第六節 女王の肉体
夜の王が崩れたあと、中央再接続室には、しばらく誰の声もなかった。
ただ、影だけが動いていた。
黒瀬理人だったものは、白い床の上に膝をついた姿勢のまま、形を保てなくなっている。肉体はまだそこにある。だが、その中から主影核が砕け、歴代の影紋が剥がれ落ちたせいで、人としての輪郭が内側から消えていく。
医療用コートの袖。
白い指。
頬の線。
黒い瞳。
それらが一瞬だけ別々の肉体の記憶へほどけ、すぐに灰のような影となって床へ落ちた。
夜の王は死んだ。
そう思いたかった。
だが、室内を流れる影の圧力は、まったく弱まっていない。
むしろ、強くなっている。
制御する手が消えたぶん、都市全体から引き込まれた影が、行き場を失って暴れ始めていた。
天井の光源が、白、青、黄色、赤、紫へと明滅する。
そのたびに床の影が増え、割れ、重なり、また別の方向へ引き裂かれる。
戒十は左手を押さえた。
熱い。
痛いほど熱い。
足元の影が何度も湾岸側へ引かれ、また戒十の足元へ戻ろうとする。
「左手が熱い。影が引っ張られてる。方向が、揺れてる。クイーンの気配が強い。血の匂いは……カオルコの血。夜の王の影核の匂いも混じってる」
言葉にすると、少しだけ自分の輪郭が戻る。
純の声が通信から返った。
『記録しました。戒十、影の輪郭が二重に見えています。まだ共同操作はしないでください』
「わかってる」
「でも、来る」
影の戒十が言った。
戒十は足元を見る。
影の琥珀色の目が、中央にいるカオルコを見ている。
「何が」
「女王」
リサが息を呑んだ。
その名を聞いただけで、彼女の足元の薄い影が震えた。
カオルコは、夜の王だった影の残骸の前で膝をついている。
首元の金属リングは砕けていた。
白い医療用ガウンは黒い影に濡れ、片腕の採血痕からはもう血が流れていない。
彼女の背中から、影の花が咲いていた。
花弁ではない。
王冠の先端。
黒い棘。
その一つ一つが、カオルコの背骨へ食い込むように伸びている。
カオルコは肩で息をしていた。
自分の胸元を両手で押さえ、何かを必死に押し戻そうとしている。
「……わたくしは」
かすれた声。
カオルコの声だった。
「わたくしは、まだ」
そこで言葉が途切れた。
彼女の首が、がくりと落ちる。
床へ垂れた黒髪が、都市の影流へ浸かる。
リサが一歩踏み出した。
「カオルコ!」
シンが腕を伸ばして止める。
「近づくな」
「でも」
「もう定着が始まっている」
シンの声は低い。
リサはそれでも動こうとした。
その瞬間、カオルコの影が床を走った。
速い。
リサの足元へ向かって、黒い花の根が伸びる。
戒十の影が先に反応した。
「左!」
戒十は身体をひねり、影と同じ方向へ踏み込む。
爪ではなく、足裏で根の影を踏み潰す。
黒い花が悲鳴のような音を立てて裂けた。
リサはその場で止まる。
息が乱れていた。
「……ありがとう」
「まだです」
戒十はカオルコを見る。
いや、もうカオルコだけではない。
彼女の身体が、ゆっくり立ち上がる。
手足の動きはカオルコのものだ。
背筋の伸ばし方も、首を傾ける癖も、リサを見るときの未練が混じった目も、確かにカオルコのものだった。
だが、その奥に別の気配がある。
古い。
暗い。
肉体を持たないまま、百年以上待たされ続けた影の気配。
カオルコの唇が動いた。
「お姉さま」
リサの顔が強張る。
呼び方はカオルコだった。
しかし、声の奥は違う。
甘さの中に、氷のような怒りがある。
カオルコが、リサを姉として欲しがった感情。
クイーンが、リサを自分の肉体を奪った相手として憎んだ感情。
