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シャドービハインド  作者: 秋月キアラ
第四章 夜の叛逆
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第五節 影のない女

 夜の王から送られてきた資料は、本物だった。


 少なくとも、リサにはそう見えた。


 臨時診療所の古いテーブルの上に端末を置き、彼女は受信したファイルを何度も読み返している。画面には、残香型影咬に対する初期安定化処置、影脈反応の抑制方法、単一光源下での一時固定手順、拒絶反応が出た場合の光量調整値が並んでいた。


 文章は簡潔だった。


 無駄がない。


 患者の苦痛を説明する言葉さえ、正確で、冷たい。


 だからこそ、役に立つ。


 リサはその事実に、何度も傷ついているようだった。


 彼女は端末の画面を見ながら、時々、唇を噛む。


 必要な情報がそこにある。


 だが、それは夜の王の手から来たものだ。


 純の命を救うために、彼の知識を使わなければならない。


 その現実が、臨時診療所の空気を重くしていた。


 医療用ライトは一つだけ灯っている。


 床には、それぞれの影が一本ずつ落ちている。


 純の影は右側が欠け、少し遅れて揺れる。


 戒十の影は濃く、時々、本人よりわずかに先に呼吸する。


 シンの影は、入口近くで細く、鋭い。


 そしてリサの足元には、ほとんど何もない。


 最初にそれに気づいたのは、純だった。


 以前から、違和感はあった。


 VIOLET DRAGONの地下で初めて会ったときから、リサは光の中でも影が薄かった。強いライトの下に立っても、彼女の足元には申し訳程度の黒しか落ちなかった。


 けれど、そのときは、そういう種族なのかもしれないと思っていた。


 離影者という存在を知ったばかりだったし、血を飲む人も、夜目が利きすぎる人も、影に刃をつなぐシンもいた。だから、リサの影が薄いことも、そういうものなのだと飲み込んでいた。


 今は違う。


 医療用ライトは一つ。


 弱い琥珀色の単一光源。


 この光の下では、影は一本になる。リサ自身が何度も説明してくれたことだった。


 純の欠けた影でさえ、痛々しい形で床へ伸びている。


 戒十の影は濃く、呼吸するように揺れている。


 シンの影は、入口近くで細く、鋭い。


 なのに、リサの足元だけが、ほとんど空白だった。


 靴底のすぐ下に貼りついた、薄い汚れのような黒。


 それだけ。


 純は、ベッドの上からその足元を見つめた。


 見てはいけないものを見てしまった気がした。


 けれど、もう見なかったことにはできない。


「リサさん」


 声をかけると、リサは端末から顔を上げた。


「何? 寒気、強くなった?」


「いえ」


「耳鳴り?」


「違います」


「噛み痕が広がった?」


「違います」


 リサは少しだけ息を吐いた。


「じゃあ、何?」


 純は一度、迷った。


 けれど、夜の王からの電話を聞いたあとで、もう曖昧なままにはできないと思った。


「リサさんの影、どうしてないんですか」


 部屋の空気が止まった。


 リサの表情から、いつもの軽さが消えた。


 シンが入口脇でわずかに目を伏せる。


 戒十も、ゆっくりリサの足元を見た。


 それまで怒りや純への心配で見落としていたのだろう。


 単一光源の下で、リサの足元だけが明らかに足りない。


 戒十の眉が寄る。


「本当だ」


 リサは笑おうとした。


 失敗した。


「今さら気づくの、遅いなあ」


「茶化さないでください」


 戒十の声は低かった。


 リサは端末を閉じた。


 画面が暗くなる。


 その黒い画面にも、彼女の影は映らなかった。


「……うん。茶化せないね」


 リサは壁際の椅子へ腰を下ろした。


 疲れた人の座り方だった。


 若く見える顔と、まったく噛み合わない重さがそこにあった。


「夜の王が言ったこと、だいたい本当」


「“だいたい”?」


 戒十が聞く。


「言い方は全部気に入らない。肉体側の継続体とか、影側の継続体とか、不完全とか。あいつの言葉は、いつも人間を分類箱に入れる。でも、出来事としては本当」


 リサは自分の足元を見た。


「私は、もともとサリサという女の子だった」


 その名前を口にするとき、リサの声は少しだけ変わった。


 自分の名前ではない。


 でも、他人の名前でもない。


 そんな響きだった。


「ずっと昔。もう、百年以上前。私は死にかけていた。病気だったのか、事故だったのか、影脈の異常だったのか、当時の記憶はところどころ曖昧。たぶん全部が重なってた。肉体も影も、もう持たなかった」


