ケルフの仕事
第23章
あの日の早朝は、突然、たたき起こされた。最初に浮かんだのは、故郷の両親、村、叔父さん、ホーリーだった。きっと、誰かに何かが起こったに違いないと思い、プレジーと大急ぎで下の会議室に向かった。
「ホーリーかな?何かしたのか?」と、プレジーは真っ先にホーリーの心配をしていた。
しかし、僕らを待っていたのは、王都でお世話になっているマコーミット叔父さんだった。
「叔父さん、その姿‥‥‥、」
「ケルフ、カーズ村を魔物が襲うかも知れない。スタンピードの予兆が見られると報告があった。今、第2皇子がホーリーの説得に向かってくれている」
「どういう事ですか?」とプレジーは聞いたが、ケルフはただ黙ったまま説明を待っている。
「本来、領主様がすべき仕事を第2皇子がして下さるのだ。感謝しろ、今の領主様には、自領を守る力がないらしい。そこで、領主様は、国に援助を求め、第2皇子が動いて下さった」
「それは、ホーリーに何の関係があるの?」
「自領なら、直ちに、カーズ村に剣士や騎士を派遣できるが、王都からでは数日かかる。その数日で、カーズ村が全滅してしまう。最悪、村人たちは避難できるが、田畑や家、すべてが無くなるし、その後、カーズ村から魔物が溢れれば、あの領土は、多分、お終いだ。そして、領土から溢れた魔物が、国全体にもたらす被害を考えると、ホーリータウンに移動魔法陣を開く事が、得策になる」
「カーズ村は、兄さんが村長の為に、移動魔法陣が設置できない。幸い、ホーリーは魔力持ちで、現在、王都に滞在していて、第2皇子とも面識がある。僕が、あの村の村長だったら、カーズ村にも移動魔法陣が設置できたが、カーズ村は兄さんの村だ」
「‥‥ホーリータウンから、うちの村に兵を送り込むの?」
「そうだ、時間がない、すぐ指示がでるが、今は、魔力持ちも少ないので、ケルフも戦いに出る事になるかもしれない」
「‥‥‥、だから、叔父さんも?」
「ああ、そのつもりだ。カーズ村を守るために、僕はここにいるのだから‥‥」
その後、ホーリーが、アレクサンダーの馬房に、移動魔法陣の設置を許可したと聞き。急いで、馬房に向かうと、話す余裕もなく移動魔法陣の中に入り移動する。
ホーリータウンに到着すると、ホーリーに、急いで村の入り口を開ける様に言い、父さん達と合流した。
◇◇◇◇◇◇
第2皇子を、カーズ邸に案内し、両親と話し合いが始まる。叔父さんはすでに理解している様で、何も語らずに、その場にいるだけだ。
第2皇子からは、すぐに、村長の移譲の命令が出た。半分くらいしか理解できなかったが、叔父さんは小さく頷き父さんに説明する。
「今、カーズ村の結界は、領主様が張って下さっているが、領主様の結界が弱っている為、スタンピードを誘発している。だから、魔力持ちのケルフが村長になり、村の結界を強化し、家の結界もケルフに変更する。王都から派遣される魔術師たちには、森の結界を守ってもらい、剣士が前衛で戦い、騎士たちは、魔物の移動を食い止め、魔術師が燃やし尽くすのが、今回の作戦だ」
「父さん‥‥」
「それでも、村にも魔物が溢れ出す可能性が高く、村は多くの被害が出るだろうが、ケルフの土魔法で、ある程度は回復できるだろうし、友達のホーリーにも助けてもらうといい」
「魔族災害として、国からの援助は、今回の討伐支援と魔物から採取された魔石の半分だ。魔石に関しては、領主との話し合いが必要になるかもしれないが、それで、村を立て直して欲しい」
「第2皇子、ホーリータウンの結界はどうなるのでしょうか?ホーリータウンにも森は続いてます」
「今日のうちにフェリクス先生が移動して来る。大丈夫だ、彼がホーリーを助けてくれる」
父さんは、なぜかすぐに承諾して、第2皇子の側近たちは、村長の権限の移行の手続きを魔法で行い、その日は、ケルフは、村の結界の張り方を習い、魔力切れで倒れる。次の日は家の結界を張り、火魔法での剣術で倒れ、最後の戦いでは、魔術師に混ざり魔物を焼き尽くす作業に参加して、プレジーに抱えられながら屋敷に戻った。
次の日、目が覚めた時には、すべてが終わっていて、ただ、11歳で村長になったと言う重圧だけが残った。
