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ホーリーの憂鬱②


 第28章


 場が整うと、第2皇子が要件を説明する。


 「カーズ村から食糧の供給は難しいと返答が来た。その報告書を読み、商業ギルドに問い合わせをし、ホーリータウンを調べ直した。確かに、ここの所有者はホーリーとなっていたが、ホーリーと言う名の横に注釈が存在していた。君は、ホーリー・ファイスブルと言うらしいね」


 「そうです。私は、ホーリー・ファイスブルで、母は、ミルサーチ・ファイスブルです。父は、ファイスブル国の傍系皇室でしたが、内戦で亡くなっていますし、ファイスブル国の国王も交代していますので、ファイスブル国でもただの平民です」


 「‥‥‥、なぜ、言わなかった?」

 「第2皇子に、お話して何か変わりますか?母の病は、魔力の枯渇です。国に戻れる理由もありません。だから、ペーター家のお金を手にした時に、ここの購入を決めました。私たちファイスブル国の人間が、この国の土地を購入したのです」


 「だから、この国の為に、ホーリータウンの使用は認めませんと、ケルフに伝えました」


 「‥‥‥」


 「第2皇子、今のこの国の状況で、ペーター家が私達親子にしたことが公になれば、対外的にはどうでしょうか?ファイスブル国も、帝国から見捨てられた破滅国家でしたが、国王が交代し、多少は持ち直していると聞きます。それに、ファイスブル国の今の国王陛下は、冷徹で、戦争を起こす事など気にしない性格と聞きますが、この弱った国に対抗する力はありますか?」


 「‥‥‥」


 第2皇子一行は、多分、妥協案は持って来ていないはずだ。ただ、命令を遂行するように注意に来たのだろう。それに、ホーリーが、ここまで、他国の情勢を知っているとも、思っても見なかったと、側近たちの表情を見ればわかる。勝てる戦いだと確信して、お茶を飲んでいると‥‥、玄関の窓からケルフが覗く。


 「ケルフ?」


 膠着状態が途切れたので、ジモールが、ケルフを迎えに行く。


 「どうしました?」

 「あのぅ、ミルサーチさんが来ました」と、小さい声で伝えた。


 「!!!」


◇◇◇◇◇◇


 久しぶりに見るミルサーチは、病人でもなく健康な人でもない色白の、儚い美人だ。目が大きく、鼻筋が完璧で、揺れる髪までも輝いているように美しく、男性比率が高いこの部屋では、女神のように思えたのだろう、一同が、固まったままミルサーチを見ているのがわかる。まぁ、いつもの事だ!


 「お母さん、どうしたの?どうやって来たの?」

 「ええ、リリーさんが、訪ねてきて、ここに連れて来てくださったのよ。ホーリーが心配だから、一緒に居てやって欲しいと言われて、それに、ホーリーに会いたかった‥‥」と抱きしめる。


 「もう、お母さん、無理して!体はいいの?大丈夫?」

 「今は、神殿の療養所でお世話になっていて、少しずつだけど良くなっているわ」


 「何度も、手紙を出したのに、返事がなくて心配したんだから‥‥」

 「ごめんなさいね。療養所に居る時間が長くて、アパートに戻れなかったの、ごめんなさいねホーリー、ああ、こんなに、大きくなって、本当に、会いたかったわ」


 2人は感動の再会をしていると、ケルフが、ホーリーの袖を摘まんで気づかせる。


 「お母さん、紹介します。こちらは、第2皇子と芸術教室のフェリクス先生です」


 「お初にお目にかかります。ホーリーの母親のミルサーチです。いつも娘がお世話になっています」と、見事なカーテシーで挨拶する。


 「初めまして、第2皇子とだけ伝えておきます。名は明かせませんので、よろしくお願いします」


 「僕も、フェリクスだけでご挨拶申し上げます」


 ケルフが退席を申し出て、ミルサーチがホーリーの隣の席に着くと、先程の雰囲気はどこかに消えて、マリアさんが、改めてお茶を入れ直すのを待って、話し合いが再開する。


 「リリーさんがね、すごく困った顔で、診療所を訪ねて来てね。ホーリータウンに行って、ホーリーと話して欲しいって、泣きながらお願いするから、来たのよ。それで、ホーリー、何があったの?」


