特別編 懲罰部隊 第3部 第8章 思い出の祖父のカレーの味
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
岩佐たちを乗せたUH-1Jは、大日本帝国陸軍南方軍第14軍第5飛行集団が管理する飛行場に着陸した。
岩佐たちを出迎えたのは、第5飛行集団長の小畑英良中将であった。
「君たちは、幽霊総隊空軍のエースパイロットたちかね?」
「エースパイロットって・・・俺たちは、ただの懲罰部隊員ですよ」
猪渕が答える。
「懲罰部隊だと言う事は、承知している。だが、開戦以来、度重なる出撃で、正規部隊よりも実績を積んでいるというではないか。懲罰部隊であろうとなかろうと、飛行機乗りには変わらない」
小畑が、告げる。
「貴方は!!?」
間宮が、叫んだ。
「航空畑の小畑英良大将閣下!!!」
「ふむ・・・まだ、大将ではないな。今は陸軍中将だ。私は、それほど有名な軍人なのか?」
小畑の問いに岩佐は首を振り、猪渕は、間宮に耳打ちした。
「どんな不祥事を犯した人なんだ?」
「こら!集団長殿に対して、無礼であろう!」
副官らしき下級将校が、叫んだ。
「小畑中将に関しては、存じ上げています」
早瀬が、つぶやいた。
「第5飛行集団から改変された第5飛行師団の師団長に就任し、第3航空軍の司令官に就任します。1944年2月に第31軍司令官となり、サイパン島の防衛に当たります。同年6月15日に、米軍はサイパン島に急襲上陸を行い・・・その際、閣下はパラオ方面での視察中であったため、サイパン島及びその周辺空域が米海軍の制空権下になったため、サイパン島に帰還できず、現地の指揮を参謀長に任せ、ご自身はグアム島で、サイパン島及び周辺空域の制空権奪還のための指揮を執りました。ですが、閣下の奮励に叶わず、サイパン島は陥落しました。第31軍司令部はグアム島で、再編成されたのですが・・・7月21日の米軍によるグアム島急襲上陸によって、海岸線に展開した帝国陸海軍守備隊は、多くの犠牲者を出しました。原因としては、米海兵隊と米陸軍の強固な上陸戦と洋上艦隊による艦砲射撃、空母艦載機による爆撃が激しく、守備隊は、なす術がなかったのです。8月11日に小畑中将閣下は、玉砕を覚悟し、最後の総攻撃を下命しました。その際、司令部要員と共に自決しました。自決後、大将に昇任しました」
「ふむ・・・わかりやすく、簡易的にまとめられて、よろしい」
自分の事なのに、小畑は他人事のように、早瀬の説明を受け評価する。
「君たち未来人からの話は、正直飽き飽きしていたのだ。歴史研究家や歴史小説家に、私について説明させると、長々と説明された。そして、統一された意見として、海軍の山本五十六大将が考案したグアム・サイパン・テニアンを不沈空母として、本土防衛の絶対攻防圏を、陸軍が半端な気持ちで行ったと・・・」
小畑が、拳に力を入れた。
「当時の事は私にはわからない。だが、陸軍とて、グアム・サイパン・テニアンがどれ程大事な物か理解していたはずだ。決して海軍の意見等と言って、蔑ろにはしていないはずだ!」
「閣下のご意見は、もっともな事です。ですが、歴史研究家や歴史小説家の話を、あまり鵜呑みにしないで下さい」
「なんと」
小畑が、目を丸くした。
岩佐は、続けた。
「歴史研究家も歴史小説家も、それぞれの自分の見解だけではなく、考察に協力するスポンサーがついている場合もあります。そのスポンサーの意見に、左右される事もあります。ですから1人2人の意見を聞くのではなく、最低でも10人の意見・・・異なる見解をもっている歴史研究家や歴史小説家の意見を聞いて下さい。そうすれば、幾つかの意見を検証し取捨選択する事で、事実に近い真実に辿り着けるかと・・・」
「そうか・・・そう言う考え方もあるか・・・」
小畑は、頷いた。
「陸軍航空隊は、幽霊総隊陸軍航空部隊を模範として、再編成してきたが・・・幽霊総隊空軍からの意見を聞いていない。我々としては、かなり興味深い。この後、食事をしながら、是非、君たちの意見を聞きたい」
小畑の言葉に、岩佐たちは顔を見合わせた。
「いいぜ。旧陸軍航空隊の指揮下に入るという事は、旧陸軍法に従う・・・という事だろう。つまり、飲酒飛行が可能という事だ」
「おほん!」
陸軍憲兵隊の憲兵少佐の階級章をつけた、上級士官が咳払いをした。
