貴族学校⑦
第19章
今日から、芸術教室への参加が認められた。ホーリーは、生活魔法と氷魔法が終了していて、座学の方も合格点を維持している。ケルフは、生活魔法と土魔法が終了していて、座学は、ぼちぼち合格している為に、第2皇子からの許可が下りた。
◇◇◇◇◇◇
「しかし、建物自体が、他の教室とこんなに違うなんてすごいな!」ケルフとプレジーは、恐れおののきながら話す。
芸術教室と言うだけあって、大きな美術館のようで、そこに向かうまでの道のりも彫刻やオブジェが展示されていて、芸術的なオブジェの門を抜けると、美しい噴水が見える。
芸術教室に通う生徒は、荷物が多くなるので、ここにも、従者を連れて入る事が出来るらしい、なんとなく、お貴族様の都合のように思えるが、3人で授業を受けられるのは有難い。
「初日だから、手ぶらだけど、荷物が多くなったら、アレクサンダーも連れて来る予定なの」
「そんなに大きな物を作るのか?」
「先ずは絵の具の研究だけど、お皿とかの製造方法も知りたいし、大物にも挑戦したいでしょ?」
「皿って、あの平の?」
「違うわよ。普通のお皿よ」
「皿に絵を描くのか?」
「そうよ、駄目なら、模様でもいいけど‥‥」
農民が使う食器は木製が多いが、王都では、ほとんどが陶器や磁器の食器で、町のレストランでは樹脂で出来ているガラスのコップのような物が良く見られた。ガラスは、高額で、プラスチックのような樹脂製品は安価なためだと思った。
珍しさで、ホーリーも樹脂のコップはたくさん購入した。
「土魔法教室では、レンガの製作を教えてもらったから、俺は、皿も作れそうだけど?」
「私もこの前、土魔法の教室で習って、形まではどうにか出来たけど、色付けや焼き上がりは想像できないの?ケルフは出来そう?」
「レンガならどうにかなりそうかな?ホーリーの窯に入れて、焼き上げる感じかな?」
「だよね。私もそう、あの窯で焼き上げるイメージは出来ているの、魔力が持てばね」
「レンガは、やはり、一気に窯に火を入れるのが、簡単そうよね?」
「皿は?」
「お皿は、窯の火を研究してからになりそうね」
3人でおしゃべりしながら、いくつかの教室を回り、見学するが、実際に作業をしているお貴族様はいない。唯一、学生が魔力で作っているのは、彫刻だ。親や祖父、祖母の像をプレゼント用に作っている。
「これは、応用が利くかしら?でも、絵の具は必要なさそうね」
「まぁ、形を作ってから色を考えた方がいいのでは?お皿が平らだと不便だ」
彫刻の先生は、フェリクス先生と言って、22、3歳くらいの若い先生だが、魔力量は多そうだ。
「見学してもよろしいですか?」と言って、フェリクス先生に挨拶する。
「ああ、平民の子だね。聞いているよ。陶芸に興味があるのだってね。ここは彫刻だけどいいの?」
「はい、土から物を作り出す魔法が欲しいので、入室をお願いします」
「僕が作る彫刻は、陶芸と素材が違うのは理解できる?」
「はい、自分の土地からとれる粘土等で作る予定ですので、材料は心配していません」
「え?面白い事を言うね?どういう事?」
フェリクス先生の教室は広く、生徒たちは長めのいい窓際で作業をしている為に、入り口での会話は聞こえないと判断して、ホーリーは、自分の村の話をフェリクス先生に話す。
「君ほどの魔力があれば、焼き上げまでできると思うが、へんな窯を作ったんだね。僕には、簡単に、想像できない」
「‥‥先生、魔法があれば、ケルフでも焼き上げまでできるでしょうか?」
「う~~、その魔力ではどうかな?土魔法でレンガはできたの?」
「‥‥形ばできましたが、レンガは、窯で焼くと思ってました」
「う~~、そうか、絵の具はどうするの?その村で調達できる色にする予定?」
「はい、畑が出来上がったら、色々な作物を候補に入れる予定です」
「面白いね。作物!僕は、思っても見なかったよ。では、君たちの実力を見るから、あそこの粘土で、レンガと皿を生成して」
緊張したホーリーとケルフは、それぞれ作成し、お互いの作品を初めて見せ合う。
「これは、二人とも個性的だね」
