貴族学校2回生④
第34章
ホーリーが気を失った事で、大罪によるお咎めはなくなったらしい。
その日、目が覚めないホーリーは、寮のジェシーさんによって部屋に運び込まれた。その際に、ルーツィからリン会長への抗議文を渡されたジェシーさんも、気絶しそうになったらしい。
朝、目が覚めると、胃の中はスッキリしていて、テーブルの上の小さなお皿には、イチゴが乗っていた。ケルフが届けたに違いない。顔を洗って、いつもの様にパンと果物を少々食べ、お茶を飲み、イチゴを自作の植木鉢に丸ごと植えた。
「緑魔法を習うまでは、腐らず自力で頑張ってね」と、サッと魔力と水を与えた。
今日は、フェリクス先生に、会いに行こう。それから、バーグ先生、アガシー先生でいいかなぁ‥‥
「ホーリー支度は出来た?いつもの場所で待ってる」
「ケルフ、おはよう、すぐ行くね」
2回生になって良かった事は、学生同士で通信魔術具が使えるようになった事だ。去年も欲しかったよ!
2人は、貴族学校の芸術教室の建物の門で待ち合わせる。
「ホーリー、元気になって良かった」とプレジーが話しかける。どうやら、昨日は大変だったらしく、気を失ったホーリーを医師に診てもらい、それから、寮へと送り届けたらしいが、従者が居なかった為に、第2皇子の側近たちが動いたらしいが、それを見て、アガシー先生たちも焦りだして、少し揉めたみたいだ。
「なんで、揉めたの?」
「学生にとって、この騒ぎで第2皇子に名前を覚えられる事は、不名誉な事で、スプリンド先輩が、最終的には、ホーリーを送り届けてくれたんだよ」
「なんと!あの長身男が」
「まぁ、大きいよね‥‥」と、話しながら教室に着いた。
フェリクス先生の教室は、いつもの様子、先輩たちも数人でのんびりしている。
「先生、昨日はお世話になりました」
「ああ、気にするな、どうせケーキをたくさん食べたのだろう?」
「‥‥、はい、そうです」
「緑魔法を覚えてから妖精の製作に入ります。妖精に色を入れたいので‥‥」
「ああ、まぁ、それでいい、ケルフはどうするんだ?」
「僕は、先生に彫刻の魔法を習いたいです。僕の魔力では小さい物しかできないでしょうけど、村に、彫刻を置きたいので、先生に教えて欲しいと思っています」
「いいね、ケルフ、カーズ村に彫刻があったらいいよね。宿屋にも置けるし、カッコいいよ」
「そうか、ケルフは、彫刻に挑戦するか?人物か?動物か?」
「人物で、ミルサーチさんをモデルに作ろうと思います」
「え!!」
「え!!なんで?」
「母さんや妹がミルサーチさんに会いたがっていて、うるさいんだよ。それに、ミルサーチさんって、女神像に似ているだろう?」
「そ、それは、本当か?」
「はい、平民の神殿に、女神像があって、ミルサーチさんに似ていると思いました。ですからイメージするのも簡単です」
「‥‥‥、‥‥‥、先生???」フェリクス先生が応答しない。
「先生!貴族の神殿にはないのですか?」と、ホーリーはフェリクス先生を呼び起こしながら聞く。
「ないな‥‥、平民が貴族の神殿に入れない様に、貴族も平民の神殿には入れないからな‥‥」
「それは、残念ですね。女神像は美しいですよ」ケルフがとどめを刺す。
フェリクス先生は、見たい欲望が抑えられないようで、
「では、どういう物か作ってくれないか?」とケルフに無理難題を突き付ける。
「先生、僕、レンガしか作った事がありません‥‥」
「そうですよ。習う前に作れませんよ!」と、ホーリーも助ける。
フェリクス先生は、見た事がない女神様の彫刻に思いをはせて、適応できなくなったので、緑魔法のバーク先生へ挨拶に向かった。
◇◇◇◇◇◇
「全く、先生ったら、私たちの存在を、完全に忘れてるよね」
「ああ、ずっと、考え込んで動かなくなったからな‥‥、先生、平民の神殿に忍び込みそうだよ」
「所で、バーグ先生の教室は、温室って言っていたけど、調べた?」
