どんぐりくっきー
「では、ドングリクッキーを作ります」
「おー!」
長瀬さんとドングリ拾いをした翌々日。刈ってきた小麦の脱穀と製粉が終わったので、長瀬さんを私の家に招いて、ドングリクッキーを作る。
「ではまず、材料を確認します」
・小麦粉 適量
・ドングリ 適量
・砂糖 適量
・バター 適量
・卵 適量
「適当過ぎる!?」
長瀬さんから鋭いツッコミが入る。
「アハハ。まあ、そんなにキッチリしたお菓子じゃないからね」
私は笑って言う。
「割合で言うと、こんな感じかな?」
・小麦粉 1
・ドングリ 2
・砂糖 1/2
・バター 1/3
・卵 1/4
「だから、卵Mサイズ一個だとー……」
・小麦粉 200グラム
・ドングリ 400グラム
・砂糖 100グラム
・バター 65グラム
・卵 1個
「だいたいこんな感じになるかな?」
「なるほど。結構砂糖入れるんですね」
「まあねー。ドングリってアク抜きしてても、ちょっと渋み残るからね」
「なるほど」
という訳で、作っていく。
「まずは、ドングリを選別・アク抜きした後、粉にします」
「このフードプロセッサーで、ですね」
「そーそー」
ヴィーガガガ! と音を立てて、フードプロセッサーがドングリを粉々にしていく。これが手動でやるとすっごく大変なのだ。文明の利器万歳。
「で、ドングリの食感を残すため、少しだけドングリを避けておいて。これは適当な大きさに砕きます」
「こっちはすり鉢で、ですか」
「ファスナー付きのプラバックあったら楽なんだけど、今たっかいから」
「プラスチック製品ですからね」
樺太が日本領になってから、『全く売っていない』という状況ではなくなったけれど、それでもプラスチックは高い。
「粉末にしたものと砕いたドングリ、小麦粉を軽く混ぜまして」
「はい」
「これは一旦置いておいて。溶かしたバターと砂糖を入れて、よくかき混ぜます」
「探索者になってから、お菓子作りの混ぜる作業すんごい楽になったんですよね」
「レベルアップの恩恵ですよねー」
ダンジョン内で行動すると『ジョブ』の『レベル』が上がり。それに従って基礎的な能力が上昇していく。中レベルの探索者で、重機の代わりが出来る程度には力が強くなるのだ。
「で、バターと砂糖を混ぜたところに、よく溶いた卵を加えてよく混ぜます」
「ほいほい」
「混ざったところに粉を加えて、ヘラでサクサク混ぜていきます」
「……これ、ダマ残りませんか?」
「残りますけど、そんなお上品なお菓子じゃないので気にしたら負けです。ダマは気にならない程度まで混ぜましょう」
「はあ」
長瀬さんは気の抜けた返事をする。
長瀬さんはかなり丁寧に生地を混ぜたので、ダマは見当たらない。慣れている私は、少しダマが残っているけれど。
「では、クッキングシートをひいた天板に、クッキーの形になるよう、適当な大きさ、厚さにした生地を乗せていきます」
「……適当好きですね大家さん」
「まあねー」
長瀬さんもお菓子作りの経験があるので、ポンポンと天板に生地が乗っていく。
「で、一六〇度に余熱しておいたオーブンにこれを入れて。一六〇度で一五から二〇分焼けば完成です」
「おー!」
という訳で、ドングリクッキー第一弾が出来た。
「食べてみてもいいですか?」
「どーぞどーぞ」
長瀬さんは早速、クッキングシートから食器に移したドングリクッキーをパクリと食べる。
「んー。……確かに、上品なお菓子ではないですね」
「でしょー」
私もドングリクッキーをつまむ。うん、こんな味。
「クッキー、なんで、甘いん、ですけど。独特の、渋みが、あって。食感も、砕いた、ドングリが、いい、仕事してて。食べ、飽きない、ですね」
「めっちゃ食べるね長瀬さん」
私は苦笑しつつ、第二弾のドングリクッキーをオーブンレンジに入れる。
「ング。お菓子食べたの久々でしたので」
「まあねー。砂糖は四層の『ダンジョンサトウキビ』から採れるけど、協会に預けて一週間待たないと貰えないからねー」
その貰える砂糖も、手数料が引かれるので、白砂糖なら半分、黒砂糖なら七割に減ってしまう。
そういうこともあって、お菓子は貴重品なのだ。
「にしても大家さん。生地作ってる時になんとなく分かっていたんですけど。沢山焼くんですね」
「折角だから『だんそん』の皆に配ろうかなー、って」
「大家さん、そういうところマメですよね」
「探索者さんがいないと、集落成り立たないしね。それにこうやって何か作るの好きだし」
「なるほど」
長瀬さんは微笑する。
「あ、ちなみに。このドングリクッキー、あるんだったらベーキングパウダー入れると食感がサクッとするよ?」
「あー。ベーキングパウダーも手に入らなくなりましたもんねえ」
「そーそー。お菓子作るのに結構使うから、地味に大変なんだよねえ」
「まあ、仕方ないですよね」
長瀬さんは肩を落とす。
「今のところフェリーサイズの船しか運航していませんからね。今の日本の輸入ルート、樺太からだけになっているんじゃないですかね?」
「沖縄との航路維持大変、って新聞に書いてあったし、本当に樺太だけになってたりして」
笑えない冗談に、二人して笑った。
「ま、私達は出来ることやるしか出来ませんけどね」
「ですね」
長瀬さんは、私の言葉に強く頷いた。




