大切な冬休み②
第30章
ホーリーにとっての冬休みは、芸術教室の延長だった。フェリクス先生が、毎日のように出勤してくる。大きな食堂は、アトリエに変貌を遂げ、いつの間にか、先生専用のソファまでも運び込まれた。
「自分もソファが欲しいです」と、羨ましいそうに先生に言うと、次の日、ホーリー用のソファも運び込まれた。
このフェリクス先生は、芸術家だけあってこだわりが凄い、従者2人は大変そうだと思って見ていると、フェリクス先生に慣れているのか、先生の要望を次々とクリアしてる。
マリアさんもお茶や食事のタイミングをつかんでいる様で、4人はストレスフリーで過ごしていて、納得できない。
◇◇◇◇◇◇
ケルフとマコーミットさんは、毎日、やって来て、水魔法で水まきをしている。ホーリーは、水瓶の魔法陣が作動して水が集まる為に、水汲みをする必要がなく、浴槽の水も水瓶と魔法で足りる。そして、アレクサンダーを放牧している為に、呼び出すのが面倒なのだ。
窯でレンガを生成していると、
「ホーリー、水は必要ないが、トイレは作ってもいいだろうか?」とケルフが小声で聞いてくる。
「考えたくもないけど、作らないとどうなるの?」
「僕たちは、大丈夫だが、女の子たちがちょっとね。前は、ホーリーの家のトイレを借りられたけど、今は、フェリクス先生たちがいるから、立ち寄れないらしい‥‥」
ホーリーの家は、将来の宿屋をイメージしてるので、トイレが3つある。お客様用に2つと、浴室と併用して、自分専用もあるのだ。それらは、当然、魔術具で処理できる仕様になっていて、不快感は全くない。
「グリークさんを呼んで、魔術具を設置してもらうのに、時間がかかるけど、大丈夫?」
「いや、小屋を建てさせて欲しいだけだ。後の処理は、緑魔法で肥料にするから大丈夫だ」
「緑魔法って、そんな事も出来るの?」
「ああ、ゴミ処理や作物の育成の魔法もあるって、叔父さんが言っていた」
「実用的で緑魔法っていいね」
「ホーリーも来年は、一緒に教室に通うか?」
「ケルフ、私にそんな時間がない事を知っているでしょ?それに、どうして、全然、ウチに来ないのよ?先生に会いたくないの?仕事が増えるから?」
「ホーリー、先生の製作の手伝いをしたら、畑に水が撒けなくなるって、わかるだろう?」
「でも、先生は本気でさぁ、食堂の壁に執着しちゃって、困ってるよ」
「なんで、そうなったの?」
「フェリクス先生、王都の療養所にお母さんを訪ねて、自慢のカップ&ソーサーをプレセントしたらしいの、その時の会話の中で、ここの壁に貼るレンガの話題が出て、お母さんが楽しみにしているって、言ったみたいで‥‥」
「あぁ、わかるよ、僕も、ミルサーチさんにそう言われたら頑張れる」
「‥‥‥」
「だから、こんなにたくさんのレンガを生成しているの?」
「そう、この形から、色をイメージして焼き上げるの」
「!!そんな事できるの?」
「できる訳ないでしょ!やっと、薄っすら色が付くようになったのよ。それなのに色が違うって責められて、本当に、泣きたいんだからね‥‥」
「ホーリーさん、先生がお呼びですよ。ケルフさんも時間があれば‥‥」
「あ、僕、水撒きが途中でした。すいません~~」とケルフは逃げた。
「王都の美味しいお菓子がございますのに、男の子には響かないのでしょうか?」と、マリアさんは言う。
「‥‥‥」
マリアさんのお茶菓子のセンスは、素晴らしく、毎日、ケーキ、マカロン、アップルパイと多彩で、アデルたちも、フェリクス先生ご一行が、早めに帰宅した後、必ず、立ち寄り食べて帰る。
どうやら、この事は、3人だけの秘密のようで、決して、持ち帰らない賢い女子たちだ。
◇◇◇◇◇◇
生成されたレンガを持って、食堂に向かうとすでにティータイムの用意が整っていて、先生はお茶を飲みながら、ジモールとユルに指示を出している。(色付きレンガの移動だ)
「ホーリー、君の薄っすら緑のレンガも使えそうだ。良くやった」
「先生、先生は、色々な色に染める事が出来て、絵も描けるには、何の魔法ですか?わたしが習っていない魔法で出来る様になるのでしょうか?」