「ああ、プレジーが、あの後、調べてくれた」
「なんて、優秀なの」
「なんか、親切に教えてくれた従者が居たらしいよ。よろしくお願いしますって、挨拶されたみたいだ」
「なんと!もしかして、女の子の従者じゃない?」
「ああ、そうらしい」
「ふふふふ」
バーグ先生の教室は、ガラス張りの温室で、地上は花が咲き、上空は木の枝が見え、蝶が踊り、リスたちが遊ぶ、楽園のように美しい。
「バーグ先生、こんにちは、よろしいでしょうか?」
「ああ、昨日は大変だったね。僕とは糞の話をして、アガシー先生の所では吐いて、その後、気絶したらしいね。大丈夫か?」
「先生、良くご存じですね‥‥」
「ああ、第2皇子の側近たちが話してくれたよ」
「‥‥‥」
「ここは、どうだね、君たちには見慣れない花や木が多いだろう?」
「はい、基本、薔薇とユリしかわかりませんので‥‥」
「貴族の令嬢たちは、それでは生きて行けない。花の名前を知らないと、社交界で恥をかくからね」
「まぁ、そうですよね」
「僕はね、長年、彼女たちに、頂いた花束を長持ちさせる魔法や、嫁ぎ先で恥をかかない様に、庭園の作り方などを指導していたんだよ。しかし、これからは、君達のように、作物に関わるようになる。昨日、第2皇子の側近たちからも相談された」
「作物の事をですか?」
「そうだ。それと、今年の2回生は、君たちと2人の令嬢が入る。紹介しよう」
「彼女は、アナベルで、もう一人は、グレイだ。彼女たちの領土は、鉱山が多く採掘できるが、作物は上手く育たない。今までは、隣の領土から買い入れてらしいが、今は、貯蔵庫を開けなくてはならない状況で、僕の故郷でもある為、第2皇子側が、僕の教室で作物の育成を指導して欲しいと要望があった」
「バーグ先生は、それでいいのですか?美しい花に囲まれた授業がしたいのでは?」
「若い頃は、他領の土地に、感心がなかったが、今は、食糧不足、それに、作物にも花が咲くだろう?そのような花も愛おしく思える。まぁ、年を取ったのだろう。王宮で飾られる大輪の花や華やかな花は、もう、私には必要ないように思える。そういう花たちは、若い教師が研究し、教えればいいと、心から思うよ」
「そうなのですか?僕は、作物の花を沢山知っていますから、先生のお手伝いも出来そうですね」
「では、先ず、鑑定の魔法を覚える様にしよう」
「バーグ先生は、鑑定の魔法も教えられるのですか?」
「植物には、毒がつきものだからな。知らないと、大変だろ?」
「???」
ケルフとホーリー、アナベル、グレイの4人は、鑑定魔法を習う、これは、意外に厄介な魔法で、手に魔力を集め、心臓の奥にある目で見るらしいが、まったく、うまくいかない。
アナベルとグレイですら、初日は、諦めたようで、バーグ先生は、この温室に通って、色々な植物を鑑定して、自主練するように言って、解散になる。
「ケルフ、午後からは、アガシー先生の授業だね」
「僕たち、大丈夫かね?」
「不安だけど、リンさんが繋いでくれた縁だから、行くしかないよね!」
◇◇◇◇◇◇
昼食を済ませ、アガシー先生の教室に向かうと、廊下に列ができていて、ドアの所で、助手らしき人が、一人一人に本を渡している。
「座学だね」
「それにしても人気が凄いね。リンさんが教えを乞う先生だからね」
教室は巨大な円形で、階段形式のたくさん机が並び、黒板には魔術が組み込まれている様で、金色の魔術式が常に動いているのが見える。そして、ケルフは固まっている。
「ケルフ、大丈夫?これから、これを習うんだよ?」
「‥‥理解できる気がしないよ。僕は、緑魔法と芸術教室に力を入れるよ。でも、ホーリーが1人で通うのは危険だから、慣れるまでは一緒に通う‥‥しかない」
「ケルフ、まだ、始まってもいないのに、怖気づいてどうする。2人で頑張ろうよ」
「無理‥‥‥ごめん、身体が拒否してる」
「それって、魔術アレルギー?」




