大切な冬休み①
第29章
小麦の耕作作業が始まった。この1か月間の冬休みが勝負らしく、カーズ村の殆どの農夫がこちらに入ってきているように思える。皆さん、家は出来上がったのですか?と大声で聞きたい!
リリーさんは、朝からやって来て、ひたすら謝る。
「大丈夫ですよ。それに、リリーさんが、お母さんを連れて来てくれなかったら、会えませんでしたし、これからは、王都で会えるんですよ。多分‥‥」
多分と言ったのは、ミルサーチは、仕事の為に王都に入ったのだと感じたからだ。彼女の仕事の対象は皇族の誰かなのか?邪魔する訳にもいかないので、こちらから聞く事は、出来ないと思っている。
「これから、1か月で、種まきまで終わらせるから、よろしくね。食事は必ず用意するから安心して」
「リリーさん、第2皇子と魔術契約を交わす前に、ケルフと話し合いたいので伝えてくれますか?」
「今日の、午後にはここに来れると思うけど、今、領主様の方からも色々探りを入れられていて、ケルフも大変なのよ。移動魔法陣が使えない場合の輸送方法や、今まで、街に卸していた野菜の事とかを決めなくてはいけなくてね」
「大変ですね、だから、カーズさんも、こちらに来られないのですか?」
「そう、マコーミットとずっと話し合っているわ」
「マコーミットさんは、男爵家と縁付いていると、お聞きしましたが?」
「そうなの、お貴族様は難しいわ、王都では第1皇子と第2皇子で派閥が違うらしいのよ、あちらの男爵家は、どうやら第1皇子派らしくて、きっと、今回の件は、反対されているのでしょう」
◇◇◇◇◇◇
午後、ケルフとプレジーが、やって来た。
「ホーリー、やっと、ストーブに火を点けたのか?暖かいな~~、これ、なんだ?リンゴか?」
「そうよ、マリアさんの差し入れのリンゴを蜂蜜で煮たの、2人の分も作って置いたからどうそ」
「ホーリーは、こういうアイデアすごいよな、このカップも作ったのか?」
「ええ、本当は、お母さんとこうやって暖かいストーブの前で飲みたかったに、王都に行っちゃったでしょ、だから、2人と飲もうと思って作って置いたのよ」
「貴族学校が始まったら会えるといいな?」
「まぁね‥‥、」
「それで、カーズ村の方針は決まったの?」
「ああ、叔父さんが来ただろう?それで決まった」
「マコーミットさんは、帰らなくていいの?王都から馬車で来たのよね?」
「ああ、多分、ずっと居る」
「???」
「先ず、ここから王都まで馬車で輸送する場合、領主様から関税を取られる事になった。後、今まで卸して来た市場にも同じように納める事になった」
「スタンピードの時、活躍しなかったのに、厳しいね」
「まぁ、一応、魔獣の戦った跡を魔術師たちが来て、整備はしてくれたけどね」
「それだけだ、こっちが、魔石を渡さないから嫌がらせたよ」とプレジーが付け加える。
「大丈夫なの?」
「平気さ、カーズ村には、第2皇子に示した以上の蓄えがあるから、数年は大丈夫だと、叔父さんが計算していた」
「それに、叔父さんが戻ってくれば、ここから、移動魔法陣で王都に運べるし、関税は払わなくていい」
「でも、叔父さんのご家庭は?」
「元々、上手く行ってなかったんだよ。子供もいないし、男爵に頼まれての結婚だったらしい、それに、第2皇子からも誘いがあったらしいよ。だから、叔父さんは、貴族学校の職員寮に入って、輸送を手伝う予定だ」
「え?収穫した野菜の為に、ここと往復するの?」
「そうだ、それと、王都で、第2皇子意外にも販路を広げるらしい、どこだと思う?」
「!!まさか、ベル商会?」
「正解だ。そこで、ホーリーには、ベル商会を紹介して欲しいから、食事や生活全般の世話を焼くなんて、曖昧なやり取りでは駄目だと言われた。だから、麦の販売価格の10%を支払う事で、調印して欲しい。どうかな?」
「別にいいわよ、ケルフが良いならそうしましょう。ベル商会は、クリフトルさんに交渉してみてと、マコーミットに言ってくれる」