 純は黙って聞いていた。


 噛み痕が冷たい。


 でも、今はその冷たさより、リサの声が気になった。


「久世玄理は、私を救おうとした」


 リサは口元だけで笑った。


「救おうとした、って言うのが嫌なんだけどね。でも、たぶん本人は本気だった。死なせたくなかった。なくしたくなかった。だから、肉体と影を分けた」


 戒十の影が揺れた。


 リサは続ける。


「肉体側に残った人格が、私。リサ。影身として分離された人格が、クイーン」


「クイーンは、あなたの影だったんですか」


 純が聞いた。


 リサは少しだけ考え、首を横に振った。


「“だった”って言い切るのは、たぶん違う。あの子は、私の影身だった。でも、分けられてから百年以上、あの子はあの子として存在している。怒って、恨んで、欲しがって、生き残ろうとしている。ただの影じゃない」


「でも、閉じ込めた」


 戒十の声だった。


 静かだった。


 静かすぎて、怒りが遅れて伝わってくる声。


 リサは答えなかった。


 戒十は椅子から立ち上がった。


 左手の遮影布が揺れる。


 リサの銀糸が反射的に動こうとして、彼女自身が止めた。


 戒十はリサを睨んでいる。


「僕には影と話せと言った」


 リサの顔が痛む。


「うん」


「どれか一つだけを本物にするなって言った」


「うん」


「怖いって思っていい、嬉しいって思っていい、でもどれか一つだけを本物にするなって。そう言った」


「言った」


「自分はどうなんですか」


 戒十の声が荒くなる。


「自分は百年以上、閉じ込めて逃げているくせに」


 リサは言い返さなかった。


 シンが小さく戒十の名を呼ぶ。


「三倉」


「止めないでください」


「暴走しかけている」


「わかってます!」


 戒十は叫んだ。


 すぐに自分で息を吸う。


 左手を押さえる。


「血の匂いはない。左手が熱い。影声はある。リサさんを責めたい。シンさんに止められたくない。カオルコを殺したい。純を助けたい。全部あります。でも、動きません」


 シンはそれ以上止めなかった。


 戒十はリサへ向き直る。


「リサさんは、僕に自分の影を見ろって言った。話せって言った。止めるな、切り捨てるなって。それで、自分は?」


 リサは膝の上で手を握った。


 その手は震えていた。


「逃げてる」


 彼女は言った。


 反論ではなく、告白だった。


「ずっと逃げてる。クイーンが私だったと認めたら、私が消える気がする。今のリサが、サリサへ戻すための仮の肉体みたいに扱われる気がする。夜の王が言う“再統合”に飲まれたら、私はもう私じゃなくなる気がする」


「それ、クイーンも同じなんじゃないですか」


 戒十の言葉に、リサは目を閉じた。


 答えられない。


 答えは、きっともうわかっている。


 クイーンもまた、影だったとだけ言われることを恐れている。


 サリサへ戻すための素材にされることを憎んでいる。


 肉体を持つリサだけが本物のように扱われることに、百年以上怒り続けている。


 リサは小さく言った。


「そうだと思う」


「思う、じゃなくて」


「わかってる」


 リサの声が震えた。


「わかってるよ。あの子が怒る理由も、私を憎む理由も、肉体を欲しがる理由も。私はそれを知ってる。知ってるから見られない」


 戒十は唇を噛んだ。


 怒りは消えない。


 だが、リサの言葉がただの言い訳ではないこともわかってしまう。


 わかってしまうことが、さらに腹立たしかった。


「じゃあ、僕に言う資格ないじゃないですか」


「ない」


 リサは即答した。


 戒十のほうが言葉に詰まる。


「資格なんて、ない。私は偉そうに言える立場じゃない。自分の影を閉じ込めて、自分の怖さを君に隠して、それでも君には向き合えって言った」


「最低ですね」


「うん」


「否定しないんですか」


「できない」


 リサは顔を上げた。


 その目は赤くはない。


 泣いてもいない。


 でも、泣くより痛そうだった。


「でも、最低でも言わなきゃいけなかった。君が私と同じ逃げ方をしたら、たぶん戻れなくなるから」


 戒十の影が揺れる。


 リサは続ける。


「私は自分を棚に上げて言った。そうだよ。自分はできてないくせに、君にはやれって言った。卑怯だよ。でも、それでも言った。言わないで、君が成れの果てになるのを見るほうが、もっと嫌だった」


