8. 襲撃…?
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臨時パーティの絆の様なモノの確認が終わり、迅はリィナに次元鞄の使用を見せようとしていた。
空間魔法など聞いた事も無かったリィナは興味津々であり、流石魔法の申し子の様な種族だなと迅は感心する。
だが熊肉をしまおうとした時、いつの間にか次元鞄に入っていたブリューナクが、急に空間の裂け目より柄の方から飛び出してきた。
「え、ええ!? な、何がどうなって、ええ!?」
あまりの衝撃的な光景にリィナが大声で驚くが、相棒達のリスクセンサーが働いたと判った迅は直ぐにリィナを黙らせる。
「シッ! 静かに。 火を消してくれ。」
リィナの口を抑え、耳元にゆっくり近付いて迅はそう呟く。
あまりの展開にリィナの心臓は張り裂けそうな程の鼓動を刻むが、迅は御構い無しである。
「早くしろ。 多分だが、遠巻きに囲まれてる。 …メシに夢中になり過ぎたな。 耄碌したモンだぜ。」
その言葉にリィナは目で驚きを露わにする。
迅としてもしくじったと言わんばかりに、苦々しい表情になる。
口元から手を離されたリィナは取り敢えず消火を任された為、氷結魔法で一気に焚き火を消した。
辺り一面に闇が広がり、虫や風の音しか聞こえない。
すると再び迅がリィナの耳元で囁く。
「リィナ、探知魔法で人か動物かは判断出来るか?」
くすぐったいやら何やらを抑え、努めて冷静に返答する。
「んッ……はい、大丈夫です。」
「それじゃそれだけ探知してくれ。 どっちだろうが何者だろうが、後は俺が何とかする。」
迅は、ブリューナクを地面に伏せて隠し、戦闘態勢を取る。
程なくしてリィナの探知が終わり、結果が伝えられる。
「人型ですね。 人数は10人…です。 か、かなり多いですね…。」
「判った。 熊の下にゆっくり入って隠れてろ。 出来たら耳も塞いどけ。」
そう言うとゆっくりと動き始める。
途端にリィナは不安になり、小さい声に留めながら声を掛ける。
「じ、ジン!? …こ、此処に居てはくれないのですか?」
「…熊の下に隠れろと言っただろ? 安心して待ってろ。」
不安は決して小さくないものの、迅の言葉にリィナは少し落ち着く。
そうして熊の下に入ろうとした時、更なるお客さんが探知魔法に引っ掛かる。
「待って下さい、ジン! 新手です! 四つ足…動物型です! 人型の包囲を更に大きく包囲しています…!」
流石に予想外となったか、迅は一旦拠点に留まる事を決意する。
「リィナ。 状況を把握出来る範囲で教えてくれ。 それによって動くかどうか決める。 荷物は適当に纏めるぞ。」
そう言うと探知魔法を使用しているリィナの周囲で退去準備を始める。
「動きました! あ、動物型が人型を襲っている様です! 人型の数がどんどん…。」
聞こえてきても良さそうな悲鳴や唸り声が全く聞こえて来ない。
獣害はかなり悲惨な事になる為、そういった声が出る筈だが、様子がおかしい。
訝しむ迅の後ろからリィナが状況報告をする。
「ひ、人型…全滅です…。 動物型は包囲を狭めてきています…。 数にして、20、まだ増えます…。」
「数はもういい。 音も声も無く襲ってくる様な動物がこの森に住んでんのか?」
「はい。 恐らくですが『アサシン・ウルフ』と呼ばれる狼種か、『ナイト・パンサー』と呼ばれる豹種かと思われます。前者は黒に近いグレーの毛皮に、尻尾を入れずに体長2メートル以上になる個体もいる様な種類です。 後者も体型的にはほぼ同じですが、毛の長さや身体の柔らかさ等が違いますね。 どちらも組織的で素早く、暗殺者の様に暗闇を狩場にします。」
そうか、と一言溢し迅は全神経を索敵に集中する。
大昔に戦場で毎日行ってきた、命を手繰る生き方を思い出す。
右手に握ったブリューナクの振動が徐々に強くなる事で開戦が近い事を感じる。
対動物だと実は罪悪感が大きいのが難点であるが、自身とパートナーのリィナの命が掛かっている。
余計な情は不要だと言わんばかりに、迅の殺気が一気に放出される。
その殺気に一番近いリィナは、理解出来ないにも関わらず身を竦める程だ。
そうして正面の茂みや頭上の枝葉に集中していた迅は、目の前の茂みから敵意の無い黒豹の群れがゆっくりと出てきて拍子抜けする事態となる。
「…あぁ?」