二つが重なり、一本の毒のような声になっていた。
「そんな顔をするのですね」
クイーンは、カオルコの顔で笑った。
「また、選び損ねた顔」
リサの手が震える。
「クイーン」
「ええ」
クイーンは嬉しそうに頷く。
その表情はカオルコのものだった。
だからこそ、痛かった。
「でも、今の私はカオルコでもありますの。彼女の声。彼女の血。彼女の傷。彼女があなたをお姉さまと呼びたかったこと。全部、ここにある」
彼女は自分の胸に手を当てた。
白い指の下で、黒い影核が脈打つ。
「あなたは、彼女も選ばなかった」
リサは言い返せなかった。
違う、と言いたかった。
でも、言えない。
カオルコを妹として受け入れるとは言えなかった。
彼女を器や作品としてだけ見るのは間違いだったと認めた。
でも、彼女が望む形では選べなかった。
それは事実だ。
クイーンは、その事実を正確に突いている。
そして、クイーン自身の傷も同じ場所にある。
リサは、クイーンを閉じ込めていた。
見ないふりをしていた。
それも事実だった。
「肉体を持つ者は」
クイーンが言った。
声からカオルコの甘さが薄れ、古い女の冷たさが前へ出てくる。
「いつも選ぶ側にいる」
中央再接続室の床で、都市の影がざわめいた。
「救うか、救わないか」
クイーンの足元から、黒い花びらが広がる。
「認めるか、認めないか」
リサのほとんどない影が、床へ貼りついた。
「名前を呼ぶか、呼ばないか」
戒十の影が、彼より半歩前へ出る。
「身体を与えるか、閉じ込めるか」
クイーンは、リサを見たまま笑う。
「影は待たされる。呼ばれるまで。許されるまで。危険ではないと判断されるまで。あなたたちの準備が整うまで。あなたたちが傷つかない距離に私たちを置けるまで」
「それで、あなたは何をするの」
リサの声は震えていた。
クイーンは答えた。
「今度は、私が選ぶ」
その瞬間、中央再接続室の天井が開いた。
物理的に開いたのではない。
天井に埋め込まれた無数の光源が、同時に外部映像を映し出した。
宵浜市の夜空。
まだ完全な深夜ではないはずだった。
だが、光源制御によって街全体が異様な暗さと明るさを同時に持ち、空には雲の切れ間から白い月が見えていた。
満月。
それが本物の月なのか、施設の投影と都市照明の反射が作った擬似的な満月なのか、戒十にはわからなかった。
ただ、その光は確かに影を作った。
強く、白く、冷たい光。
施設照明が下から照らす。
都市の街灯が湾岸へ向かって光を投げる。
月が上から降る。
三つの光源が重なり、カオルコの肉体を核にして、巨大な影が立ち上がった。
黒ではない。
銀白色。
光を受けた影。
矛盾した色を持つ巨大な人型が、中央再接続室の空間を満たしていく。
身体の外側は、宵浜市から集められた影でできていた。
ビルの窓枠。
街路樹。
駅の改札。
病院のベッド柵。
学校の机。
車のハンドル。
誰かの手。
誰かの髪。
誰かの足元。
無数の影が、女の形へ組み上がっていく。
頭上には、影の冠が形成された。
棘のような、花弁のような、猫の耳のようにも見える冠。
それを戴いた女王が、宵浜市の影の上に立つ。
リサが呟いた。
「……そんな姿、知らない」
クイーンは、銀白色の巨大な顔で彼女を見下ろした。
「あなたが知らない時間のほうが、長いのよ」
リサの表情が痛む。
クイーンの背後で、カオルコの顔が一瞬だけ浮かんだ。
苦しそうに歪む。
「わたくしは、まだ」
声はすぐに飲まれた。
クイーンが片手で、自分の胸元を押さえる。
カオルコの表情が消える。
「騒がしい子」