「それで許されると思ってます?」


「思ってない」


「ずるい」


「うん」


「何を言っても、うんって言うの、ずるいです」


「それも、うん」


 リサは少しだけ笑おうとした。


 失敗した。


 戒十はそれ以上言葉をぶつけられず、椅子へ座り込んだ。


 怒りは残っている。


 裏切られた気持ちもある。


 でも、その怒りの奥に、別のものが混じり始めていた。


 怖さ。


 リサとクイーンの関係が、自分と影の未来に見える怖さ。


 別々の身体。


 再統合。


 分離。


 どの言葉も、夜の王の手にかかれば、治療という名の檻になる。


 そのとき、純が小さく息を乱した。


 リサがすぐに顔を向ける。


「純ちゃん?」


「……寒いです」


「噛み痕?」


「それも。でも、違う」


 純はベッドの上で体を起こそうとした。


 リサが支えようとする。


 純はその手を受けたが、すぐに言った。


「少しだけ、自分で座ります」


 リサは手を離した。


 純は枕を背中に当て、ゆっくり上体を起こす。


 顔色は悪い。


 唇も青い。


 だが、目ははっきりしていた。


「今の話、聞いてました」


「うん」


 リサが答える。


 純は戒十を見た。


 次にリサを見た。


 最後に、入口脇のシンを見た。


 シンは何も言わない。


 だが、視線は逸らさなかった。


 純は、膝の上でノートを握った。


「どうして、みんな、私を助けるためなら自分が消えていいと思うの」


 その言葉は、静かに落ちた。


 しかし、部屋の全員に刺さった。


 戒十が息を止める。


 リサの手が止まる。


 シンの表情も、ほんのわずかに変わる。


 純は続けた。


「戒十は、私を助けるためなら自分が怪物になってもいいみたいな顔をする。カオルコさんを殺してもいいみたいな顔をする。自分が白昼局に捕まっても、影と分けられても、私が助かるならいいって、どこかで思ってる」


「そんなこと」


 戒十が言いかける。


 純は首を横に振った。


「思ってる」


 声は強くなかった。


 でも、はっきりしていた。


「リサさんは、私を助けるためなら、夜の王の資料を使う。たぶん、必要なら自分がクイーンとどうなってもいいって、少し思ってる。自分が再統合計画へ戻ることも、どこかで選択肢に入れてる」


 リサは否定しなかった。


 否定できなかった。


 純はシンを見る。


「シンさんは、最悪の場合を説明してくれました。それは必要でした。でも、シンさんも、自分が斬ればいい、自分が処分すればいい、自分が責任を持てばいいって思ってる。誰かが壊れることを、自分が背負えば済むと思ってる」


 シンは黙っていた。


 その沈黙が、肯定に近かった。


 純の声が、そこで初めて震えた。


「私は、誰かが代わりに死んで助かりたいわけじゃない」


 右の脇腹から腰へ、黒い噛み痕が痛んだ。


 寒さが上がってくる。


 耳鳴りがする。


 カオルコの笑い声のようなものが、影の欠けた場所で薄く響いた。


 それでも、純は言葉を止めなかった。


「私を助けるためって言われたら、止められない。ありがとうって言わなきゃいけない気がする。感謝しなきゃいけない気がする。でも、誰かが自分を捨てるたびに、私がそれを背負うことになる」