「君たちは、あくまでも我々、陸軍が管理している戦闘機に搭乗し、在比米軍の指揮・監督下で、作戦行動を行う事になっている。さらに、我が帝国と締結された日本人地位協定によって、日本人に対する飲酒及び薬物は、いかなる場合でも日本国憲法、刑法及び民法等の法令での規制下で認められていると書かれている。そのため、日本人が公務中及び車輛・艦船・航空機の操縦を行う場合は、飲酒及び薬物投与は認められていない。残念ながら、君たちは飛行前だから飲酒は認められない」
憲兵少佐が、長々と説明する。
「なんだ、そりゃあ!?」
猪渕が、叫ぶ。
「まあ、そういう事だ。幽霊総隊陸海空軍の上級士官及び高級士官が視察として、お越しになった場合は酒も提供するのだが・・・彼らは車輛等の乗り物の操縦をしないため、特例的に認められているに過ぎない。飛行士に関しては公務外又は翌日が休日若しくは非番でなければならない。酒の代わりに炭酸のジュースを提供する、それで我慢してくれ」
小畑が、笑みを浮かべる。
「なんだよ!旧陸軍と同じ翼に乗るんだから、酒も問題ないと思っていたのによ!」
「すまんな・・・未来人は何かと規制していると思うが・・・それを破ったら、俺たちが罰せられるからな。軍人が警察に逮捕される・・・そう言う事態だけは避けたいのだ」
憲兵少佐が、補足する。
「仕方ないですよ。2尉」
間宮が、がっくりとなっている猪渕の肩に手を置く。
「あ~あ、酒が飲みたいぜぇ~ここ、数日、酒とは無縁の生活を送っている~・・・」
「だらしない声を出すものでは無い!」
イト婆さんが、声を上げた。
「安心しろ。小娘が立案した作戦案が実行されるまで時間はある。その間の1日若しくは2日は、飲み放題じゃ」
「マジか!?」
「マジじゃ!」
「ばっちゃん!愛しているぜぇ~!」
抱き着こうとしている猪渕を、イト婆さんはあっさりとかわす。
「なつくな!バカ者!それにお主のような若造に愛されても、何もうれしくないわい!」
「ひどいぜぇ~ばっちゃん!俺の愛のハグを受けてくれよぉ~!!」
「お主のハグで、ワシは喜ぶか!それは曾孫娘にでも、くれてやれ!」
「え?」
猪渕が、目を丸くする。
「何を勘違いしとる!ハグぐらい、愛の証でもなんでもないわい!欧米では、挨拶代わりにするではないか!」
「ああ、そういう事か・・・」
「少し、期待したな」
岩佐が、猪渕の背中を叩く。
「ビックリしましたよ~おばあちゃんが、そんな冗談を言うなんて・・・」
「まあ、欧米では、そういった風習がありますから・・・日本だったら、まあ・・・イケメンに限るという条件が付きますが・・・」
「さて、そろそろ、昼食の時間だ。我々の食事を楽しんでいくといい」
小畑が、提案する。
「メシ!そりゃあ、いただくぜぇ」
猪渕が、声を上げた。
「今日の昼食は、なんですか・・・?」
間宮が聞く。
「今日の献立は・・・?」
小畑が、副官に顔を向ける。
「カレーです」
「カレーか・・・、幽霊総隊や海軍のカレーと比べれば、とても味気ないだろうが・・・それなりに味は、いいはずだ。まあ、前線部隊のカレーだから、具の量が少なかったり、無かったりするだろう」
「いえ、カレーですから、いつの世も、味はいいでしょう」
岩佐は、答える。
「では、行こう」
小畑が、案内する。
野外食堂として開かれている食堂は、賑わっていた。
士官、下士官、兵という区分も無く、全員が並び、野外の席に腰かけていたり、芝生の上で腰かけ、アルミ製の食器を片手に、スプーンですくって口に運んでいる。
「おや、肉無しカレーって、書かれているぜ。大将」
猪渕が看板を見ながら、つぶやく。
「・・・という事は、ジャガイモの皮を肉として代用しているのかな・・・?」
岩佐が、つぶやく。
「よく知っているな・・・幽霊総隊や新世界連合常任理事国の米国軍在比米軍、海軍と違って、肉や魚が品薄だ。そのため、代用出来るものを、代用している」
「私の祖父が、食糧不足だった時代に、母親が作ってくれた。と、言っていました。肉や魚が一般的に購入出来るようになってからも、家庭の味として、ジャガイモの皮を肉の代用品として作ってくれました。戦後の味として・・・」
「ほぅ~おじい様は、戦後の苦しい状況を、過ごされたのだな」
小畑が、顎を撫でた。
戦争中・・・大日本帝国陸海軍では、それぞれの補給態勢で、糧食の輸送を行っていた。
戦後の貧しい時代・・・日本人たちは、その苦難を乗り越えていた。
食糧がまったく無い訳では無く、野原に行けば、毒を持つ草や花も毒抜きをすれば食べる事が出来る。
それだけでは無く、川や海に行けば、貝類や魚、水草や海藻等々・・・
当時は、かなりのコミュニティが完成していたため、情報交換は簡単な物であり、当時の日本政府も、調達出来る食材を食糧にするために、さまざまな情報提供を行った。
