しこうさくご
「……という訳です」
「なるほどー」
梅雨に入ってからの久々の晴れ間に栗園の草刈りを、長瀬さん石田さん畑さんと行う。充電式の草刈り機という、今では中々手に入らないモノを集落から一台借りて、二台の草刈り機と二人の人力での草抜き。私と石田さんは人力だけれど、探索者の強化された身体能力のお陰で、予想以上に順調に進んだ。
今はお昼休憩中。梅干しに白米海苔無しのおにぎりを麦茶で食べている。結構汗をかいていたこともあって、梅干しの酸っぱさが身に染みて美味しい。
そして、食べながらの雑談も楽しい。
「重機入るかは、色々試してたんですねー」
「何でそんな重要な情報知ってるんですか?」
呑気な私と違い、長瀬さんはそこが気になったようだ。
「ウチはウイスキー造りで泥炭使いますからね。その関係で探索者協会に協力しまして」
「少しでも楽しようということですか。企業としてはまあ当然ですよね」
「その通りです」
石田さんの補足に畑さんは頷く。
畑さんの勤めているお酒の会社『トリトリー』は、集落に蒸留所を立ててウイスキー造りをしようとしていたのだけれど。今はウイスキーより必要とされるモノがあるので、ウイスキー生産はストップしている。
「でも本当に草刈り手伝って貰って良かったんですか畑さん? 今忙しいんでしょう?」
「それがですね。輸送担当の社員が足首挫いたので、消毒用アルコール作っても置き場所がないんですよ」
「あれま」
『豊穣の森蒸留所』では、ダンジョン産の資源と蒸留所の設備を使って消毒用アルコールを大量に生産していた。ここで生産された消毒用アルコールは生傷の絶えない他のダンジョンの探索者に使われているのだけれど、輸送担当は少なかった。
【ストレージ】持ち探索者が一般化しているとはいえ、車並みの速度と距離を走れる探索者は未だ貴重な人材なのだ。そしてそんな人材も、中々整備されない道路に、専用の靴をすり減らしたり、足を痛めたりして万全に働けない。
「なのでこの二日は、整備をやる人以外臨時休暇なのです。ま、私の休みは今日だけですけどね」
「臨時休暇をこんなことに使って良いのか、って思ったのですが……」
申し訳なさそうにする私に、畑さんは苦笑する。
「家にいてもゴロゴロして退屈なだけなので。それに探索者になって体力がついたからか、時々体を使いたくなるんですよ。最近はデスクワークばかりだったので、正直助かりました」
「なら良いんですが」
カラカラと笑う畑さんに、私は気を取り直して話題を戻す。
「さっきの話ですが。バッテリー式のショベルカーが入らないなら、前はよく見かけたエンジン式のショベルカーは入る、ってことですか?」
「天井のないやつならいけるらしいですね」
畑さんが答える。
ダンジョン産の資源で造られたバッテリー式ショベルカーは、ダンジョン内での稼働時間と馬力を確保しようとしたためそのバッテリーは中々大きくて。それらの重量を支えるため、泥炭地でも沈まないようにするために幅が広くなっている。結果『豊穣の森』の出入口を微妙に通過出来なかったみたいだ。
「ガソリンとか軽油が手に入るなら、是非ともエンジンのショベルカーをダンジョンに入れて楽したいのですが。どちらも貴重ですから」
「農業機械動かす燃料もケチられてますからねえ……」
私と畑さんは揃ってため息をついた。
「だからこそ、私達が息抜き出来るので」
「そうですね。実際こういった作業があって助かります」
長瀬さんと石田さんが慰めるように言う。
「そう言ってもらえると助かります」
午前中頑張ったこともあって、午後の早い段階で草刈りを終える。
「早く終わったけど、指定の給料は探索者協会さんから支払われるようにしてあります。今日もありがとうございました!」
「いえいえ」
「こちらこそ」
「またよろしく」
各々帰路に就き、私は汚れた格好のまま探索者協会へ向かう。着替えて洗濯物を増やしたくなかったし、もし雨が降れば着替えた意味がなくなるからだ。
「空梅雨じゃないだけマシだけど。あんまり雨降るとお米は良くても野菜の苗がやられるからなあ」
夏に向けて植えられた、トマトにキュウリ、ピーマンゴーヤモロヘイヤといった集落の野菜達は、いまのところダンジョンとしての私の能力を害虫除けのみ発揮したこともあってスクスクと育っている。
害虫が少ない程度なら怪しまれないからこういうことは幾らでもやって良い。けれど、干ばつや根腐れを起こすほどの水という問題が起これば、明らかにおかしいと怪しまれる。だから天気の機嫌は、私の死活問題なのだ。
「ついた」
探索者協会に入る。昨年なら快適な冷房が効いていたこの建物の中も、節電のために設定温度が上げられて。微妙に暖かな温度で気味が悪い。
一方で、サーバールームだけは寒いくらいの冷房を効かせているという噂がある。サーバーを作るための半導体が品薄でいつ入手出来るか分からないというニュースが流れていたので、ここをケチらなかった協会は良い判断をしていると思う。
「どうも」
「ああ、だんそんの大家さんどうも」
「大家さん悪い。『ダンジョン日報』は俺が読んでるところだ」
「そっか。じゃあ空いてるの貸して頂戴」
「あいよ」
こういう公共機関かネットでしか読めなくなった新聞は探索者の少ない娯楽となっている。けれど伝わってくるのは『何もかも足りない』という絶望的な状況だけ。
「うわあこれもかあ」
「その新聞社も、だな」
「どんどん新聞減るな」
「そりゃあんだけ紙も電気代も値上がりしたらそうなるだろ」
新聞紙は野菜を包むのに便利なので、入手出来なくなったのはとても痛かった。
その上で、ネット上で踏ん張っていた報道社が経営破綻しては消えるのも、ありふれた話になっているのも痛い。情報量が減ると情報の精度が落ちるからだ。
(この調子なら、日本社会も今年までだね)
それまでに豊穣の森がどこまで攻略されて、どこまで資源が産出されるようになるのか。
「(違和感持たれない程度に)頑張らないとなあ」
そう呟くと、あちらこちらから同意の声が上がった。