 戒十の顔が歪む。


 リサは目を伏せる。


 シンは、入口の横で拳を握った。


「私は、治りたいです」


 純は言った。


「助かりたい。怖いし、寒いし、カオルコさんの声が聞こえるのも嫌です。自分の影が欠けているのも嫌です。だから治りたい」


 彼女はノートを握る手に力を込めた。


「でも、誰かが代わりに消えることで助かりたいわけじゃない」


 部屋の中で、医療用ライトが小さく唸る。


 影は一本ずつ床に落ちている。


 リサの足元だけ、ほとんどない。


 純はそこを見て、胸が痛くなった。


「リサさん」


「……うん」


「私は、リサさんに消えてほしくありません」


 リサの顔が少しだけ崩れた。


「純ちゃん」


「クイーンのことは、私はまだわかりません。でも、リサさんが消えることで私が助かるって言われたら、私はそれを治療だと思えない」


 リサは何も言えなかった。


 純は戒十を見る。


「戒十」


「……何」


「戒十にも、消えてほしくない」


「僕は」


「影の戒十も」


 戒十が止まる。


 足元の影が、わずかに揺れた。


「どっちかが消えれば安全とか、別々にすれば解決とか、そういうのを勝手に決めないで。私は、どっちかだけを助けたいわけじゃない」


 戒十は目を伏せた。


 影も、彼の足元で小さく震えている。


 純は最後にシンを見る。


「シンさん」


「何だ」


「全部背負わないでください」


 シンは静かに純を見返した。


「俺は、それが役目だ」


「その役目、誰が決めたんですか」


 シンは答えなかった。


 純は小さく息を吸う。


「必要なら止める人は必要です。最悪の話も必要です。でも、全部一人で背負う人がいると、周りはその人が壊れるのを見ないふりすることになると思います」


 シンの表情は変わらない。


 だが、目だけが少し深くなった。


「厳しいな」


 彼は短く言った。


 純は少しだけ、疲れたように笑った。


「よく言われます」


 その言い方に、戒十がかすかに息を漏らした。


 笑いにはならない。


 でも、少しだけ空気が緩んだ。


 すぐに、純は顔をしかめた。


 噛み痕が痛む。


 寒気が強くなる。


 リサが慌てて近づく。


「純ちゃん、横になって。今の、かなり体力使ってる」


「はい」


 純は素直に横になった。


 さっきまでの言葉の勢いが嘘のように、身体から力が抜ける。


 リサが毛布をかけ、影の欠けた右側に銀糸の補助固定を施す。


「耳鳴りは?」


「強いです」


「声は?」


「笑い声だけ。言葉はないです」


「影の遅延」


「右側、たぶん一秒くらい」


「わかった」


 リサはすぐに記録する。


 その手はまだ少し震えていた。


 戒十は純のベッドへ近づきかけ、途中で止まった。


 近づきすぎない。


 自分の血に純の影が反応するかもしれない。


 それを思い出したのだ。


 彼は部屋の中央で立ち止まり、低く言った。


「ごめん」


 純は目だけを向ける。


「何に?」


「また、勝手に消える方向で考えてた」


「うん」


「ごめん」


「怒ってる」


「うん」


「でも、謝ったことは記録しておく」


「それ、必要?」


「必要」


 純はかすかに笑った。


 本当にかすかな笑みだった。


 リサがそれを見て、少しだけ泣きそうな顔をした。


「純ちゃん、君、ほんとに」


「すごくないです」


「まだ言ってない」


「言いそうだったので」


「先読みされた」


 リサは苦笑し、それから自分の足元を見た。


 影のない足元。


 そこに長い時間、目を落とした。


「私も、記録しないとね」


 リサは呟く。


 戒十が顔を上げる。


「何をですか」


「逃げてること」


 リサは言った。


「クイーンを閉じ込めて、見ないふりしてること。サリサに戻るのが怖いこと。今の私が消えるのが怖いこと。それでも、純ちゃんを助けるために自分を差し出せば格好がつくって、どこかで考えたこと」


 純が目を閉じたまま言う。


「格好つかないです」


「うん。つかないね」


 リサは静かに頷いた。


「ちゃんと怒られた」


「まだ怒ります」


「うん。お願い」


 シンが入口脇で低く言った。


「俺も、記録しておく」


 リサが少し驚いたように見る。


「シンが?」


「全部背負わない」


「……できるの?」


「すぐには無理だ」


「正直」


「だが、言われたことは覚える」


 純は目を閉じたまま、小さく頷いた。


「それでいいです」


 戒十は、そんな三人を見ていた。


 自分も何か言わなければいけない気がした。


 だが、言葉がうまく出てこない。


 足元の影が、少しだけ先に動いた。


 言うなら今。


 影の声。


 戒十は少しだけ眉を寄せる。


 今度は、その声を押し潰さなかった。


「僕も」


 戒十は言った。


「影を、別の肉体にできるって言われて、今も少し考えてます」


 純の目が開く。


 リサとシンも見る。


 戒十は続けた。


「そうすれば楽かもしれないって。純を傷つけにくくなるかもって。僕も、影も、自分の身体があったらって。まだ考えてる」


 影が足元で揺れる。


 戒十はそれを見下ろす。


「でも、それを夜の王に決めさせたくない。僕が嫌だからじゃなくて、影のことも、僕のことも、純のことも、研究計画の都合で決められたくない」


 純は静かに言った。


「うん」


「だから、今は行かない」


「今は?」


「今は」


 戒十は正直に答えた。


「ずっと迷わないとは言えない」


 純は少しだけ息を吐いた。


「じゃあ、それも記録して」


「僕が?」


「うん。自分で」


 純のノートがベッド脇に置かれている。


 戒十は少し迷ったあと、それを手に取った。


 左手ではなく、右手で。


 ページの端に、震える字で書いた。


 別々の身体という提案に惹かれている。


 ただし、夜の王には決めさせない。


 書き終えたあと、戒十はノートを見つめた。


 自分の中の嫌なものを文字にする。


 純がずっとやっていたこと。


 それが、こんなに痛いものだとは思わなかった。


 純はそれを見て、小さく言った。


「ありがとう」


「礼を言うことじゃない」


「でも、言う」


 戒十は返事に困り、ノートを閉じた。


 医療用ライトの下で、それぞれの影が静かに揺れている。


 純の影は欠けている。


 戒十の影は濃い。


 シンの影は鋭い。


 リサの影は、ほとんどない。


 だが、その影のなさを、もう誰も見ないふりはできなかった。


 残り時間は減っている。


 カオルコは逃げている。


 夜の王は待っている。


 白昼局も動いている。


 何も解決していない。


 それでも、臨時診療所の中で、一つだけ変わったことがあった。


 誰かが誰かの代わりに消えることを、美談にしない。


 その約束だけが、弱い光の下で、まだ形を保っていた。

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