その方法として、当時のコミュニティを使ったのだ。
岩佐たちの順番が、来ると・・・
「客人かい?」
「おぅ!陸軍が鹵獲した、敵国の戦闘機を使わせてもらうぜ」
「そうかい!そうかい!」
エプロンをつけた陸軍曹長が、豪快な笑みを浮かべる。
「米軍の戦闘機や英軍の戦闘機乗りは、かなりの強者揃いだったが、比軍の戦闘機乗りは、大した事が無かった。ここで鹵獲された戦闘機も比軍の物だ」
「フィリピン軍ですか・・・ですが、フィリピン軍に空軍は、創設されていなかったはず・・・」
早瀬が、つぶやく。
「そんな事は、一介の曹長である俺には知らねぇよ。比律賓空軍若しくは陸軍航空隊が創設されていたんだ。それ以下でもそれ以上でも無い」
曹長は、部下たちに用意させたアルミ製の食器に、麦ご飯を注ぎ、カレーをかけた。
「はいよ!俺たち特性のカレーライスだ」
「いただくよ」
「君たちのメシを、楽しく食べるよ」
小畑が、笑みを浮かべる。
「しゅ、集団長閣下!?」
曹長が、叫ぶ。
食堂で、当番兵たちが、一斉に姿勢を正す。
「そのままでよい。ここは憩いの場だ」
まさか集団長を地面の上に座らせる訳にも行かず、1つのテーブルを食事中の将兵たちが空けた。
「うむ・・・兵たちと食事をとるのは、まずかったか・・・」
小畑が、つぶやく。
「それは、そうでしょう・・・最前線部隊の飛行場に集団長閣下がお越しなられ、食事も兵たちと共にとる。兵たちにとっては、気まずいでしょう・・・」
高級副官の中佐が、つぶやく。
「そうなのか・・・少佐?」
小畑は、指揮下の第93飛行場大隊の大隊長である少佐に顔を向けた。
「中佐殿の発言は正しいです。ですが、将兵たちは突然の事にびっくりしているだけの事です。何も心配いりません」
「うわぁ!?本当に肉の変わりにジャガイモの皮がある!」
猪渕が、声を上げる。
「お気に召さないか・・・?」
「これだよ、これ!祖父ちゃんが作ってくれた、カレーの味だ」
岩佐は、美味い、美味い、と言いながら肉無しカレーライスを食べる。
「幽霊総隊陸海空軍のカレーを味わったが・・・前線部隊だと言うのに、肉や鶏肉が必ず入っていた。肉の保存状態もいい」
「それは、冷凍車が完備されているからです」
「うむ・・・その冷凍車は、鮪まで、長期冷凍が可能なのだろう?」
「ああ、そうですぜぇ!自衛隊が使用する冷凍冷蔵車は、アイスクリームから鮪まで冷凍可能です。それも長期期間・・・米軍は、もっとすごいですが」
「うむ。私も在比米軍や在韓米軍・・・さらに、在中米軍にも視察したが、彼らの補給力は凄まじいものだった・・・そして、その補給力は、昭和10年代の米軍も、未来の米軍と同じくらいの補給力を持っている・・・クリスマスや兵士の誕生日には、家族からケーキを送らせる事もあった、という・・・さらに、それ以外の日々でも、ステーキだのパンケーキだのを作った・・・対する我々は・・・」
「米と味噌で戦っていました・・・」
岩佐が告げる。
「うむ。それは、補給が順調だった部隊に限る・・・補給が正しく機能していない部隊では、蝸牛や蛙・・・さらには木の枝や木の皮も齧って、飢えを凌いだ・・・そんな弱小国家が強大な米国に叶うはずがない・・・」
「閣下!」
「おっと、失言だった。ここは下士官や兵たちが多くいる場所・・・そこに、高級士官が、そのような発言をすれば、いらぬ疑念が生まれる事になる」
「どうしてですか。中将?」
猪渕が、カレーをガツガツと食いながら、尋ねる。
「俺の爺様の親父や兄弟たちは、戦争に行ったが、下士官や兵たちの間でも戦争は負けると認識していたそうですぜぇ?高級幹部の1人や2人が、そのような事をつぶやいても問題ないですぜぇ」
「そうか・・・?」
「ああ、俺の爺様の親父の兄は、帝国海軍の兵卒で、山本司令長官や幕僚たちのお世話係だったそうです。山本長官以下幕僚たちは毎日のように、アメリカとの戦いは負けが確定している。どのように有利な戦況だったとしても・・・と、言っていたそうですぜ」
「確かに高級士官の従卒になれば、そういった話を聞くだろう・・・私の父の兄弟も帝国海軍聯合艦隊司令部勤務であったが、当時は日露戦争中だった。露国艦隊に敵うはずがないと言っていたそうだ」
小畑が、目を細める。
「そうでしょう・・・」
「ですが閣下、日露戦争時代と今の時代では、大きく異なります。下士官や兵たちを無用に怯えさせるのは避けて下さい」
副官の言葉に、小畑は無言で頷いた。
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