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約束の第十位と、呼吸を忘れる『秘密のご褒美』

期末テストの成績発表当日。

私立桜ヶ丘高校の二階廊下に設置された掲示板の前は、自分の順位を確認しようとする生徒たちで溢れかえっていた。


「おい見ろよ! 姫宮さん、今回も学年二位だぞ! さすがだな……」

「かっこよすぎる……容姿端麗で頭もいいとか、マジで隙がないよな」


人ごみの隙間から掲示板を見上げる男子生徒たちが、感嘆の声を漏らしている。

俺——佐藤蓮は、少し離れた位置からその光景を静かに眺めていた。


姫宮星奈。学校での彼女は相変わらず、誰も寄せ付けない孤高の『高嶺の花』だ。

だが、俺の視線が向かったのは掲示板の一番上ではない。


(……あった)


『第十位:佐藤蓮』


自分の名前が、目標としていた「学年十位以内」のギリギリ端っこに滑り込んでいるのを確認し、俺はそっと安堵の息を漏らした。

星奈ちゃんとのあの放課後特訓のおかげだ。


その時、人ごみから優雅に抜け出してきた星奈ちゃんと一瞬だけ視線が交差した。

彼女は氷のような冷徹な表情を崩さないまま、すれ違いざまに俺の手に小さな紙切れを握らせて去っていった。


手を開くと、そこには可愛らしい丸文字でこう書かれていた。


『十位おめでとう、蓮くん! 約束通り、今日の放課後……資料室で『最高のご褒美』をあげるね♡ 逃げちゃダメだよ?』


心臓がドクンと大きく跳ね上がった。



放課後。

夕暮れの朱色が差し込むいつもの資料室。


俺がドアの鍵を閉めた瞬間、後ろからふわりと甘いイチゴの香りが近づき、柔らかな身体が背中にぴったりと押し当てられた。


「……遅いよ、蓮くん。私、待ちきれなくて心臓爆発しそうだったんだから……っ」


細い腕が俺の腰に回され、彼女の小さな頭が背中に擦り付けられる。


「星奈ちゃん……っ! じ、順位見ただろ? なんとか十位になれたよ」


「うん、知ってる……! 蓮くん、すごく頑張ってくれたもんね……っ。私、本当に嬉しいの」


彼女は俺の体に回した手にキュッと力を込め、ゆっくりと俺の前へと回り込んできた。


今日の彼女は、制服のブラウスの第一ボタンを外し、頭にはあの『猫耳カチューシャ』を付けていた。

夕日を浴びて桃色に染まる彼女の頬と、潤んだ瞳が俺を捉えて離さない。


「蓮くん……約束、覚えてるよね……? 『もっと甘くて特別なご褒美』……あげるって言ったの」


そう囁く彼女の呼吸は少し荒く、上気した熱い吐息が俺の首筋にかかる。


「星奈ちゃん……それって……」


「……ふふっ、目、閉じて?」


彼女はつま先立ちになり、両手を俺の首元に回してきた。

至近距離で交わる視線。彼女の桃色の唇が、わずか数ミリの距離まで近づいてくる。


「画面の向こうの夢咲あいりじゃなくて……学校の高嶺の花でもなくて……一人の女の子としての『姬宮星奈』の……初めてを、蓮くんにあげる……♡」


静まり返った資料室の中に、二人だけの激しい鼓動と、甘く重なり合う吐息だけが響き渡っていたのだった。

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