ホーリーのレンガはどっしりと重く、ケルフのレンガは壁に貼るように薄く軽い、お皿は、ホーリーは平たく小さいが、ケルフのは、大きく深い。
お互い顔を見て『なんで?』となっているが、フェリクス先生は、石膏の材料で、貴族らしい物を作成して見せてくれた。
レンガは、角が丸くなっていて、きめ細かな模様が入っている。お皿は楕円形で、周りは花びらの飾りが施されていた。
「形が決まったら、風魔法で乾燥させ、魔法で絵の具も書き入れる、そして火魔法で一気に焼く、これで完成、君たちは、ここまで望むかい?」
「‥‥‥」
フェリクス先生の出来上がった作品を見て、ホーリーとケルフは、何も答えられなかった。
「君たちは、魔術の勉強は、まだ基礎知識だけでしょ?今の工程にも魔術がいくつか入っているから、しばらくは、何の魔術が必要か考え、制作の腕をあげる事に専念して下さい。それでは、2人とも、この教室に通う事は許可します」
そして、フェリクス先生は、ケルフにレンガをホーリーにお皿をプレゼントして去って行った。
◇◇◇◇◇◇
帰り道、
「ホーリー、フェリクス先生、凄かったな?」とケルフは言う。
「サラサラした土から、あんなきれいなレンガとお皿ができるなんて、信じられない。2人も出来るのか?」とプレジーが心配そうに話す。
「でも、先生が見本を見せてくれたでしょ?だから、イメージは出来たよね?」
「魔術がどこに使われているかが、全然、わからなかっただろ?」
「ええ、皆目見当もつかない。でも、許可が下りたのだから、まずは、基礎魔術の教室に通ってみましょう?」
「後、土はどうする?」
「あんな綺麗な教室に泥粘土は持ち込めないよな?」
「‥‥‥、アレクサンダーの馬房の近くに、土がたくさんあったけど、今、見た土魔法で、粘土にできないかな?」
「あれ、土じゃなくて糞じゃねぇ?」
「‥‥‥、じゃあ、土魔法の練習場の近くとかありそうだよね?」
「あそこは、人が多いぞ、注目されるって!」
「‥‥‥、明日、基礎魔術の授業が終わってから、アレクサンダーの馬房に集合して、粘土探しをするか?」
「うーん、いいえ、ここは、ジェシーお姉さんにお願いして、ベル商会に探してもらおうよ。貴族学校に持ち込んでも大丈夫なようにしてもらいましょう。あの教室で糞臭いとまずいし、土魔法の練習場から拝借する事も出来ないしね」
「それが一番安全だな」3人は頷いた。
次の日、ジェシーお姉さんに説明して、ベル商会に注文してもらい。1週間後には、綺麗な木箱に入った粘土が到着した。
陶芸の専門店が扱っている粘土は、ホーリータウンの粘土とは少し違うが、3人は、自分たちが捏ねた粘土と同じ状態だと指でつついて確認した。
「ホーリータウンの粘土、乾燥していたらショックだよね?」
「でも、あの時、散々捏ねたから、イメージはつかめてる」と、ケルフは言う。
「そっか、そうだよね。先ずは、少し自分たちで練習してみる?」
「どこで?」
粘土の木箱は、重くて、ケルフとプレジーの部屋から出し入れできない。貴族学校の敷地内は映像魔法が見張っていて、挙動不審で通報されたら困る。
「う~~ん、芸術教室で?」
「あそこ?あんな静かな場所で?」
「仕方がないよ。女子寮に来る勇気はないでしょ?」
「ないな‥‥」
次の日、プレジーは、ちょっと大き目なワゴンを押し、ケルフとホーリーについて教室内に入った。ジェシーお姉さんが用意してくれたワゴンは、お貴族様の食事を運ぶワゴン車で、芸術教室に入っても遜色ない作りになっている。
「これ、凄い押しやすいよ」
「きっと、どこかに魔法陣が埋め込まれているのよ。このワゴン、いくらするのかしら?川の水汲みにも欲しいくらいね」
「こんなきれいなの使えないよ。それに、アレクサンダーが一番いいよ」とプレジーは否定する
「そうだね。ふふふふ」
それから、教室の隅での自主練習を開始した。ジェシーお姉さんには、樹脂で出来た手袋もたくさんお願いしたので、手も汚れずに優雅に作業が進む、昼食の時間は、誰もいなくなるので、ついでに作業用の机と椅子で昼食も取れて、3人は、この場所に馴染んで行った。




