7. 食
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皮を乾燥させた二人は、一晩の拠点に戻り熊肉を食べるべく焼いていた。
拠点までの道程の途中、塩が無いから岩塩を探そうとか、香草が少ないから範囲を広げて採ろうとか言い出す人がおり、都度宥めてとしていたら余計な時間が掛かった。
リィナは空腹が限界近くに来ていたのだが、同じく空腹の筈の迅は『美味いモノ』に拘る傾向があるらしい。
現在は冒険者として暮らしているリィナからすれば、食事など空腹が満たされればそれでOKと考える様にシフトしていたが、食事に重きを置く迅は実家の料理長とダブって見えた。
そんな事を考えていると、迅から声が掛かった。
「取り敢えず一つづつ焼けたぞ。 食うとしようや。」
そう言うと周辺にある木々の枝で串焼きにした熊肉を、一串リィナに差し出した。
熊肉を食べるのは初めてであるリィナは、少々戸惑う。
その様子に気付いたのか、迅はリィナに声を掛ける。
「物は試しだ。 こうやってガブッと勢い良く齧っちまえ。」
そう言いながら迅は齧り付くが、自分の世界の熊肉とはまるで違う事を瞬時に理解する。
雑食性の熊は基本的に臭みが凄い。
そして硬いというのが定説である。
しかしこのデッドベアという種はまるで正反対であった。
香草の力もあるのだろうが雑食獣独特の臭みは全く感じない。
肉も程良い脂肪分が柔らかさに拍車を掛け、顎が疲れるという事は全く感じない。
総じて美味い、という感想が出てくる。
「コイツぁ、イイなぁ。 美味ぇ! リィナが塩を持ってたお陰で肉の味わいがキッチリ伝わるな! 感謝感謝だぜ!」
目前でとても美味しそうに串に刺さった肉を齧っている迅を見ていると唾液が溢れ出してくる。
空腹も後押しし、思い切って噛り付いた。
噛んだ瞬間に肉汁が溢れ出し、思わず地面に溢してしまう。
少し顎に力を入れると、アッサリと千切れた肉を口内で咀嚼すると、その度に旨味が溢れ出してきた。
「何コレ…。 すっごい…美味しい!!」
良家のお嬢様の舌すら唸らせる肉は、あっという間に3分の1近くが消える。
その殆どが迅の胃袋に収められている。
しかし、後3分の2以上もある。
残すのは勿体無い為、一旦次元鞄に収めようと考え、近くに群生していた大きな葉で包んでいく。
その光景をリィナは次の料理の下準備だと勘違いしたらしい。
「ジン…、貴方、あれだけ食べて…まだ入るんですか!?」
「馬鹿言え。 俺ももう食えねぇよ。 次元鞄に保存しとくんだ。 多分出来るだろ。」
何の気なしに返答した直後、自身の答弁がマズかった事に気付く。
この世界の住人は『次元鞄』という便利グッズなど、見た事も聞いた事もないと先般神様から聞いたばかりだ。
「じげん、かばん? 何ですか、それ?」
と、当然の質問が飛んでくるが、言ってしまったものは仕方が無い。
諦めて説明と口止めをする為に、迅はリィナに向き直る。
「頼むから黙っててくれよ。 所謂空間魔法的なモノなんだ。 他人にバレると多分争奪戦が起きるだろうし、その分俺の手に掛かった死人が出る。」
これだけ言えば大丈夫だろうと考えた迅であったが、リィナの考えは斜め上を軽く飛び越える。
「他人にって事は、私はもう他人とは言えない関係者って事かしら…? って事は、正式にパーティとなってくれるんですか!?」
「いや、そうは言ってねぇ。」
期待虚しく、バッサリと切って棄てられたリィナは、熊皮の上で膝から崩れ落ちる。
その様子に迅は、だが、と言葉を続ける。
「少なくとも、この世界の中で現時点で俺に一番近しいヤツはリィナ、お前さんだ。 街までとは言え、臨時でもパーティはパーティだ。 だからまぁ何だ、宜しく頼むぜ。」
恥ずかしいのか、頬を人差し指で掻きつつ手を差し伸べる迅。
落として上げるのは卑怯だと言いたかったが、迅の意外な表情にクスリと、笑って握手を受け入れた。
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