貴族学校⑥
第18章
「皇子!!」
「やめろ!ホーリー、やめるんだ!!」と叫んだ第2皇子の大声で、大勢の側近が駆け寄って来て、その場はおさまり解散となった。
◇◇◇◇◇◇
魔法奴隷は平民以下だと、お貴族様に侮辱されたことは、ケルフにも言えずに、ただ、氷室の権利をもらえたと報告した。
「だから、明日、氷室を買いに行くの」
「1人で大丈夫か?」
「大丈夫よ、アレクサンダーもいるし、遠出は久しぶりだから、嬉しいわ」
「ケルフは叔父さんの家に行くのでしょう?」
「そうなんだよね、心配してるからね」と、はにかむ。
入学して3か月、やっと、外出許可がおりた学生たちは、みんな家に戻ったり、買い物に出たりする。
当日のホーリーは朝から大忙し、着替えて、部屋で食事も取って、買い物リストを何度も見直して、部屋の魔法陣を発動して、アレクサンダーの馬房に向かう。
「外出するたびに、魔法陣の発動に時間がかかるんだよね、順番を間違えると泥棒に入られるって、リンさんが言うからさ」と、アレクサンダーに、愚痴を言いながら出発した。
久しぶりのベル商会で、少し浮かれながら店に入ると、この前の女性店員さんが来てくれた。
「氷室の権利がもらえたので、買いに来ました」と明るく言う。
「わぁ!それはすごいですね。ベル商会でも、下級貴族と契約して、何とか氷室を確保しているのですよ」
「そんなに貴重なのですか?」
「そうです、凄いです。氷室のお店は別の棟になりますので、ご案内しますね」
ベル商会は、何店舗あるのかと思いながら移動する。
「こちらはどうですか?寮のお部屋に置くのですよね?」
「そうです。うーん、今だけなら、これくらいで良いかな、でも、家に持ち帰るとなると、もう少し大きいのが必要かなぁ?」
「この上のランクですと、店舗用になりますが?」
「将来は宿屋を開きたいので、大きい方が良いです」
「でも、今のお部屋には入りますか?」
「ええ、入ります」と、にっこり笑う。
店員さんは不思議そうな顔をしているが、笑顔で大丈夫だと言う。残りの買い物はメモを渡し、他の店員さんが用意してくれる。
「食材のお店はないですよね?」
「ありますよ、通りの向こうです。ご案内します」
あるんだ!と、思いながら案内されて、場所を確認した後に、ここからは1人で大丈夫だと伝えて、1人で食料品の店に移動する。
移動しながら周りを警戒していると、リンさんの魔術具が反応してる。魔力探知の魔術具は、貴族学校では出番がないが、平民の町中では、ビビビと、反応する。
下級貴族の剣士か、平民の貴族学校の出身者だ。彼らは、魔力が少なく上級貴族に雇われる。それでしか生きる事ができないのか、上の命令は絶対だ!ホーリーは、同時に、映像の魔術具も発動させた。
映像の魔術具は360度の撮影が可能で、その場にいた人物を撮影出来るらしいが、結構、魔力を使う。
「早く、襲ってきてよ。魔力が持たないわ」と思い、誘いの裏道に入った。
襲撃は、裏道に入ったと同時だった。相手は3人、外套とマスク、お決まりの怪しすぎる出立ちだ。
相手は遅い火の魔力剣士だから、ホーリーは、氷魔法を発動する。アイスリー先生に、教えてもらったナイフではなく、手裏剣とブーメランの小型が混ざった魔法で、避けてもブーメランは戻ってまた、彼らを襲う!
