こもらないふゆ
十二月も中盤を過ぎたこの時期。集落は、雪に閉ざされる。
田畑の作物も、植えっぱなしな細ネギ以外は抜いてしまい。売る分以外の白菜や大根は冷蔵庫や氷室にしまっておくか、漬物にする。大根なら、切り干し大根にしたりもする。
売る用の白菜や大根を作った人達は、かなりの高値で野菜が売れたことには喜びつつ、微妙な表情をしている。来年春からのトラクターや耕運機を動かす燃料が、配給される量だと足りるか怪しいのだ。
日本で石油の得られるダンジョンは、新潟の『新津油田ダンジョン』と静岡の『相良軽油ダンジョン』の二か所しかない。そのどちらも、産出量は知れているらしく。
石炭が豊富に採れるダンジョンは結構あるらしくて。石炭火力発電所は動かせていることから、政府からの指導で、自家用車や軽トラックは徐々に電気自動車に置き換わりつつある。ここの集落の軽トラックも、補助金もあって早々に電気自動車に変わっていた。
必要な金属は日本各地のダンジョンから得ているらしいけれど、足りているのかなあ? あと、世界のニュースがあまり報道されなくなっているのも、気になる。
それはともかく、雪の話だ。
雪が積もると、雪かきをしないといけない。なので、自宅の雪下ろし雪かきを終わらせた後、『だんそん』の雪下ろし雪かきをしているのだけれど。
「結構疲れましたねえ」
「ですね」
今日は休みの日だという、石田さんと長瀬さんが手伝ってくれたお陰で、早々に終わっていた。
「二人とも、ありがとうね」
保温の水筒から暖かい麦茶をコップに注ぎ、二人に手渡す。
「いえいえ。良い気分転換になりましたよ」
石田さんは笑ってコップを受け取る。
「ですね。最近ダンジョン以外部屋に籠りっぱなしだったので」
長瀬さんは麦茶をひとくち飲んで、ほっと白い息を吐いた。
「あー。ここら辺雪凄いですもんねえ」
私はウンウンと頷く。
雪は五センチも積もれば靴では厳しくなり。十センチも積もれば歩くのも疲れるようになる。三十センチも積もれば外出するだけでひと苦労。
この集落の辺りの雪の降り方は、一気に五十センチとか一メートルとか積もる『ドカ雪』に、積もった雪が溶けていくのを遅くする感じでパラパラした雪が降る、というのを交互に繰り返す感じだ。
昨夜の雪も、六十センチは積もった。だからその雪かきは重労働になるはずだったんだけれど。あっさり出来てしまう探索者さんの力と体力凄いよね。
これで『レベル30』ぐらいなんだから、『レベル1000』になったらどうなるんだろうね?
「協会からダンジョンまでの雪かきバイトで経験積んでたので今回は楽でしたが。初めて雪かきした時は腰がキツかったですね」
「石田さん雪かきの経験なかったんですね」
長瀬さんが意外そうに言う。
「ええ。実家は瀬戸内の方なので」
「あー。瀬戸内といえば、小豆島で新しくダンジョンが発見されたらしいですね」
「らしいですねえよく知りませんが。大家さんは何か知ってますか?」
と話を振られたので、「ダンジョン日報で読んだ程度ですが」と前置きしつつ話す。
「樹木系のモンスターが多く出るダンジョンらしいですね。オレンジとかオリーブとかの木のモンスターが出るらしいです」
「なるほど」
「トラップとかはどうなんでしょうね?」
長瀬さんの疑問の答えは、残念ながら持っていなかった。
「まだ探索あまり進んでないらしいんで。日報に書かれていたのは、それだけですね」
「「うーん」」
二人はうなる。
「樹木系ダンジョンとなると、ノルウェーが多かったらしいですね。検索して何か情報が手に入るといいのですが……」
石田さんはコップを持ったまま、器用に腕を組む。
「南シナ海海底で『氾濫』が起きてから、急に海外の情報手に入らなくなりましたよね」
長瀬さんはそう言って麦茶をひとくち。
「もしかして……」
私は、長瀬さんの言葉に、嫌な予感を覚えた。
「どうしました大家さん?」
「いやね石田さん。もしかして、南シナ海で溢れたモンスターに、海底ケーブルがやられたんじゃないかなあ、って思って……」
すると二人は、真面目な表情になる。
「それは……、あり得ますね」
石田さんは重々しく頷く。
「ですね。衛星通信の方は政府が徴用した、ってラジオで言ってましたし」
長瀬さんは唸ってなにやら考え込んでいる。
「海外の情報が入らないと、急に『救援要請』とか来ることになりそうで怖いです」
「「あー」」
私と石田さんは同意の声を上げる。
探索者には、自分の所属する国及び近隣の国で『氾濫』が起こった際、救援に向かう『権利』があるのだけれど。アフリカや南米の国々では、その『権利』が『義務』に変わっていた。そういう実例があるからか、私の知る探索者達は、方向性は違えど情報収集に熱心だ。
情報が身を守ることに繋がるのを、身をもって知っているから、なのかもしれないけれど。
「怪しい情報があったら、知り合いの探索者と出来るだけ共有するようにしておききますか」
石田さんの言葉に、私と長瀬さんは頷いた。