「わかった、クリフトルさんだね、叔父さんに話しておくよ」
◇◇◇◇◇◇
数日後、第2皇子と側近のルーツィがやって来て、ケルフとホーリーと魔術契約を結ぶ。調印の話し合いは、順調に行われ、お母さんの近況も聞く事が出来て、フェリクス先生が、褒められたカップ&ソーサーを持って、わざわざ王都の療養所を訪ねたと教えてもらった。
「そうですか、お母さんも、フェリクス先生も、元気そうで何よりです」と、多少皮肉を込めて言う。
「先程、小麦の畑を先に視察したが、広大だな‥‥」
「ええ、最初の測量時に、縄を張ったのですが、その縄、ギリギリまで耕すとは思ってませんでした」
「ケルフ、縄、土魔法で誤魔化してないよね?」
「そんな事してないよ。僕だって驚いているんだから、あんなギリギリまで広げるなんて‥‥」
ケルフとホーリーは、ふざけ合う。
「そうだ!聞きたい事があるのですが、第2皇子はどうして私の許可なしに、移動魔法陣でここに来れるのですか?」
「え?僕は皇族だよ。皇族は、普通、どこへでも移動できるに決まっているでしょ?例え、ここが、ファイスブルでも、僕の許可した移動魔法陣だからね」
「そうだったのですか?第2皇子が居れば側近の方々も移動出来て、フェリクス先生には、許可を与えたので、フェリクス先生の使用人も移動出来たのですね」
「だったら、マコーミットさんに許可を与えたらカーズさんや、リリーさんも、王都に行けるのですか?」
「そう言う座学は、もうすぐ始まるから習った方がいいな、君たちは早く退学したかったのだろうが、学校に通っていると、大切な知識がもっと増えるからね」
「確かに‥‥」
第2皇子との調印が終わったら、フェリクス先生がいつもの3人を連れてやって来た。
「先生、どうしたのですか?」
「壁のレンガを焼いて来た。それと、彫刻は出来上がったか?」
呆然と立ち尽くすホーリーの肩を叩いて、マリアさんは、家に入るよう催促をする。
「とりあえず、どうぞ、お入り下さい」
「フェリクス先生、もしかして、私がデザインした壁に貼るレンガが気に入らないのですか?」
「ああ、そうだ。アレは、何をモチーフにしたのだ?」
「山ですよ」
「えっ!!山?山~~、山なのか?」4人の声が漏れる。
ホーリーが描いた山は、銭湯の富士山を思い描いてレンガを並べている。まさに赤富士だ。
「なぜ、3色しかない?」
「3色しかここでは作れないからです」
「なぜ、自分で焼こうとはしなかった?」
「あ!!思いつきませんでした。失敗しました」
「君の考えはわかった、もう一つの課題の彫刻はどうした?」
「ああ、妖精の置物ですね、出来上がって、作業部屋にあります。持って来ますか?」
「嫌、こちらから行こう」
「これです」ホーリーは、可愛い女の子の背中に2重の羽をつけてポーズを決めている置物を指さした。
「なぜ、色がない?」
「まだ、絵の具の生成のイメージがないので出来ませんし、習ってません」
「う~~ん」と、フェリクス先生は唸る。
その後、フェリクス先生の興味を引いたのは、再生紙の道具だ。
「これは、なんだ?」
「ああ、これですね、今、紙の再生をしていて、細かく処理された紙を溶かして、また、1枚にの紙にするのです。私が、いつも持っている水筒の模様もこうやって作りました」
なんか、先生の興味を引いたらしく、
「やってみましょうか?」
「ああ、頼む」
ホーリーは、紙くずを溶かし、気持ち悪い虫も潰して、再生紙を完成させた。
「これを、板や机に張ったままにすると、あら、不思議、1枚の紙になります、どうですか?」
「このような才能はあるのに、あの、壁のデザイン‥‥、君は、絵の才能は全く無いな!絵画教室は、申し込まない方がいい。私の品格までも疑われる」
「‥‥‥」
このような才能って、尻を拭く、トイレットペーパーだとは、流石に言えなかった。早く、帰って!




