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秘密の勉強会と、心臓が持たない『特別すぎるご褒美』

「……れ、蓮くん。あ、あのさ……この問題、どうしても解き方が分からなくて……っ」


放課後の夕暮れ時、図書室の奥に位置する資料室。

私立桜ヶ丘高校の全校生徒が憧れる『高嶺の花』——姬宮星奈は、いつもなら近寄りがたい雰囲気を完全に霧散させ、俺のすぐ隣で赤くなった耳を隠すように首をすくめていた。


机の上には、数学の期末テスト対策プリント。

俺たちの距離は、彼女の甘いストロベリーの香りと微かな体温がダイレクトに伝わってくるほど近い。


「どれどれ? ……ああ、この二次関数の最大値と最小値を求める問題だね。ここ、軸の位置で場合分けするのがポイントなんだ」


俺はシャーペンを取り、彼女のノートに解き方の手順をわかりやすく書いていく。

星奈ちゃんは真剣な眼差しで俺の手元を見つめ、コクコクと小さく頷いていた。


「なるほど……! 軸が範囲の左にあるか、中にあるか、右にあるかで分けなきゃいけないんだね……! 蓮くん、教えるのすごく上手……!」


「星奈ちゃんが飲み込み早いんだよ。配信と歌の練習で忙しいのに、学校の勉強も一切手を抜かないところ、本当に尊敬する」


「うぅ……蓮くんに褒められると、すごく嬉しいけど……恥ずかしいよぉ……♡」


彼女は頬を真っ赤にし、ダボっとした袖口で顔の半分を隠してしまった。


学校では誰もが「近寄りがたい完璧な美少女」と恐れ多い視線を向ける彼女。

しかし今、俺の隣でノートを開き、無防備に甘えているのは――俺だけの愛おしい彼女であり、三十万人を魅了するVTuber『夢咲あいり』の裏の顔なのだ。



「ふぅ……! これでプリントの範囲、全部解けたよーっ!」


小一時間ほど集中して勉強を続け、星奈ちゃんは両腕を上へ伸ばして大きくて可愛らしいあくびをした。

制服のシャツが少し引っ張られ、細くて華奢なウエストラインがチラリと覗く。


俺がとっさに視線をそらすと、彼女はそれに気づいたらしく、ニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべて顔を近づけてきた。


「むむ……? 蓮くん、今どこ見てたの……? もしかして……スケベなこと考えてた……?」


「〜〜〜〜っ!? ち、違うよ! たまたま目に入っただけで……っ!」


慌てる俺の反応がツボに入ったのか、彼女は「ふふっ」と胸元で可愛らしく笑った。


「うそ言っちゃって。でもいいよ、蓮くんになら……どこ見られても……っ」


恥ずかしそうに下唇を噛みながら上目遣いで見つめてくる彼女。

その破壊力抜群の表情に、俺の心臓は激しい鐘を鳴らし始めた。


「さ、それより! 蓮くん、約束覚えてる……?」


「約束……? あ、『特別すご褒美』のこと?」


俺が尋ねると、星奈ちゃんは待ってましたと言わんばかりに瞳をパッと輝かせ、通学カバンから何かを取り出した。


「じゃじゃーん! これを付けちゃいますっ!」


彼女が頭に乗せたのは、いつも配信で『夢咲あいり』として付けている、あのふわふわの『猫耳カチューシャ』だった。


「……っ!!」


「えへへ……『高嶺の花の姬宮星奈』であり、『VTuberの夢咲あいり』でもある、リアル猫耳あいりちゃんだよ……♡」


彼女は両手を猫のポーズ(招き猫)のように胸の前で丸め、俺の目をまっすぐに見つめて小さく首を傾げた。


「蓮くん……期末テスト勉強、頑張って教えてくれたから……ご褒美に、あいりちゃん(星奈)を……すきなだけ可愛がってもいいよ……ニャ♡」


(どっかぁぁぁぁん……っ!!!)


俺の脳内で、理性の糸が激しい音を立てて弾け飛んだ。


「ほ、星奈ちゃん……それ、反則すぎる……っ!」


「反則じゃないもん! 蓮くんだけにしか見せない、世界で一番特別なご褒美だもんっ! ……あ、それとも……私のご褒美、嫌だった……?」


不安そうに眉を下げ、上目遣いで俺の袖口をキュッと掴んでくる彼女。

そんな表情をされて、耐えられる男がこの世にいるだろうか? いや、絶対にいない。


俺は躊躇うことなく、彼女の華奢な肩を抱き寄せ、その柔らかい身体を胸の中へと包み込んだ。


「嫌なわけないだろ……っ! 可愛すぎて、心臓が爆発しそうなだけだよ……っ!」


「きゃっ……! 蓮くん……っ♡」


俺の胸の中にすっぽりと収まった星奈ちゃんは、嬉しそうに「えへへ……」と声を漏らし、猫耳カチューシャをつけた頭を俺の顎の下にすりすりと擦り寄せてきた。


ふわりと漂う、甘いお菓子とイチゴのシャンプーの香り。

防音室ではない、夕暮れの放課後の資料室。

二人の激しい鼓動が、静かな室内に重なり合って響き渡る。


「……ねえ、蓮くん」


胸元から、彼女の甘く蕩けるような声が聞こえる。


「ん? どうしたの……?」


「私ね……蓮くんと付き合えて、本当に幸せ。画面の向こう側のリスナーさんたちも大好きだけど……佐藤蓮くんの特別になれたことが、私の人生で一番の宝物なの」


彼女はゆっくりと顔を上げ、俺の首元に両手を回してきた。

至近距離で重なり合う視線。息吐きが触れ合うほどの距離で、彼女の桃色の唇が微かに震えている。


「だからね……テストで学年十位以内に入ったら……今度は私から、もっと……甘くて特別なご褒美……あげるね♡」


「〜〜〜〜っ!?」


耳元で甘く囁かれた約束。

夕闇が迫る資料室の中で、俺たちは誰にも言えない秘密の恋を、また一つ深く、甘く刻み込んだのだった。

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