11. 分水嶺
こんにちは!
宜しくお願いします!
10数メートル向こうに着地したワイバーンらしき物体は、直ぐ様浮上し迅達『楽団』パーティの目前に姿を現わす。
「おぉ…、近くに来てみりゃまた、デケぇな。」
思わず感嘆の声を漏らす迅だが、背後に居たリィナは怯えている。
バレットが前列から戻り寄り添って声を掛けてはいるが、リィナの耳には届いていない様子である。
「ジャンヌ、コイツらは眷属か何かに入んのか?」
「残念だね御主人! コイツらはトカゲに近いヤツらサ! もうイイかい!?」
「ああ、構わん! ヴェルティ、もう一体頼む。 バレットとリィナは待機だ! 撃てそうなら魔法か鏢を撃ち込んでくれ。 残りの一体は俺が殺る!」
迅は指示を飛ばすと、ブリューナクを肩に提げて走り出す。
直後にヴェルティも走り始め、ジャンヌはターゲットを決めて殴りかかった。
「しかしまぁ、デケぇが大丈夫かねぇ? こういうのを狩るゲームも曾孫共と散々やったが、実際に狩るのは初めてだぞ?」
迅は思い出がふと過って口にする。
だが目前のワイバーンは現実であり、某ハンターの様に何とかしなければならない。
そうこう考えていると、迅がターゲットにしたワイバーンが口を開け、喉の奥が燃え始める。
「おぉ、何かスゲぇトコ見てるな! …っと!」
感動も束の間、口から吐かれた火球を危なげなく避けながら、迅の射程圏内に到達する。
先ずは一撃という事で、斧刃の方で横薙ぎに一閃すると、
「え、あぁ!? 嘘だろ!?」
迅の一閃は斬っただろうか程度の感触しか手元に伝わってこず、しかし目前のワイバーンは胴部からスッパリと、まるで豆腐でも切るかの様に抵抗も無く、そして綺麗な切り口で両断された。
迅は改めて神器であるブリューナクの威力を思い知るも、当のブリューナクは微かに震えて自慢気な感じが漂う。
「いや、張り合い無くなるぜ、マジでよぉ。 気合い入れたのがバカみてぇじゃねぇか。」
ブリューナクに付いたワイバーンの体液を血振りで払うと、周囲を見渡す。
ジャンヌは遊んでいるのか、大剣の使用は防御に回し、鉄拳のみで制する事を優先している様子である。
ヴェルティは蠍の両鋏で自慢の盾剣を一つづつ持ち、背中に差していた二本のランスを両手で振り回している。
迅は当然初めて見るスタイルだが、ヴェルティも恐らく初めてなのか、少々動きがぎこちなく見える。
火球や尻尾による叩き付けを器用に盾でいなし、ランスで突いたり斬りつけたりと攻防を繰り広げていた。
「ヴェルティのヤツ、器用にまぁ…。 アイツなりに今後を見据えてくれてんのかねぇ?」
素直に感心していると、後方からリィナとバレットが走り寄ってきた。
「ジン、大変です! 包囲が狭められ始めましたよっ!」
「ワイバーンで制圧出来て無ぇから焦れやがったか。 ジャンヌ、ヴェルティ! そろそろ仕留めろ! 第二波が来んぞ!!」
「判ったよ!」「畏まりました!」
その言葉の瞬間、ジャンヌは相対するワイバーンの頭部左方に瞬時に回り込み、こめかみ辺りに左ストレートを打ち抜くと、ワイバーンの頭は風船の様に破裂した。
ヴェルティの方も目にも留まらぬ速さで刃を着けてない尻尾を振り回すと、ワイバーンは大量に吐血しながら緊急停止して落下した。
「よくやった! リィナ、出会い頭に範囲魔法を撃ってくれ。 出来るか?」
「それは大丈夫なのですが…、その…。」
リィナの様子を迅は即座に理解する。
「リィナ、冒険者なんてのはヤクザな生き方だ。 その日暮らしの気ままな流れ者ってイメージを持ってんのかもしんねぇが、人の欲望に振り回されたり他者の命を奪ったりしなきゃならん。 お前もよく理解してるだろうが、この生き方の本当の敵は獣やら何やらじゃなく、ヒトだ。 ヒトの命を獲る覚悟が無いなら、此処が引き返せるギリギリだ。」