そう言うしか無い光景が、夜の森に広がっている。
先程盗賊らしき人型の存在を食い破ってきたであろう黒豹達が、迅達の目の前に来ては『伏せ』の体制をとる。
出ては伏せを繰り返していると、恐らく最後の個体であろう一回り以上大型の『ナイト・パンサー』が出てきた。
群れのボスであろうその個体を見た迅は、ブリューナクを手に戦闘体制を取る。
だが、ボス個体は思い掛けない行動に出た。
「…おい、何の真似だ?」
他の個体同様に『伏せ』の体制になったボス個体に対して迅が言葉を掛ける。
すると、伏せ状態のボスから返答あり、リィナ共々驚く事になる。
「我々ノ宿敵ヲ討チ亡ボシタ貴公ニ対スル敬意ト受ケ取ッテ貰イタイ。」
「お前さん、人の言葉を理解しているのか!」
迅にとって喋る動物は初めてである。
凄まじい驚きの後で、リィナが補足説明をする。
「ジン、こういった生き物は多数存在しますよ? 主に『レベル』の高い個体は、各種言語を理解しますね。 本当、知らない事が多くて不思議な人ですね。」
「マジか…。 そりゃコミュニケーションが捗って何よりだな。」
呆れると言うか、驚きを隠せない迅であったが、世界の住人が言うのである。
それがこの異世界の理なのであろう、と理解する。
「宿敵っつーのは、俺達の尻の下で寝てるコイツか?」
確認の為、迅は『ナイト・パンサー』の頭領らしき個体に言葉を投げ掛ける。
「アァ、ソウダ。 其奴ハ我等ノ森ヲ数エ切レヌ程ニ蹂躙シ、種ノ存在ヤ森ノ生態系ヲ脅カシタ。 我々ノ種二討伐ガ回ッテ来タガ、我々モ又幾頭モノ犠牲ヲ余儀無クサレタ。」
他の森に住む動物達がが泣きつく先が『ナイト・パンサー』である様だ。
そして彼等の種は、その願いを自身の命を懸けて聞き入れる様だ。
そこに人間の理解は及ばない。
自然に生き、自然と調和する彼等の種にしか判らない理が其処に生きている。
そういった事を迅は理解したのか、自身の目の前にある梱包された熊肉の幾つかを豹達の目前へ投げる。
「結果的に俺が倒したが、お前達も共に戦ったのだろう? ならば、お前達もその肉を食う権利はある訳だ。 持ち帰るつもりだったが、権利者が居るのであれば話は別だ。 存分に味わってくれ。 我々と敵対するつもりが無いのであれば、此方とて事を構える気は毛頭無い!」
勢いに任せて一気に押し込む。
そうでもしないとリィナの神経が焼き切れて倒れてしまいそうであった。
戦うのか休めるのか、ハッキリして欲しいと言わんばかりの眼差しで迅をずっと見つめている。
そんなモン俺に聞くな、と言いたい迅だが、余計な事をして話を拗らせたくなかった為、リィナの視線を放置していた。
それも限界であると察しての捲し立てである。
「ソレハ我々モ同ジダ。 争イニ来タ訳デハ無イ。 ダガ、施シヲ受ケニ来タ訳デモ無イ。 ソレハ貴公達ノ戦利品デアロウ。 貴公達ガ食スノガ道理デナイカ?」
「まぁ至極尤もだとは思うがな。 だが、先刻俺達の窮地を救ってくれた事もまた事実だろう? 助け助けられといった関係に知らぬ内になった訳じゃあねぇか。 なら、施しでは無ぇだろう?」
頑固なボスを更に押し込むと、暫し黙ってしまった。
リィナは戦闘に発展しない事が判り、迅が梱包した荷物を再度広げ始めた。
「貴公ノ話ハ判ッタ。 ナラバ怨敵ノ肉ヲ一族デ頂クトサセテ貰オウ。 一族ヲ代表シテ、心ヨリ御礼ヲ言ワセテ貰ウ。」
「気にすんなっての。 此方こそあんがとな。」
そう言って迅は残った熊肉の半分を群れに譲った。
残りの半分は次元鞄に興味津々だったリィナの目の前で、仕舞う様子を見せながら収納した。
勿論、戦闘体制は解除されたのでブリューナクも共に放り込む。
「便利ですねー、空間魔法。 いいなぁ、私も欲しいなぁ…。」
「世界を巡って探してみるんだな。 古い文献に載ってても良いモンだがなぁ。」
「ええ、載ってはいたんですが…常に持ってるのは『勇者』でして…。 え、ひょっとしてジンって勇者!?」
唐突な質問に口に含んだ水を吹き出すと、急いで否定する。
「こんな適当な勇者が居てたまるか! 奴等の様に世の為人の為、みたいな生活出来るかってんだ!」
夜の森に迅の叫び声と、それに釣られてナイト・パンサー達の咆哮が響き渡った。
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