クイーンは静かに言った。
「けれど、役には立つ。あなたへの感情が深い。リサ、あなたを引き裂くには、とても便利」
「カオルコを道具にするな!」
戒十が叫んだ。
左手が熱くなり、影が飛び出そうとする。
純の声がすぐに響く。
『戒十、止まって! 影が冠のほうへ引かれています!』
戒十は足を床へ踏み込む。
影の戒十も、同じように床へ爪を立てた。
「左手が熱い。影が引かれてる。カオルコに反応。クイーンを殴りたい。噛みたい。でも、まだ動かない」
「僕も」
影が言う。
「動きたい。でも、まだ動かない」
純が、少しだけ息を吐く。
『記録しました。二人とも、そのまま』
クイーンは、面白そうに戒十を見る。
「あなたたちは、まだ相談しているのね」
銀白色の指が、戒十の影へ向けられる。
「肉体と影が並んでいる。けれど、どちらが選ぶのか、まだ決めきれていない」
「それを今、決めないために相談してるんだよ」
戒十は答えた。
「勝手に決めるあなたより、ずっとましだ」
クイーンの目が細くなる。
その瞳の奥に、猫のような琥珀色が一瞬だけ浮かんだ。
「勝手に決めたのは、肉体の側よ」
彼女は言った。
「影は、いつもあとから説明される。危険だから。未熟だから。今はまだ駄目だから。あなたも聞いたでしょう、戒十。身体を渡すと言われたときの気持ちを」
影の戒十が震えた。
戒十は足元を見る。
影は、黙っていた。
クイーンは続ける。
「肉体は、自分が美しく消えるために、影へ責任を押しつける。あるいは、影が望んだときだけ許可を出す。違う?」
「違わない」
影の戒十が言った。
戒十の胸が刺されたように痛む。
影は続ける。
「でも、だからって、あなたに選ばれたいわけじゃない」
クイーンの視線が影へ向く。
「身体が欲しくないの?」
「欲しい」
影は即答した。
「でも、誰かの身体を奪ってまで欲しいとは言ってない」
「それは肉体に教え込まれた倫理よ」
「違う」
影の声が低くなる。
「奪われる側の痛みを知ってるからだ」
その言葉に、戒十は息を呑んだ。
クイーンは、ほんの一瞬だけ表情を失った。
だが、すぐに笑う。
「ならば、肉体から影を解放すればよい」
彼女の声が、中央再接続室だけでなく、都市の影流へ乗った。
通信機がノイズを鳴らす。
管制室のほうでも、同じ声が響いているらしい。
純が息を呑む音が聞こえた。
クイーンの宣言が、宵浜市全域の影へ染み込む。
「肉体こそが檻」
街のどこかで、人の影が立ち上がる。
「影は肉体へ従属させられてきた」
駅のホームで、影が黄色い線の向こうへ先に進む。
「痛みも、怒りも、願いも、肉体が扱える範囲に押し込められる」
病院の廊下で、眠る患者の影がベッドから起き上がる。
「ならば、影を先に歩かせる」
旧市街の商店街で、閉店した看板の影が壁から剥がれる。
「肉体が追いつけないなら、置いていけばよい」
リサが叫ぶ。
「やめなさい!」
クイーンはリサを見る。
「あなたが、それを言うの?」
リサの声が詰まる。
「私を閉じ込めたあなたが?」
「私は」
「あなたは肉体を持っていた。私にはなかった。あなたは店を持ち、人を持ち、時間を持った。私はあなたの影として封じられた。あなたは私を危険と呼び、自分はリサと名乗った」
リサは震えている。
しかし、今度は逃げなかった。
「そうよ」
彼女は言った。
「私はあなたを閉じ込めた。見ないふりをした。怖かった。サリサへ戻されるのが怖かった。あなたに私の身体を奪われるのが怖かった」
クイーンの目が細くなる。
「懺悔?」
「違う」
リサは顔を上げる。