「どうかな?魔法はイメージが大切だ。君は、このレンガを焼くときに何をイメージした?」
「緑、緑、緑って、思って焼きました」
「君の緑は何だ?」
「葉っぱですかね」
「随分、薄っぺらな葉っぱだったのではないか?」
「‥‥‥、違います。大木に生い茂る葉っぱです!」
「う~~ん、君は緑魔法は覚えたか?」
「いいえ、氷魔法だけです。先生は、もしかして、緑魔法が使えるのですか?」
「貴族学校の教師は、すべての魔法が使えないと資格がない。僕は、最初から芸術教室を選択した訳ではないが、たまたま、芸術教室の教師の枠が空いただけだ。まぁ、彫刻を趣味にしていたから、運が、良かったよ」
「そうか、そうか、そうか!なんとなく理解できました。すべての魔法には色があるのですね、覚えている魔法で、色が、決まるのではないでしょうか?」
「私は、氷魔法が使えますので、今、やってみます」
ホーリーは、氷魔法のイメージを利用して、1枚のレンガを焼き上げる。そのレンガは水辺のように透明で、美しい色合いをしていた。
「どうでしょう?」
「あぁ、素晴らしい、では、このようなレンガを100枚ほど焼いてくれ」
「無理です、魔力が持ちません。昼寝を挟んで、1日10枚が限界です」
「体が小さすぎるな‥‥、仕方がない、1日10枚で手を打とう」
「先生、私も大人になったら、母みたいになれるでしょうか?」
「‥‥‥、君は、父親に似たのではないか?あまり、期待しない方がいいぞ!」
それから、レンガは順調に出来上がり、レンガの配置が床で完成した。ここからは、ジモールさんとユルさんが、壁に貼る作業を担当するようだ。
「フェリクス先生、2人は、人足のような仕事も出来るのですか?」
「なぜだ?この位、出来なくて、彫刻を設置したりできないだろう?彫刻は物凄く重く高価だ。この軽いレンガを壁に貼る事など造作もない」
「そうですね。彼らは本当に先生の助手で、従者なのですね。尊敬します」
「まぁ、完成すれば、尊敬するのは、僕だとわかるよ!」
「‥‥‥」
完成までに、時間がかかるので、話題を変える。
「先生、ケルフが言うには、緑魔法を覚えると、作物の成長を助ける事が出来るらしいのですが、本当ですか?」
「どうかな、緑魔法を使った事がない、王都の男性貴族にはあまり必要ないからな」
「この植木鉢に、桃の種が植わっているのですが、発芽できますか?」
「ホーリー、君は僕を利用し過ぎだ!」
「でも、ホーリータウンで、桃が取れたら、毎年、先生のお屋敷にお届けしますよ。あの桃、美味しかったですよね?」
フェリクス先生が、桃が好きとは知っていたが、協力してくれるとは思わなかった。言って見る物だ。
ソファから腰を上げ、植木鉢が置いてある窓際まで移動して、フェリクス先生が緑魔法をかける。
その後、3つの植木鉢から1㎝くらいの芽が見えた。
「おおお、凄い、凄いです先生、最高に、先生を尊敬します」
「多分、ここの土に発芽の養分が多く詰まっているからだろう。僕も驚いた。このように発芽した事は、貴族学校の授業でもなかったし、この土地を、カーズ村の農民が欲しがる理由だ」
「そうですね。本当に、いい土地だったのですね。でも、この土を作ったのは、カーズ村の人々です。すごいのは、彼らでしょう、最高の農夫たちです」
ジモールとユルの作業が終わったのは、2日後、出来上がった壁は、フェリクス先生の領土の湖と山脈だった。ホーリーは、先生が残したかった領土の景色を思うと涙が流れた。
「ホーリー、泣いているの?」と、ミルやリウス、アデルも感動して泣きながら聞く、
「だって、美しいでしょ、湖と山脈は、見た事ないけど、夕陽が輝いて綺麗だよね」
4人の女の子は、寄り添い感動していると、「バカ者、朝陽だ」と訂正された。
今日で、大切な冬休みは終わり、明日には、貴族学校に戻る。フェリクス先生たちを見送った後、アデル達に、
「桃の種が、発芽したから、預かってくれる?」と、聞いたら、アデルは固まった。その後、アデル、ミル、リウスが一鉢ずつ持って帰っていく。




