フェリクス先生の仕事
第26章
「今年は、平民が、50名ほど入学してきまして、その中の2人が芸術教室への入室を希望していますので、よろしくお願いします」と、第2皇子の側近のルーツィがわざわざ伝えに来た。
「平民が芸術教室にですか?絵画教室でしたら理解できますが、僕の教室は彫刻で、決して楽な教室ではありません。平民の学生は男子ですか?」
「1人は男子学生で、もう1人は8歳の女子学生です。フェリクス先生、第2皇子の推薦です、よろしくお願いします」と、静かに念を押され、否と言える雰囲気ではない。
まだ、生徒が誰も来ていない静かな教室での会話で、ルーツィが去った後、従者のジモールが駆け寄って来てたずねる。
「平民が彫刻を学びに来るのですか?何か特別にご用意するものはございますか?」
「‥‥、イヤ、いい、どうせ続かない。いつも通りでいい」と答えたが、平民の2人はどの貴族学生よりも熱心だ。
彼らの発想は愉快で、ただ少しのヒントを与えるだけで、自分のものにしていく。教室の隅で、目立たない様に試行錯誤を繰り返し、従者も一緒に昼食に参加していて、面白い!
◇◇◇◇◇◇
貴族学校を卒業後、王宮に勤めに出る事に抵抗があった。元々、人付き合いが苦手だったし、既に、兄上が第1皇子の留学に同行したからだ。両親の派閥は中立派閥だが、兄上の同行が決まった後、すぐ領土に戻った。表面上はペーター家の消滅が理由だが、面倒事はまっぴらだと顔に出ていた。
その為、僕は、王都の屋敷の留守番をしながら、貴族学校の職を得た。好きだった彫刻の仕事は魅力的で、自分には天職だと思っていたのに、なぜか、第2皇子からの仕事が多い。
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あの日の朝も、第2皇子からだった。
「フェリクス様、起きて下さい。大変です!第2皇子の側近が伝令を持って来ました。急いで!」
フェリクスは飛び起き、着替えもそこそこに、伝令の使者の前に現われる。
「第2皇子からの伝令をお渡しいたします。速やかに行動される事を願います」と言い、第2皇子の側近は急いで帰っていった。
頭に描いた不安は、両親のいる領土の消滅か、兄上の消息のどちらかだ。伝令を、震える手で受け取ったが、その内容は、意外にもホーリーの村への移動だった。
「フェリクス様、どのような事でしょうか?」と、真っ青な家令やメイド達、ジモールとユルは今にも泣きそうだ。
「ケルフの村でスタンピードが発生するらしいので、ホーリーの村に行って結界魔術を指導するようにとの命令だ」
「???」
みんなの顔を見まわし、自分にも不明だと、両手をあげて態度で表したが、説明を続ける。
「スタンピードの入り口は、2人の村と接している森で、領主の結界が弱った事が原因らしい、だから、魔力持ちの2人に、強固な結界を張らせる事にしたようだ。2人は、たまたま僕の教室の生徒で、僕が指導する事が望ましいと第2皇子側が判断したのであろう」
「お着替えはどういたしますか?屋敷の兵士は連れて行かれますか?」
「いや、今日は様子見だ。彼女は魔力量が多い、多分、直ぐに結界くらいは張れる。服も普段着で十分だ、貴族の服を着ていては、平民の村に馴染まないだろうし、今日は、従者の同行も認められないだろう」
「それでは、どのように向かうのですか?馬車のご用意はどうしますか?」
「貴族学校から、ホーリーの村に移動魔法陣を繋げるようだ」
「そのような高価な物を‥‥平民の村に?」と、家令は驚いている。
「王都から駆けつけると、2、3日はかかる。その間に、入り口から魔物が溢れ出したら弱っているあの領土は全滅するだろうし、王都にも被害が及ぶ可能性がある。交易は王都限定で行われている為に、外に不都合は見せられないのだろう」
「先遣隊が移動した後に、ホーリーの魔馬の馬房から出発する」
「彼女、魔馬を持っているのですか?」
「ああ、驚きだろう?今は、貴族でも少数しか所有していないのにな」
「彼女は、本当に、貴族ではないのですか?」
「名は、ホーリー・ペーターだそうだ。ペーター家の魔力奴隷らしい‥‥」
「そんな、あんな小さい女の子が‥‥」ジモールとユルはホーリーを良く見かけるから同情的だ。
「確かに、あってはならない事だが、ペーター家の財産精算後に、彼女たち親子が多少の金額を受け取って、村を購入したらしい、多分、魔馬もそうなのだろう。さぁ、とにかく、伝令に従い行って来る」
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屋敷は、大騒ぎだが、別に前線に配置された訳ではないので、フェリクスは落ち着いている。多分、ホーリータウンの結界に魔力が全体に行き渡るまでの、移動魔法陣の補助役だろう。第2皇子側が考えそうな事だ。
「しかし、この国の魔力不足は深刻だな、貴族学校の教師にまで頼るとは‥‥」
ホーリータウンに到着してからは、経験したことのない事ばかりだ。領土の村を訪れた事はあるが、ホーリーの村は、彼女の自宅以外はない変わった村だ。そして、ホーリーから聞いていた窯は、想像以上で面白い!