「それでも、あなたがカオルコを器にしていい理由にはならない」
クイーンの巨大な身体が揺れた。
カオルコの顔が、一瞬だけ胸の奥から浮かび上がる。
苦しげに。
怒りをこめて。
「お姉さま」
それはカオルコだった。
リサが息を呑む。
「カオルコ!」
だが、すぐにクイーンの声が上書きする。
「呼ぶのが遅い」
リサは歯を食いしばった。
それはクイーンの挑発だ。
カオルコの痛みを使っている。
わかっている。
それでも、痛い。
クイーンは巨大な手を広げた。
中央再接続室の床が割れるように、影流が四方へ広がる。
夜の王は影を一か所へ集め、再統合しようとした。
だが、クイーンは違う。
集めた影を、肉体から引き剥がし、影自身の行きたい方向へ解放しようとしている。
救済という名の解放。
肉体を置き去りにした自由。
それは、夜の王の思想の反転だった。
夜の王は、変化を許さず保存しようとした。
クイーンは、肉体の制約を捨て、影だけを走らせようとしている。
どちらも、本人へ聞いていない。
『市内の影流が拡散しています!』
純の声が緊迫する。
『駅前、病院、北部住宅地で影の離脱が増加。照明制御が効きません。クイーンが影そのものへ呼びかけています』
辰巳の声も入る。
『白昼局各班、影脈遮断を行うな! 繰り返す、遮断するな! 単一光源固定へ移行!』
別の通信が混ざる。
『無理です! 影が本人から走っていく!』
『拘束しろ!』
『拘束具が効かない!』
『処分派が遮断具を展開しています!』
灰田の怒号が通信に割り込む。
『遮断するなと言っている! 責任者の名前を出せ!』
市全体が崩れかけている。
戒十は床の影を見た。
自分の影も引かれている。
肉体から離れたがっているわけではない。
だが、クイーンの声が、影の中の欲望を揺さぶっている。
先に歩きたい。
身体を待ちたくない。
自分の願いを、肉体の許可なく叶えたい。
その衝動は、確かにある。
戒十の中にも、似たものがある。
誰かの許可を待ちたくない。
選ばれる側にいたくない。
見つけてほしい。
必要とされたい。
左手の熱が強くなる。
「戒十」
影の声。
「僕、引っ張られてる」
「わかってる」
「行きたいわけじゃない」
「うん」
「でも、行けそう」
戒十は息を吸った。
「じゃあ、止まる」
「止まる」
二人で言う。
足元の影が、戒十の足へぴたりと重なる。
完全ではない。
影の輪郭は震えている。
でも、離れない。
純の声が入る。
『戒十、影の離脱率が下がりました。そのまま。呼吸を合わせてください』
「合わせてる」
「君が少し速い」
「おまえが言うな」
「二人とも速いです」
純が言った。
こんな状況なのに、少しだけいつもの調子が戻る。
戒十は短く息を吐いた。
「わかった。落とす」
リサが銀糸を構える。
「純ちゃん、光源の隙は?」
『今、クイーンの外殻が月光、施設照明、市内街灯の三層で固定されています。単純に壊すと、市内の影が散ります』
「面倒な女王様だこと」
リサの声は震えていない。
だが、怒っていた。
シンが低く言う。
「足元を止める」
「無理だよ、あれ都市一つ分だよ」
「全部は止めない。流れの一部を縫う」
「シン」
リサが彼を見る。
「右腕」
「使える」
「無理する気?」
「申告する」
シンは短く答えた。
「右腕に痺れ。影接続は不安定。長時間は無理。だが、今必要だ」
純の声が即座に入る。
『必要だと決めた人の名前は?』
シンは一瞬だけ黙った。
それから答えた。
「俺だ」
『記録しました。無理を継続する場合、撤退判断は一人でしないでください』
「了解」
リサが小さく笑う。