切羽詰まった状況にも関わらず、迅はリィナに対して真剣に向き合い思いを告げる。
冒険者としては初心者の迅であるが、数日見ただけで生き方として真っ当ではない事を理解している。
貴族の娘でもあるリィナでは、この道は苛烈を極めると考えていた。
だが、
「ありがとう、ジン…。 私の事もちゃんと、考えてくれてたんですね。 大丈夫です。 先日の出来事を踏まえて、私もヒトの恐ろしさは理解したつもりですし、冒険者の生き方も覚悟してます。 大丈夫…大丈夫です!」
リィナの言葉、そして何より強い意志の宿る眼に迅は大きく頷いて前を向いた。
「判った。 そこまで言うならお前の覚悟を買う。 …頼むぜ、リーダー!」
リィナは生唾を飲み込み、大きく一息吐き出す。
そして、詠唱を二言三言口にすると、大きな声で魔法名を叫ぶ。
「逝きなさい! [ランド・ブラスト]!!」
「お…おおおおお!? こ、これが魔法かよっ!」
迅は驚きに目を剥くが、自身の指定した範囲魔法である。
リィナが杖代わりのショートソードを掲げ振り降ろすと、『楽団』パーティの先頭にいたジャンヌから数メートル先の地面より直上に爆発が起こる。
それが一つでは無く、そこを先端として進行方向・扇状に何発も爆発が連鎖する。
【魔法術】アビリティの炎熱属性と天地属性を併せ持つ上級スキル[ランド・ブラスト]。
リィナは省略詠唱にて撃ち出したが、本来二属性を併せ持つ上に上級カテゴリーに区分される魔法はかなり長い詠唱が必要である。
にも関わらず省略詠唱が出来るリィナもまた、才気溢れる存在であった。
「こいつぁ…たまげたな。 何つー威力だよ…。」
流石の迅も驚き、目を白黒させている。
リィナの隣に居るバレットは、何故か自慢気に胸を張る。
ジャンヌとヴェルティもまた、驚いていた。
「さっすがリーダーだけあるな、リィナ! 正直普段のアンタからは想像もつかなかったよ! 見直したよ!」
「素晴らしい才能で御座いますね、リィナさん。 これで我々の行く道に、益々障害が無くなって行きますね。」
「エヘヘ、ありがとう…。」
その遣り取りに、迅は一つ水を差す。
「リィナ、今の魔法で何人殺れたんだ?」
「あ…、えっと…、はい、30人、弱、です。」
「そうか。 リィナ、今の苦しい気持ちを忘れるなよ。 それを忘れちまったら、後は修羅になるしかねぇ。 お前はあくまで『冒険者』なんだ。 其れだけは忘れるんじゃねぇぞ?」
「…はい。 ありがとう、ジン。」
少々顔色の悪いリィナを思い、迅は即座に声を掛ける。
命の重さ、そして誰が相手でも簡単に命を奪う事に慣れて欲しくない、口下手な迅の精一杯の言葉であった。
「バレット、ヴェルティ、奴さん達の動きは判るか?」
「うむ。 散り散りだ。 皆逃げ始めておる。 他愛無い。」
「よし。 取り敢えず一件落着ってトコか。 リィナ、第三波が来ないとも限らん。 出来れば探知魔法は使い続けてくれると助かる。」
「ええ、その程度なら問題ありませんよ? 二日三日続けてたって魔力切れにはなりませんから大丈夫です!」
迅は可愛らしくガッツポーズを見せるリィナに頷くと、建物の方へ視線を遣った。
「よし、一旦現状把握だな。 見通しは此処が良さそうだし、手分けしてこの広場に全員集めよう。」
迅がそう指示し、パーティメンバーは其々動き始めた。
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