その1 料理人編 第5話:母子の再会
「わあ、お母さん、本当に来てくれた!僕、すごく嬉しい!」
小林健楽は「母親」の姿を認めるやいなや、駆け寄ってその手をしっかりと握りしめた。
(こ、これが本当なの……? あの人、詐欺師なんかじゃなかった……!)
小林千代子は、目の前の光景を論理的にはどうしても信じられなかった。だというのに、母親としての直感が、彼女にこう告げていた。目の前に立つこの三十歳ほどの大人こそ、間違いなく、十五年前に家を飛び出した息子その人なのだ、と。体こそ大きくなっているが、顔の骨格は変わっていない。とりわけ、あの無垢な眼差しだけは昔のままで、それが何よりの証拠だった。
「お母さん、先月、病院でお母さんに布をかけられて、どこかに運ばれていったとき、僕、泣いたんだ。でも、外国人のお姉さんがね、一千万円を払えば、お母さんは帰ってくるよって言ってくれたの。あの人、嘘つきじゃなかった。本当に帰ってきてくれたんだね。」
千代子は仰天し、「えっ? あんた、そんな大金、どうやって……」と聞き返した。
「二か月前に、料理のチャンピオンになる大きな大会があってね、優勝して、賞金がちょうど一千万円だったんだ。」小林健楽はズボンのポケットからメダルを取り出した。『アジア料理大会 優勝』と誇らしげに刻まれている。「中国とか韓国とかタイから来た友だちと競争したんだ。前の大会では負けたけど、今度は僕が勝ったんだよ。みんな喜んでくれて、二か月前、わざわざ日本に来てお祝いしてくれたんだ。でもそのとき、お母さんは病院にいて、お店に行けなかった。お母さん、僕に『もっといろんな友だちを作りなさい』って言ったの、忘れたの?」
ここで千代子は、ついに涙を堪えきれなくなった。千代子のなかにある小林健楽は、あの十五歳の少年のままだ。身の回りのことも満足にできず、もしかすると生涯にわたって誰かの世話を必要とするかもしれない、そんな知的障害のある子だと思っていた。しかし、目の前にいる小林健楽は、一人前の社会人として、国内はおろか海外でもプロとして認められるまでになっている。それは、千代子の想像をはるかに超えた姿だった。
千代子は「外国人たちがわざわざ日本に来て祝ってくれたこと」も、「入院中の自分がそれを勧めたらしいこと」も、今この瞬間初めて聞いた話だったが、あえて追及はしなかった。涙をぬぐい、「もちろん、覚えてるわ。お母さんが忘れるわけないでしょ」と答えてから、ふと気になり、こう尋ねた。「その海外の友だちって、みんな日本語が話せるの?」
「No, I speak English. We happy.」
(この子、いつの間に英語まで……私よりずっと賢いじゃないの!)
小林健楽は千代子の手を引いて、とあるレストランの前に連れてきた。「お母さん、僕ね、大会で優勝したあと、社長が偉くしてくれて、今は『ひっとうシェフ補佐』なんだ。『ひっとう』が何かよくわからないけど、たぶんすごく偉いんだよね!」
「『筆頭』っていうのは、一番上っていう意味よ。すごく偉いに決まってるでしょ。」
「先月ね、お母さんに僕の料理を食べに来てほしかったんだ。でも、病院にいて、お腹のなかにボールがあるから食べられないって言うから、その後お母さんは運ばれていっちゃって、来られなかった。今は、食べても大丈夫なの?」
「大丈夫……大丈夫よ……あんたが作ったものなら、何だって食べられる。」
小林健楽はテーブルを一つ選んで千代子を座らせると、厨房へと入っていった。店内のスタッフたちは、彼の姿を見ると、一様に深々と頭を下げた。