やはり、彼女も変わっていた。貴族学校の教師である僕が、訪ねて来たことに、彼女は全く驚かずに、仕事を振ってくる。芸術教室の教師に、魔法陣の改良だ。彼女も、魔術の座学を受けているが、基礎魔術しかわからないようで、僕に色々な魔術の改良を要求してくる。そして、窯に火を入れ、レンガや食器、パンまでも焼きあげる。
王都でのらりくらりと暮らしてい居るからわかる事もある。この不安定な国で、いつまでも貴族の生活が保障されていると思っていない。国そのものが、変化していると、皇室や役人たちも気づき始めている現状だ。
先の見えない貴族社会よりも、こうして生きている方が贅沢な暮らしに思えるから不思議だ。
◇◇◇◇◇◇
ある日、彼女は休学届を出しながら平然と現れたのだ。
「どうした、復学の報告か?」
「いいえ、ホーリータウンのウサギが魔物になったのです。その肉を、アレクサンダーが食べてしまったので、先生に鑑定してほしいのです。お願いします、心配で夜も眠れません、アレクサンダーが魔物化してしまったら、処分されるのですよね?」
「君は、僕をなんだと思っているんだ!」と、つい言ってしまう。
だが、不本意ながら、第2皇子のところに相談にいく、僕は芸術教室の教師であって、便利屋ではないと思いながらも、報告に行くしかないのだ。
その後、ホーリーは、寮の部屋での謹慎となるが、リン商会で、色々なものを注文しているようで頭が痛い。そしで、また、第2皇子からの呼び出しだ。
「僕が、女子学生の部屋を訪ねるのですか?それは、問題があるのではないかと?」と、第2皇子に意見するが、
「フェリクス先生も、一度、あの部屋に入った方がいいと思いますよ、従者の他に、屋敷からメイドも連れて行けば、おかしな噂も立たないでしょう。訪ねる価値はあると思いますよ」と、ルーツィが笑う。
笑った?何がおかしいのだ?
本当に面倒だか、調査結果を持って、ホーリーの部屋を訪ねる。屋敷のメイドのマリアも一緒だ。
ホーリーは、最初、僕を見て驚き、ジモールとユル、マリアを見て観念して、部屋に招き入れてくれた。
「なんだ!この部屋は!これは彫刻か?君は、芸術を愚弄しているのか?」
「ち、違いますよ!粘土で出来た置物です。リン商会から粘土を購入して、部屋で制作していただけです」
メイドのマリアは散らかった部屋に驚き、そのまま、僕にお茶を入れようとしているホーリーを止め、従者2人は、急いで、テーブルの上の物を片付け始めた。
全員にクリーンをかけ終わり、お茶とお菓子が並ぶと、調査結果を渡す。
「アレクサンダーには、これ以上の魔力は必要ないと出た。それは、魔獣化したウサギを食べたからでもなく、ホーリータウンの結界内に居る為だと説明し、ウサギの魔石は、クズ魔石だが第2皇子が、研究用に引き取りたいと申し出た。魔石採取後のウサギの肉には、魔力が残っていない為に、食しても大丈夫らしい」
「ありがとうございます」と、彼女が、これで帰れると言う顔して笑っているのが、なんだか癪にさわった。
「ホーリー、僕の仕事は、彫刻の教師だ。宿題を出そう」




