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たうえのきせつ

お久しぶりです

 六月になり、集落では田植えが始まった。

 上流の田んぼから、泥だらけの人工の沼に緑色の苗が植えられていく様は、見ていてなんだかほっとする。

「今年も無事、田植えが出来たのう」

「良かった良かった」

 集落の老人衆は手を合わせて拝み。そうでない面々も、ほっとした様子で田んぼを見る。

 日本人のソウルフード、お米。その栽培を無事今年も出来た、というだけで、緊張が途切れたり焦る気持ちが落ち着いたりしたのだ。

 田植えより少し早く、畑の方も苗の植え付けが始まった。こっちはほぼ人力で、農業経験の少しある、または全く初心者な希望者の探索者さん達とやったんだけれど。身体能力の高い探索者さん達よりも一般の中年から老年な集落の皆の面々の方が仕事が速くて、探索者さん達が驚いていた。

「コツがあるのじゃ」

 老人衆の言葉に、探索者さん達は感心していたなあ。


 田植えや畑の植え付けが進むと、次の仕事が見えてくる。

「ふう」

 【ストレージ】いっぱいに刈り取った『タゴヤシヨシ』を、集落の堆肥場にドサドサと置き、ついで『豊穣の森()』で汲んできた水をかける。

「次つぎー」

 野菜も稲も、育つ過程で肥料を必要とする。それに肥料分は、土壌の中の細菌の餌にもなる上に雨で流出していくので、放っておいても勝手に減る。

 今集落の探索者資格持ちの人達がタゴヤシヨシを集めているのは、追肥用の肥料を用意するためだ。

 元肥は作物の成長に、追肥は成長の補助と食べる部分を育てるために、必要となる。両方ともケチると、上手く作物が育ってくれなくなるのだ。あげすぎても駄目だけれど。

 ただ、問題もあって。

「タゴヤシヨシ肥料の分解・吸収速度がいまいち分からないのと、NPKが12ー12ー12で、追肥としては使いにくいのがなあ……」

 その作物の成長段階毎に必要となる栄養分が違っているので、本当は化学肥料を使って厳密に管理したい。けれど化学肥料は田植えまでで使いきってしまったので、タゴヤシヨシでやるしかない。

(『豊穣の森』八十四層ににバットグアノならあるから、リン酸についてはそのうちなんとかなるだろうけれど。窒素とカリ分、あとカルシウムマグネシウム硫黄に特化したのがないからなあ……)

 これはつまり。

「また草木灰肥料作るしかないのかなあ? それしたところで一番重要な窒素分足りないしなあ……」

 効率の悪い肥料も用意しないといけないということか?

 悩みつつ、『豊穣の森』に入ってはタゴヤシヨシを刈る。


 集落の方でも結論は出ないまま、一週間かけて集落の堆肥場を一杯にする。十分発酵するのに一か月はかかるので、それまではかき混ぜつつ放置だ。

「まあ、ウチはタゴヤシヨシあるだけマシじゃろ」

「隣の集落は良いが、そのまた向こう辺りになるとほぼ肥料ないからなあ……」

 集落の方は『肥料があるだけマシ』と諦めモードだ。

 一方、手空きの探索者と探索者資格持ちの集落の面々は、他の集落や村の肥料用に、タゴヤシヨシを刈って刈って刈り回っていた。

 石油不足と、これまで輸入していた分の食料を生産しようと田畑を増やしたため肥料が不足していると、あちらこちらの集落村町から悲鳴が上がっているのだ。

 そのため、肥料として優秀なタゴヤシヨシの買い取り価格は上がる一方。『豊穣の森』が馬鹿みたいに広いからなんとかなっているけれど。そうでなければリポップ待ちが起こりそうなほど、タゴヤシヨシは狩られ。それでも足りず、草木灰用に木々の伐採や枝拾いに丈の高い草を刈ることも積極的に行われていた。

 私も積極的にタゴヤシヨシを刈っている。その売却利益は中々のものだけれど、物価の上がり方が凄いので、意外と買えるものは少ない。そもそも売ってなかったりするし。


 良い肥料になるものが他にないか、『豊穣の森』を探索する。

「油カスになる奴があるなら、窒素肥料を賄える上で食用油も確保出来るんだけどなあ……」

 でも、『豊穣の森()』の中で油カスに出来るようなモノは、八層の『お花畑』の中の菜の花と今探しているモノぐらい。菜の花はダンジョンのオブジェクトなので、種になっているものは少ない。

 そもそも四層までしか潜ったことのない私が急に八層まで潜るのはおかしな話だ。なので『だんそん』の探索者さんに「余裕があればお願い!」と言ったぐらい。

 それでも、焦る気持ちから二層や三層を歩き回って『あるもの』を探すフリをしていた。……だってどこに何があるか、自分のことなので知っているけれど、データにないモノを急に見つけるのは不自然だもん。

「……あった」

 タゴヤシヨシ刈りの合間を縫って、三日間かけて探すフリをして。見つけたのは『大豆』だ。

「カラカラに乾いてるね」

 三層の一角で群生していた大豆を手に取り、鞘を振るとカラカラと音がした。

「それじゃ、収穫しますか!」

 とは言っても色々面倒臭いので、根っこごと引っこ抜いて【ストレージ】に入れていくだけ。慣れればポンポンと出来る作業だ。

「これで少しでも油カスが手に入ったら良いなあ」

 私はそう皮算用した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 農家って本当に化学の知識必要ですよね。 農薬も肥料も、内容よく読んで買わないとならないし。 とても共感できるお話でした。 [一言] とても面白く読ませて頂いています。 頑張った田植えの成果…
[一言] この作品は大好きなので更新ありがとうございます。
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