その1 料理人編 第4話:時空を越えて
イナンナは道すがら、復活システムの仕組みについて千代子に説明を試みた。だが、話はまったく要領を得ず、千代子は相手が詐欺師だという確信をますます強めていった。それでも彼女の身体は、なぜかイナンナの後を追い続け、気がつくと、一台の赤いスポーツカーの前まで来ていた。
イナンナはドアを開けて千代子を車内に招き入れると、自分も運転席に座り、エンジンをかける準備を整えた。
「先ほどの説明は、あまりご理解いただけなかったかもしれません。ですが、それは重要ではありません。大事なのは、これから会う息子さんは、別の時空にいる〝同一人物〟であり、今回の面会は24時間しか持たないということ。それが過ぎれば、あなたは元の時空に戻らなければなりません。」
千代子にも、SF小説や映画に触れた経験がある。並行時空という概念は、おおよそ理解できた。相手が詐欺師だという予感は依然として消えなかったが、その予感が外れてほしいという、一縷の望みも確かにあった。
彼女は小さく頷いて理解を示すと、シートベルトを締め、ハンドバッグを両手でしっかりと抱え込んだ。中に入れた保存容器が傾いていないか、無事を確かめるように。
やがてイナンナがエンジンをかけ、アクセルを踏み込んだ。しかし、車は前に進まなかった。代わりに、周囲の窓ガラスが一瞬で漆黒に染まり、外の陽光を完全に遮断してしまった。千代子は、自分の身体がストンと下に引っ張られるような感覚を覚えたかと思うと、今度はフワリと宙に浮き上がるように押し上げられた。まるでジェットコースターに乗っているかのようだった。窓ガラスの隅に、かすかな光の粒がちらつき始める。時間が経つにつれて光源は大きくなり、上下の揺れは徐々に弱まっていった。窓の外の景色がいつも通りに戻ったとき、あの奇妙な浮遊感も完全に消えていた。
千代子は窓越しにあたりを見回し、自分がもとの町にいることを確認した。ただし、見知った自宅の前ではなく、同じ町の、別の場所だった。