 「この土地は、ホーリーで登録してあるのだけど、魔術契約を結ぶ時に、ホーリー・ファイスブルの名も入れたの、わかる?ここは、ファイスブルの元皇族が購入した土地にしたの‥‥」


 「ホーリーは、なぜ、ファイスブルの名を入れたの?」

 「ここで、お母さんと2人だけで暮らしたかったから‥‥」

 「でも、今は、色んな人達に助けてもらってるのでしょ?カーズ村の皆さんや貴族学校の皆さんたちも、ホーリーを助けてくれているのではないの?」


 「お母さん、でも‥‥」

 「ここに来るまでに、リリーさんからホーリーの事をたくさん聞いたの、彼女も心苦しいようで、泣きながら話してくれたわ。だからね、私はまだ神殿の療養所から離れられないでしょ?それまでは、この国の人の為に、土地を少しお貸しするのはどうかしら?」


 「お母さん‥‥」


 「リリーさんが言うには、ホーリーが作るパンやクッキーがとっても美味しいって、だから、小麦を作るのはどう?小麦は、貯蔵も出来るし、人々の為になるならどうかなって?ダメかしら?」


 第2皇子が、立って頭を下げた。

 「ホーリー、今回の件、私が浅慮だった。すまない、どうやら、少し焦ってしまったようだ。スタンピードが収まったばかりの村と、村民が1人しかいない村に、食糧供給を望むべきではない。僕は、この前、訪れたカーズ村の備蓄量を見て、カーズ村に頼む以外思い付かず、君の気持ちも考えなかった」


 「第2皇子‥‥、もし、ここで、小麦の生産を始めたら、移転魔法陣で王都に送るのですか?」

 「そうする予定だった」

 「魔力はどうすのですか?魔力もケルフと私が負担するのですか?」


 「いや、まだ、そこまで考えていなかった」

 「移転魔法陣はケルフだけでは動かせませんよ。ケルフは基礎の魔術教室にも通っていませんし、魔力的にも無理があります」


 「そうだな、作物が育つには時間がかかる。今は、農地を増やす考えしかなかったのだ。そして移転魔法陣があればどうにかなると‥‥」


 「それに、私一人で、この村で暮らしているので、目の届かない場所での耕作は困ります。今まで通り、貴族学校にいる間は、ホーリータウンは閉鎖して、私が滞在中だけ畑を貸す、移動魔法陣の魔力は別に調達する。その条件でよろしければ、小麦の生産を許可します」


 「そうか、許可してくれるか、しかし、現在、貴族学校は1ケ月の冬休みに入ったが、年が明けてからは、カーズ村の農夫たちはここに入れない、それでも小麦は育つのか?」


 「‥‥、わかりかねます」と側近たちは言う。


 「それについては、後で、ケルフと相談します」


 「ああ、そうしてくれ、小麦畑の借地料は国から出そう、それでいいかな?」

 「その事もカーズ村の人たちと相談します」

 「わかった。そうしてくれ、まとまり次第、契約書を交わす事にしよう」


 「では、これで終わりですね」とホーリーがにっこり笑うと、フェリクス先生がここぞと話す。


 「ミルサーチさんは、王都の神殿の療養所に、移った方がよろしいのではないでしょうか?王都にも神殿や療養所が有りますし、ホーリーも休日には会いに行けます。どうでしょうか?」


 「そうだな、王都の療養所に移った方が良いだろう」

 「第2皇子、それは名案です。ファイスブル国の方ですし、その様にしましょう」とルーツィも援護する。


 「‥‥‥、はぁ、では、久しぶりに会ったので、貴族学校が始まったら第2皇子にご連絡します」


 フェリクス先生が、

 「ホーリー、こんな寒い場所にミルサーチさんを泊める気か?ケルフが来なかったら、ストーブも点かなかったここに?ベットも1つしかないだろう?無理ではないか?」


 「じゃ、いつ向かえばいいのですか?」

 「今が、いいのでは?」と一同が同じ意見だ。


 見かねたミルサーチが、この村を見学したいといい出したので、アレクサンダーに荷車を引かせ、そこにミルサーチを乗せ、村を1周してから、ミルサーチと貴族の皆さんは、やっと王都に向かった。


 なぜか、最後に移動魔法陣に乗り込むマリアさんが、丁寧にホーリーの頭を撫でてから去って行った。



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