よくわからない状況
ニュースによると、北方領土が帰ってきて樺太と千島列島が日本の領土になったらしい。
「どういうこと?」
何が何だか分からない情報に集落の皆や探索者達と首を傾げつつも、日々の仕事は怠らない。
そんな中、集落ではとある問題が発生していた。
「だー! 絶対燃料足りねえ!」
「荒起こし、荒代、本代までは確実じゃが、田植えが怪しいのう」
「樺太の石油、ほとんど北海道と東北で使い切っているみたいですしねえ」
トラクターや耕運機を動かす燃料が、配給された分だけでは足りなさそうなのだ。
この集落で収穫された野菜やお米は、集落の皆と探索者さんの分を確保したら後は街に売りに行っているのだけれど。この調子だと、集落の分すらちゃんと育てられる気がしない。
「畑の方は、諦めて暇な探索者雇って耕すか?」
「いくら探索者さん達の力が強かろうが、腰壊すぞ!?」
「畑仕事って、力よりもコツですからねえ」
「じゃが、そうでもせんと燃料足りないからのう」
皆揃って頭を抱える。
「……とりあえず、田んぼに注力することで良いかの?」
「「異議なし」」
お米は、玄米の状態だったら、後は味噌汁を飲んでいれば栄養は足りる。西日本で石油が不足しているということは、西日本のお米生産量が下がる可能性がある訳で。つまりこの集落でお米を作らないと、お米が入手出来ない可能性がある。
だから、お米を作る田んぼに燃料を集中することは、当然のことだった。
「となると、奥山さん……」
「ああ、私の割り当てのディーゼル持っていってください」
私が自治会長の山田さんの言葉を遮るように言うと、集落の皆は申し訳なさそうな表情になった。
「……良いのかの?」
「ええ。私の畑は小さいですし。探索者さんも結構手伝ってくれますので、たぶんなんとかなります」
「……済まんの」
「いえいえ。その代わり、燃料が普通に手に入るようになったら、ちゃんと私にもくださいね?」
「それは当然じゃ!」
話し合いが終わると、春に向けて田畑の準備が始まる。
二月も半ばなので、ドカ雪が降るとしても、あと一回ぐらいだろう、ということで。『タゴヤシヨシ』の肥料を作っていた堆肥場をひっくり返して混ぜたり。農具やトラクターの点検をしたり。種子を確認したり。農薬の在庫を確認して、足りなければ買いに行ったりと、結構忙しい。
季節柄味噌を漬けたり、というイベントもあるので、忙しい日は本当暇がない。
でも、私の家庭菜園の畑は小さいので、やらないといけないことも知れていて。集落の皆の手伝いはするけれど、それでも暇が出来る。
「……なので、こうしてダンジョンに潜ってる訳なんですよ」
「なるほど」
『豊穣の森』の中、第三層で、『だんそん』の一室を借りている探索者、長瀬さんと出会い。お昼ご飯の後のまったりした時間、雑談に興じる。
「大家さんも探索者になったとは聞いていましたけれど。本当に潜っていたんですね」
「まあ、まだ四層までしか潜ったことないですけどね」
苦笑すると、長瀬さんは微笑んだ。
「ここのダンジョンはどの層でも稼げますからね。深く潜る必要もあまりないですし、それでいいんじゃないですか?」
「それもそうですね」
まあ、どの層でも稼げるよう作ったしね。その成果が出ているみたいで嬉しい。
「で、大家さんの狙いは何ですか?」
「今日はね、この層にあるドングリと小麦狙いで来ました」
「ドングリ? 北の方にあるらしいですね。小麦は分かりますが、ドングリは何に使えるのですか?」
「ドングリクッキーを作ろうかなと」
「ドングリ、クッキー?」
長瀬さんは首をかしげる。
「はい。本当は小麦だけで作りたいんですけど。今日一日で採れる小麦は知れているので、ドングリでかさ増しします」
「えドングリって食べられるのですか!?」
驚きの声を上げた長瀬さんに、私が首をかしげる番だった。
「ええ。アク抜きは必要ですが、食べれましたよ?」
一応その確認はしてあるので、心配はない。
「ほえー。ドングリ、食べれるんだ……」
長瀬さんは、感心した様子で頷いていた。
「大家さん、ドングリクッキー、作り方、教えてくれますか?」
「いいですよ? じゃ、早速材料採りに行きます?」
「はい!」
ということで、長瀬さんと共にダンジョンを歩く。ダンジョンを三層降りる階段から北に一時間程歩くと、小さな広葉樹の森にたどり着く。
「じゃ、落ちてるドングリ拾いましょうか」
「はーい」
ポイポイと、かなり落ちているドングリを拾う。たまーにモンスターの『ワイルドボア』がドングリを食べている場面に出会うけれど。このダンジョンのモンスターはパッシブしかいないので、警戒することなくドングリを拾っていく。
「こんなものでいっか」
二人合わせて、ヘルメットに二杯は入りそうなドングリを集め終えると。
「じゃ、帰りながら小麦採りましょうか」
「あ、私今日小麦刈りの予定だったので、多めに採りますね」
「分かったよ」
と、草原に生えている小麦を刈り取っていく。
この日は、時間ギリギリまで小麦を刈り取った。