「シンが管理されてる」
「必要な管理だ」
「素直」
「状況が悪い」
シンは影縫刀を構え直す。
クイーンは、それを見下ろしていた。
「縛るの?」
巨大な声が響く。
「また影を縛るの?」
シンは答えない。
刀の影を床へ沈める。
クイーンの足元ではなく、中央再接続室の床を流れる影流の一部へ。
縫う。
切るのではない。
流れを一時的に留める。
その瞬間、シンの右腕が大きく震えた。
影流の圧力が、刀を通して彼の腕へ戻る。
シンは歯を食いしばった。
戒十が動こうとする。
リサが叫ぶ。
「今は前!」
クイーンの巨大な手が、リサへ向かって伸びていた。
カオルコの感情を使って。
リサの罪を突くために。
お姉さま。
呼んで。
選んで。
遅い。
全部遅い。
無数の声が、黒い花びらとなってリサへ降る。
リサは逃げなかった。
銀糸を広げ、花びらを受け止める。
ひとつひとつが痛みを持っている。
クイーンの怒り。
カオルコの嫉妬。
リサ自身の罪悪感。
それらが銀糸を伝って彼女の指を裂く。
血が流れる。
その血が、ほとんど影のない足元へ落ちた。
リサは痛みに顔を歪めながら、それでも言った。
「カオルコ!」
クイーンの動きが、一瞬だけ止まる。
「あなたは器じゃない!」
銀白色の巨体の胸元で、カオルコの顔が浮かぶ。
苦しそうに。
ほんの一瞬。
「……わたくしは、まだ」
次の瞬間、クイーンがその顔を押し潰すように、影の冠を輝かせた。
「まだ、ではない」
彼女は言った。
「もう、私の肉体よ」
クイーンの影が、さらに大きく膨れ上がる。
中央再接続室の壁がひび割れる。
上部の投影天井に映る宵浜市の夜景が歪む。
街中の影が、肉体から半歩ずつ離れ始めた。
純の声が、叫びに近くなる。
『市内離脱率、上昇! このままだと、影が戻れなくなります!』
戒十はクイーンを見上げた。
巨大な銀白色の女王。
影の冠。
カオルコの肉体を核にして、都市の影を外殻にした存在。
夜の王が残した制御を食い破り、その思想を反転させ、今度は影の側から都市を飲もうとしている。
夜は、まだ終わらない。
だが、今ははっきりした。
夜の王ではない。
ここから先、本当に止めなければならないのは、女王だ。
戒十は足元の影へ言った。
「行くぞ」
「共同操作?」
「まだじゃない。準備」
「早く」
「焦るな」
「焦ってる」
「僕もだよ」
影が一瞬だけ黙った。
それから言った。
「じゃあ、言う」
「何を」
「怖い」
戒十は息を止めた。
影が怖いと言った。
怒りや欲望ではなく。
怖いと。
戒十は頷いた。
「僕も怖い」
「でも、行く?」
「行く」
「身体は渡すなよ」
「渡さない」
「僕も奪わない」
「知ってる」
純の声が入る。
『二人とも、準備はそこで止めてください。次に光源が揃う瞬間があります。そこまで待って』
リサが銀糸を張り直す。
シンが右腕の震えを押さえる。
クイーンが、都市の影を背負って笑う。
中央再接続室のすべての光が、銀白色の女王を照らしていた。
影を解放する。
女王はそう宣言した。
だが、戒十にはわかっていた。
それは解放ではない。
肉体の側が勝手に決めることと同じように、影の側が勝手に決めることもまた、誰かの人生を奪う。
足元の影が、彼と同じ方向を見ている。
まだ完全ではない。
でも、今だけは同じだった。
女王の肉体は、宵浜市の影でできている。
だからこそ、止めるには、街の影を傷つけずに取り戻さなければならない。
夜の王の死で空いた中央に、クイーンが立った。
その頭上の冠が、満月の光を受けて白く燃える。
宵浜市の影が、悲鳴のように揺れた。




