケルフが大声で呼びかけ、ホーリーは、名残惜しそうに部屋を見渡し、貴族学校に戻って行った。
◇◇◇◇◇◇
バーグ先生の温室での花の鑑定を進めつつ、リンさんと繋がる為に、通信魔術と移動魔術の解読に取り掛かっている。
また、フェリクス先生の教室では、石膏で魔石の着いたウサギを制作してみた。氷魔法が少し加わり、白が少し透けていて、女子の先輩方には人気が出た。かわいいと言ってもらえ、初めて、女子学生と共感できて、嬉しいと浮かれていると、フェリクス先生が近づいてきた。
「この魔石は本物か?」と、フェリクス先生が聞いて来る。
「ええ、そうですよ。いっぱいありますからね」
「君は、魔石の値段が上がっている事は知っているのか?」
「いいえ‥‥」
「魔力不足で、魔石に頼ろうとしている貴族が増えて来ている。わざとスタンピードを起こして魔石を採取している領土も現れたくらいだ」
「それは‥‥」
「そうだ、カーズ村の情報が出回ったんだ。だから、くだらない置物に魔石を付けるのは止めて置け!狙われるぞ!魔石に似たような石を作れるだろう?ほら、あの薄い緑色で十分だ」
「先生!でも、ウサギの置物は、気に入っているからやめませんよ!!」
「ホーリー、君の妖精はどうした?まだ、完成しないのか?」
「先生、人物像は細かいし、‥‥色を付ける為の鑑定がまだ全然終わっていません」
「‥‥‥」
「私より、ケルフの女神像の方がひどいですよ。アレはいいのですか?」
「‥‥‥、目が汚れるので、見ない様にしている。あれこそ、女神に対しての冒涜だ!」
「‥‥‥」
◇◇◇◇◇◇
暫くして、ケルフは、立派な村長になる為に、経営管理、財務などの本を図書館で調べている。その間、ホーリーも、魔術についての勉強をする為に、広大な図書館に通っている。建物は一緒だが、ブーズが違う為に、ホーリーは1人だ。
ケルフは、最初、ホーリーが1人になる事が心配でプレジーを貸しだすつもりだったが、プレジーも将来はケルフを助ける為に、知識が必要になると話し合い別行動となった。
「調べる事があるので仕方ない」とホーリーは、あちこち本棚をまわり、文献探しに精を出す。
「君の探しているのは、この本ではないか?」と長身のスプリンド先輩が話しかけて来た。
その本は、リン・ベルの研究が詰まっている論文で、表紙に描かれている著者はガーター・ペーターになっている。この事実は、最近、知った。
「‥‥‥」
「警戒している?大丈夫、すべて知っているから、そして、君の部屋に仕掛けられた術式の解読も終わっている。リン氏と話がしたいのであろう?僕は手伝う事ができる、どうする?」
「‥‥先輩は、何か誤解しています。確かにリンさんと通信魔術具で話をしたいと思っていましたが、それはすでに解決済みですし、私も自分の部屋の術式の解読は終わっています」
「‥‥では、なぜ、このブースに用がある?」
「そ、それは、言わなくてはいけないのですか?」
「‥‥‥」
「アガシー先生から伝言だ。僕の研究所には、なぜ、ワインが届かないのかだそうだ。アガシー先生の研究所は、貴族院の西側全面だ。行けばわかるから調べる必要もない、ただ、広大な為、君たちを案内するように受付には伝えておこう。では、失礼するよ」
と、言ってその本を置いてスプリンド先輩は去って行った。周りの生徒たちが聞き耳を立てているのを感じ取れたが、その本の内容を確かめる為に、ホーリーは手に取って読み始めた。
『う!!字が汚い!!』代筆屋で働いていたホーリーには解読できない字はないが、これ程汚い字は始めて見た。これは、リンさんの字ではない。リンさんは、プラザ町で色々な事を、ホーリーの持っていた紙に書いて説明してくれた。
これは、ガーターが移したものだ。リンさんとの通信は、交流会で使った魔石を解読してすでに完了している。そして、通信魔術具が繋がれば部屋の術式の解読も教えてもらえた。リン先生は出来の悪い生徒にも親切に指導してくれるいい先生なのだ。
この世界では紙とインクはまだ高級品だが、リンさんは、ホーリーの持っていた紙に疑問も持たなかった。でも、この論文の紙は、ホーリーのトイレットペーパーよりも品質が悪い。いくら年代が違うにしても、貴族が使う紙とは言えない‥‥、まさか、紙までもリンさんから?
まずは、代筆屋として、この論文を清書しよう、解読は後だ。貴族学校に来てから清書のスピードも上がったので、ひたすら持って来た紙に写して行く。時間がない急げ、急げと思いながら続ける。
途中で、プレジーがやって来て、昼食だと告げたが、今日は、食欲がないと断って、閉館時間までに仕上げた。腕も、指も、目も、すべてが痛くて疲労困憊で、ケルフに支えられ図書館を後にした。
「ホーリーどうしたら?図書館でそんなになる?」
「ケルフは、長身のスプリンド先輩を覚えている?」
「ああ、ホーリーが一緒に踊って‥‥」
「そう、あの先輩、彼がアガシー先生がワインを待っているから持って来いって言いに来たの」
「え?」
「明日、貴族学校の西側のアガシー先生の研究所に持って行ってくれる?受付に連絡してあるらしいから運ぶだけ!この通りお願いします。それに多分、明日は病欠するから‥‥、はぁ、カーズ村のワイン大人気だね」
「え?」
「‥‥‥」
「え~~~!!」