「おはよう、村長‥‥」とプレジーは、笑顔で言うが、ケルフは不機嫌なままだ。
「村長、僕も出世して、一応、村長付きの従者になりました」
「プレジー、楽しいか?僕は、父さんになんて言ったらいいんだ」
「カーズおじさんは、ケルフが貴族学校に入学した時から、こうなる事が、わかっていたらしいよ」
「なんだ!それ、理解できない!」
「さぁ、村長!早く起きて支度して下さい。村の人達は指示を待っているし、領主様から派遣された役人たちが、魔石や今後の事などの話し合いを求めて、広場で待機しているよ」
「そんな、今、起きたばかりで無理だよ、父さんに聞いてよ」
◇◇◇◇◇◇
ケルフは広場に集まった親戚一同と、顔見知りの村人たちに挨拶をして、村長になったいきさつを話す。村人たちからは、被害状況の報告がなされ、一番被害の大きい森の近くの畑についての話し合いになった。
あそこを、もう一度、畑にするのか?それとも、ホーリータウンから仕入れた果物の木を、植えた方が良いのではないかと言う意見も出たが、殆んど作物の連鎖の見直し案が大多数だ。
村の人たちに、被害の大きさを嘆く人はあまりいなくて、早い復興をのぞむ人達ばかり、ケルフは、この3日間、第2皇子の側近たちと行動を共にしていて、村人たちの気持ちが、まったく、理解できていないと感じた。
畑は、3割ほどは、全滅で燃やされた跡が多く残っている、火魔法の剣士がここで魔物と戦った跡だ。いつも遊んでいた大木も割れている状態で、半壊状態の家も数件あり、井戸も1か所は、水が枯れて使い物にならない。
大好きだったカーズ村の景色は、ボロボロだ。本当に立て直す事が出来るのか?
そう思って立ちすくんでいるとアデルが話しかける。
「兄さん、これ見て、ホーリーに貰ったの、桃と言う果物の種だよ。知ってる?」
「ああ、実は、俺も寮の机の中に取ってある。桃って、すごく美味いよな」
「ねぇ、桃って、木に生るらしいよ。フェリクス先生が教えてくれたの。ここでも育つかな?」
「アデル、育てたいなら、家の温室で発芽させろ。村長として許可する」
「本当?いいの?後で、お父さんとお母さんに相談してみる。ありがとう」
「桃か、無理だろうな。桃が、本当に育ったらみんな驚くだろうな、美味すぎて」と、ひとり呟いた。
◇◇◇◇◇◇
その後、村長室で役人たちと父さん、叔父さんも加わって本格的に復興について話し合いが持たれた。
役人たちは一刻も早く、魔石を現金に換えたいらしいが、貴族学校に通っているケルフは慎重だ。
「今は、まだ、そこまで考えられませんので、後ほどご連絡いたします」と言って、帰ってもらう。
「父さん、本当にいいの?魔石の事も、僕が村長になる事も怒ってないの?」
「当たり前だ、第2皇子様が決めて下さった事だ。感謝こそあるが、不満はない。それに、退いても援助は惜しまいつもりだ。お前が留守の間は、村長代理もする」
「マコーミットが、貴族学校から帰って来た時に、マコーミットに譲れば、こんなことにはならなかった。マコーミットの話をもっと真剣に聞くべきだったのに、王都に行ってしまった弟に、裏切られたと思っていたんだ。俺は、あの時から村長失格だ」
「兄さん‥‥、ちがうよ、僕は‥‥」
「マコーミット、ごめんなさいね。王都に向かうあなたに何の援助も出来すに、ケルフの事も面倒かけて、今回のスタンピードでも助けてもらって、本当にありがとう」リリーは頭を下げる。
「それに、第2皇子がおっしゃっていました、ケルフとホーリーは成績優秀で、長く貴族学校に滞在して欲しいって、それも、あなたが勉強を見てくれたおかげなのでしょ?この村の子供達が読み書きができるのも、全部、マコーミットの賜物です」
「違うよ義姉さん、ケルフは努力家で頭もいい、プレジーも、王都ですごく頑張って、素晴らしいよ。だから、義姉さんは、もっと、子供たちを、誇っていいんだよ。義姉さんは、ホーリーの面倒も見ていると聞いたよ。彼女に助けを求めて、年寄りたちを避難させる事は、僕には出来なかった、義姉さんだからだよ、僕も感謝してるよ」




