表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

たんさくしゃでびゅー

 『ここのダンジョン()』発見から一年経ち、十一月。山々の木々は紅葉を落として茶色くなり、畑には大根と白菜、あと家庭菜園の春菊に二十日大根くらいしか生えていない。

「にしても、増えたなあ」

 この集落の探索者協会所有のアパートは六十室、ホテルは三十二室あり。ホテルの方は満室になったりならなかったりだけれど、アパートの方は常に満室だ。

 それに加えて、私のアパート『だんそん』三十室がある訳だから、単純計算でいつもいる九十人といたりいなかったりな三十人くらいの探索者が、この集落に増えた訳だ。

 それに加えて、自衛隊の下部組織『ダンジョン救助隊』と探索者協会の職員にそれらの家族も増えたし。『トリトリー』という酒造会社のウイスキー蒸留場の職員さん達の宿舎も建って入居も始まっていて。

 ダンジョン関係の人だけで、元の集落の人数の六、七倍はいる計算になる。そうなると、探索者と探索者協会の力が強くなりそうなものだけれど。実際のところ、集落側と探索者側は対等に、良い付き合いを続けている。

 というのも。


「あー味噌汁ウマー」

「味噌なんて街じゃ配給でちょっとしか貰えないし、ものすごい贅沢してるよな俺ら」

「ここの村の人らが頑張って味噌漬けてくれてたお陰だよなー」

「そーそー」

 今日も『森食堂』では、そんな会話がされていた。

 いつの間にかすんごい広くなっていた森食堂では、集落で作った味噌やら野菜やらお米やらに、『豊穣の森()』から産出した塩に水なんかを使った料理が提供されている。

 探索者が肉体労働な以上、食事を握っている集落側の意見は無視出来ないのだ。原油価格の高騰もあって、食料品の値上がりが激しい昨今だと、その力関係は集落側の方が強い、かもしれない。

 でも、集落側もダンジョンから産出するモノを使った肥料がないとやっていけないので、その力を振るうことはない。むしろ探索者側にかなり協力している。

 例えば森食堂では、前日に探索者協会を通じて材料を持ち込めば、翌日それを料理して出す、なんてサービスも始まっていて。さながらファンタジー小説の『冒険者ギルド食堂』を、現代日本の田舎風にアレンジしたような光景が見られている。

「森さーん! 水汲んで来ましたー!」

「ありがとー奥山さーん! タンク入れといてー!」

 私は、ダンジョンから汲んできた水を森食堂バックヤードに設置されたタンクに入れる。このタンクに入れた水はフィルターを使ってろ過された後、オゾンで消毒されて食堂で使われる。


 という訳で、私、奥山桐子(とうこ)、この度探索者デビューしました!

 ……いやだって食料品とか水とか値上がりし過ぎてヤバいもん。お米と塩は配給制になってるからマシだけれど。家庭菜園に使う水も給水制限でケチらないといけなくなって、冗談抜きで死ぬかと思ったし。

 『ジョブ』は適当に『採取人』にして、普段は肥料になる『タゴヤシヨシ』刈ったり、水汲んだりと、稼ぐよりも暮らしをなんとかするために『豊穣の森』に潜っている。

 いやー、講習で潜ったダンジョンと違って、『豊穣の森』の楽なことと言ったら。と自画自賛してみる。


「タンク一杯になりましたー!」

「ありがとー奥山さーん! 書類サインするからちょっと待っててー!」

「はーい!」

 森食堂への水の納品は、探索者協会からの依頼、という形になるので、ちょっとお金を貰える。

「……はいっ! 今日もありがとね!」

「いえいえー」

 森食堂を出て、私は自分の家庭菜園に行く。

「水はー、撒かなくて良さそうね」

 春菊と細ネギ、二十日大根しかない畑は、少し寂しい。けれど、肥料を買うと高いので()()そんなに植えられないのだ。

「こっちはー……、いい感じに腐ってるね」

 自宅裏の、四方をコンクリートブロックで囲った落ち葉用の堆肥場にさっきダンジョンで刈ってきた『タゴヤシヨシ』をドサドサと置いて。その上から、これまたダンジョンで汲んできた水を軽く振りかける。

 これだけのことで、かなり良質な肥料が出来る、らしい。

「春の分は、もう少しで足りるね」

 家庭菜園といえど一アールはある私の畑に使う肥料は、中々の量になる。『タゴヤシヨシ』が肥料になるとかなり圧縮されてしまい、また肥料になるまでにミミズとかカブトムシの幼虫とかにかなり食べられてしまうので、結構『タゴヤシヨシ』を刈ってくる必要があるのだ。

 昔の人は、肥料になる草の準備を限られた草原でやっていたんだから、大変だっただろう。でも今は、ダンジョンから幾らでも草が採れるので、その心配はない。

「春菊かなり順調だね」

 間引くだけでかなりの量になりそうな春菊に、頬が緩む。

「お鍋にでもしよっかなー?」

 狩猟期になったので、集落のジジババや一部の探索者が、張り切って猪や鹿を狩ってまわっているこの集落では、最近お肉が余り気味だ。犬山さん家の解体場は、連日探索者さん達が狩ってきた鹿やら猪やらを持ち込んで解体していて。

 かなり鹿も猪も狩れているので、探索者協会も協力して、解体後のお肉を処理している。熟成とか、専用の機械も必要だし場所も取るからね。

 鹿や猪のお肉は、集落に配られてたんだけれど。どの家の冷蔵庫もお肉が一杯になっているので、探索者協会を通じて街に売りに出してもらっている。隣の集落も、『豊穣の森』に潜るために住み着いた探索者がいるので、お肉は余り気味なのだ。

「んー……。折角だし、『だんそん』の皆にお裾分けするかあ」

 最近お野菜も高いからね。喜んでくれるといいなあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