表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

かいほうしょにち

 『87番ダンジョン』の一般開放の前日には、既に探索者向けのホテルは満室になっていた。

 まあ、ホテルとはいっても五階建てのそんなに大きくない建物なので、注目度と日帰りには厳しい立地からすれば当然といえた。なので、ホテルの増築が急ピッチで進められていたり。

 アパート『だんそん』も満室で。そのうちの半分ほど、十六部屋は契約の最大日数となる一年契約なのだから、探索者のやる気はすさまじい。


 そして、一般開放の日。

「おにぎり二個! 探索者の方にサービスです!」

「気合い入れてけ!」

「怪我しないでくださいね!」

「美味しい晩ご飯用意しますね!」

 集落の皆と探索者協会の職員と共に、探索者の方々と万が一の護衛なダンジョン救助隊の方々を見送る。探索者の第一陣である彼ら彼女らの頑張りに、集落の未来がかかっているので、当然の光景といえた。

「……行きました、ね」

「……行った、のう」

 私のつぶやきを、自治会長の山田さんが拾った。

「探索者の方々が帰ってきたときの準備をするのじゃ!」

「美味い飯に暖かい風呂!」

「酒もいるぞ!」

「来年こそは酒成功させたいのう」

「念のために送迎の車用意しとくか」

 わいのわいのと言いながら、それぞれの仕事に戻っていく。

 私も、高枝切り鋏を持って栗園に向かう。

「栗も大きくなってきたねえ。収穫の人員が問題だなあ」

 先の問題に頭を抱えつつ、栗園の見回りを終え、探索者協会の建物へ。


「ふむふむ」

 探索者協会の発行する日刊紙『ダンジョン日報』と『87番ダンジョン』についての資料をとりあえず読む。

「まじかあ」

 オーストラリアのメルボルンにあるダンジョンで『氾濫』が起きて犠牲者多数、というのが、今週ずっと流れているニュースで。まだ死傷者が増え続けているようだ。

 南シナ海では、ダンジョンが海底にも存在することが分かってから、領海の押し付けあいが発生して、探索が全く進んでおらず。ダンジョンから出て海を荒らすモンスターに対応出来ていない。この調子なら、悲観的な予測で半年以内に海運が使えなくなるとか。


 私のダンジョン『87番ダンジョン』は、仮称ではあるものの『豊穣の森』という名前が付けられていて、第一層の泥炭地は不人気なものの、第二層の草原から、自衛隊の到達した第三十六層まで、『どこでも稼げる』と人気らしい。

(コストが安いから、採取ポイント山ほど設置したもんねえ)

 一層あたり百平方キロメートルと広大なフィールドなのに、採取ポイントは馬鹿みたいにあるからリポップの取り合いが発生せず。また、出現するモンスターも非アクティブばかり。自衛隊が探索していた頃一番人気だったのは、第四層の『スリープシープ』というモンスターで、これの毛をバリカンで刈るのが滅茶苦茶儲かるのだとか。

 まあ、吸湿発熱繊維を鼻で笑える保温性に速乾性、そして絹を越える柔らかな肌触りと、繊維としての性能もさることながら。戦車の主砲を受け止める強度に軽めの魔法防御も素敵で。鎧下着として現状最高の素材が、『スリープシープの毛』なのだ。

「『スリープシープの毛』買取価格が一キロ五万円って、ひえー」

 そんな高価な毛が、一匹あたり四キロも刈れて。おまけにスリープシープを生かしておけば翌日また刈れる。そりゃあ、自衛隊も血眼になって毛刈りをするわけだ。

(でも、スリープシープの毛なんて、防具素材としては中級下位程度のものでしかないと思うんだけど……)

 ダンジョンとしての私の知識から判断すると、スリープシープの毛は防具には向かない。毛布としては最高の素材だけれど。

「よく分からないなあ」

 私の持つ知識と現状が噛み合っていないことがなんか嫌なので、こうして一般公開されている資料を読んでいるのだけれど。

「ん?」

 まだお昼を少し過ぎたくらいなのに、ダンジョンから出てきて協会にやって来た人がいる。

「なんか興奮してる?」

 読んでいた資料を片付けて、近付くと。

「本当にこの値段なのか!?」

「はい。『泥炭』は一キロ五十円での買取になります」

「なら、持ち帰ってもいいか!?」

「ダンジョンから得たモノは全て探索者協会に売る決まりとなっています」

「そうか! ならこの『泥炭』を買えるか!?」

「それは、まあ。探索者協会との交渉次第ですが」

「分かった! とりあえず今日は売る!」

「かしこまりました」

 どうやら、第一層の湿地から採取出来る『泥炭』を採取してきたようだ。私はそんなものに興奮している彼に興味を持った。

「どうしました?」

「ん? ああ。『だんそん』の大家さんか! いや、ダンジョンで素晴らしいものを見つけたんだ!」

「というと?」

「『泥炭』だよ!」

「はあ」

「分かってないな!? あの『泥炭』でウイスキーを造れば、最っ高のモノが出来る! 間違いない!」

「そ、そうですか」

 よく分からないけど、そうらしい。

「会社から『探索者になれ』と言われた時は恨んだが、こんな素敵な出会いがあるとは! 素晴らしい!」

 いやはや、すっごい興奮しているなあ。ただの『泥炭』なのに。

「会社に電話しなければ! ではまた!」

 彼は、協会から走って出ていった。

「……あれ? あの人、『だんそん』借りてたよね?」

 しかも一年契約で。『泥炭』と初日で出会ったのはいいとして、後は何をするつもりだろう?

「……ま、いっか」

 私は、資料を読みに戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