実は、この魔法を、試したかった。相手が斬りかかる1秒前で間に合うか知りたかった。
「ぐぇ!」と言う声が聞こえて3人が負傷したのを確認してから「キャー!助けて!」と、ホーリーは、叫んだ。
直ぐに、人がやってきて、3人は御用どなった。
「ホーリーさん、大丈夫ですか?」と、ベル商会の人たちが確認すると、逃げ回った時に怪我していて、「足が痛いです。あっ、手と肩も‥‥‥」と言うと気絶した。
ベル商会に運ばれて、民間の医師に治療してもらい、応接室で爆睡して目が覚めると、クリフトルさんが入って来た。
「ホーリーさん、大丈夫ですか?」
「はい、お医者様に治療して頂いて、高いポーションも飲みましたから、大丈夫です。回復するまで休ませてもらってすいません」
「いいえ、とんでもない。実は、こんな時になんですが、こちらからも、ご報告があります。あの水筒が物凄く売れまして、今回、軍部からも大量の注文がきましたので、今日、入金させて頂きたいのですが、よろしいですか?」
「それでは、今日の代金を差し引いて下さい。あぁ、食材は、駄目になりましたか?」
「食材は、新しく揃えて氷室に入れてあります。氷もサービスしておきましたから、慌てて帰る必要はありませんよ」
ゆっくりして欲しいと懇願されたが、睡眠もとれたので大丈夫だと言って寮に戻った。
アレクサンダーが心配そうに何度も振り返るが、大丈夫だよと言って笑顔で話しかけながら帰った。
◇◇◇◇◇◇
アレクサンダーの馬房に到着すると、第2皇子の側近が待っていて、一緒に来て欲しいと言われた。
当然だが、断る事も出来ずに、荷物を箱馬車の移動魔法陣で搬入し、アレクサンダーに水や餌を与えてから、手土産を持参して第2皇子の離宮を訪れた。初めて貴族学校の皇室専用の建物を訪れたが、平民職員寮との違いは歴然で圧倒される。
(ここは、咲いてる花も、飛んでいる鳥さえも違うように思える)
キョロキョロ見ても、躓きそうになっても、側近たちは何も言わない。立派な大人たちだ。
「こちらです。少しお待ちください」と言って、執事風の紳士に言われ、背筋を伸ばして待つ。
「どうぞ、お入り下さい」と言われ、入ると神官が待っていて、回復魔法をかけて下さった。
「皇子がお待ちです」と、奥の部屋に通され、やっと皇子の顔が見えた。
「どうぞ」と言われ、手土産を執事紳士に渡し、席に着く。
「大変だったね。ケガの具合はどう?」とすべてを知っているように話す。
「もしかして、助けて下さったのは、第2皇子の方でしたか?彼らを拘束したのも彼らでしたか‥‥」
「そうだが、まさか、襲撃されるとは思っても見なかったよ。今日は、君の行動を知りたかっただけだ。リン氏の部屋に入って、彼の店に通い、一緒に商売もしているのも予想外で、驚きの連続だった」
「第2皇子、何が目的ですか?」
「君は、今日、映像の魔術具を発動したよね?それを見せて欲しい」
ホーリーは素直に映像を映し出した。360度の広範囲に広がる映像には、フリーネ伯爵の馬車がしっかりと映し出されてた。
「彼女を庇うのですか?」と、ホーリーは聞く
「嫌、今の時代、彼女の存在は、危険だと思っている。理由は‥‥」
「ここまでしっかり証拠が残っていては、伯爵も納得するだろうから、映像を渡して欲しい」
「私は構いませんが、私は被害者ですよね?ケガをして、食材もダメになって、服も新しく購入して、更に、証拠の魔術具も提供し、平民に手を出した貴族の名声も守る。私に利点はないのですか?もしかして、ここへの招待が、報酬ですか?」
「‥‥報酬は、‥‥お金か?」
「いいえ、芸術教室への許可を下さい」
「君は、氷魔法を得て、それで生きて行くのではないのか?」
「いいえ、陶芸で身を立てたいと思っています。私とケルフに芸術教室への許可を頂きたいです」
「ケルフとは?」
「平民の友達で、一緒に陶芸をする仲間です」
「芸術教室に入って、君の望む陶芸と言う物があるのか?」
「例え、陶芸はなくても絵はありますよね?絵があれば絵の具があります。絵の具の精製魔法も知りたいのです。それに、彫刻や美術鑑賞も楽しみです」
「そうか、では、教務部には僕の方から打診しておく、芸術教室に通うといい」
◇◇◇◇◇◇
通常平民たちは、職業重視で、芸術教室とはかけ離れている。芸術教室に通うのは、お貴族様のご令嬢が多く、たまに上級貴族のご子息様も教養の為に顔を出す。平民とはかけ離れた世界だ。
プレジーの事前の調査で、芸術教室を知り、今回の入室が認められた。ホーリーひとりでは、教室を探しだせなかったかも知れないので、プレジーにたくさん感謝した。
ちなみにケルフは芸術教室の内容を聞いて、しばらく固まっていた。




