特別編 懲罰部隊 第3部 第9章 作戦前
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。
フィリピン諸島ミンダナオ島の某地域にあるインドパシフィック合同軍在比アメリカ軍統合基地。
菊水総隊陸上自衛隊第14機動旅団・旅団長の井笠和彦陸将補は、軽装高機動車で編成された1個警護小隊の護衛下で、同基地正門まで接近した。
井笠は国際任務仕様の高機動車に乗り、副官や防衛事務官、第14機動旅団付政務官や補佐官、秘書が同乗している。
幕僚及び随員たちは、国際任務仕様の3トン半トラックと1トン半トラックに、資材と共に乗り込んでいた。
軽装高機動車で編成されている警護小隊も旅団司令部付隊傘下の警護中隊から投入されている。
さらに身辺警護のために第14機動旅団第14派遣警務隊警護小隊から警務官(MP)が、派遣されており、彼らは警務隊仕様の軽装高機動車と白バイで身辺警護任務についている。
旅団付隊警護中隊は、普通科隊員で編成された警護部隊であるが、あくまでも第14機動旅団司令部から派遣・視察する高級幹部及び上級幹部たち全員の安全を確保するための部隊であり、どちらかと個人より全体を守る警備部隊に近い。
旅団長等の高級幹部及び師団等付政務官・政務官補、防衛事務官(上級幹部クラス)個人を警護するのは警務科隊員で編成された警務隊(MP)の管轄である。
ただし、師団等付政務官及び政務官補は、警察総監部警備本部警備運用部警備第2課直轄の警護警察官が、外地での活動する要人警護方針に従って、警護を行う上・・・戦場で、特に危険と指定されている地域では特殊急襲部隊(SAT)も警護要員として派遣される。
第14機動旅団付政務官・政務官補は、どちらも男性であるため、男性の警護警察官が動きやすい服装で、防弾衣を着込んだ状態で警護する。
警護要員は、3名ないし4名である。
これに加えて、SATから編成された特別警護班(班長・警部補、副班長・巡査部長、班付・巡査部長2名、銃器要員・巡査長ないし巡査4名、防弾盾要員・巡査長ないし巡査6名、狙撃要員1名巡査部長以下、観測要員1名巡査部長以下)16名の隊員が装甲車に搭乗した状態で警護する。
SAT下で編成された特別警護班の特殊銃及び拳銃として、自動小銃はM4A1カービン又はHK53が、自動拳銃としてM93R[ベレッタ]が標準装備である。
ただし、これも危険度のレベルよって、大きく変わる。
危険度が高く、CQB戦闘を予想されるエリアでは、上記のような装備になるが、危険度低ければ、89式5.56ミリ小銃やM16A3や短機関銃が装備される場合もある。
拳銃も、火力が必要な地域ではM93Rの場合もあれば、さほど火力の必要が無い地域では、グロック19、USP、P226等が装備される事もある。
通常、師団等政務官・政務官補に関しては、政務官は与党議員が選抜されるが政務官補は野党議員が選抜される。
野党議員の中には公権力による警護を嫌う事があるため、その場合は警察官が警護する事は無く、警備官又は警備会社の警備員による身辺警護を行う場合もある。
ただし、警護対象者になるのは政務官及び政務官補である。
彼らに随行する補佐官及び秘書は、対象外である。
そのため補佐官は党の予算から秘書は議員の予算から出した状態で、警備会社の警備員に身辺警護を依頼しなければならない場合もある。
危険地帯であれば統合省保安局警備本部の警備官が、身辺警護を行う。
ミンダナオ島にある在比米軍の統合基地の正門には、民間軍事企業(PMC)に所属する社員が武装した状態で、警備を行っている。
井笠が乗車した高機動車の周囲を民間軍事企業(PMC)の社員が、爆発物探知犬を連れて、確認する。
「どうぞ」
民間軍事企業の社員が英語で、許可をする。
井笠が乗車した高機動車が、米統合基地の正門を通る。
「さすがは米軍だ。予算も豊富にあるから、民間軍事企業に警備を委託している」
1トン半トラックに搭乗した石垣が、つぶやく。
「石垣2尉。質問なんですが・・・?何故、民間軍事企業は、日本に無いんですか?」
側瀬が、質問する。
「え?それは・・・?」
石垣が、頭をフル回転する。
「それは・・・だな。あれ、だ。憲法の解釈や法的問題があるからだよ」
「どんな問題があるんですか・・・?」
「それは・・・その・・・あの、だな・・・あれ、だ!あれ、だよ!」
「あれって、何ですか?」
「え~と・・・」
「え~と・・・?」
「その、だな・・・ほら、自衛隊でも武器の所持には、規制があるだろう。警察のように、自由に持ち出せない・・・的な・・・」
「なんですか、それ?」
「うっ・・・」
「なん~だ。石垣2尉も知らないんだ・・・じゃあ、メェメェに聞こう!メェメェ、教えて?」
「簡単な事よ。日本国内では、民間企業や民間団体に銃器の所持を認める法律が厳しく、警備会社及び海洋警備会社等の警備会社で、特に必要と認定された警備企業だけが、銃器の所持が認められるからよ。それに、日本では、警備企業に銃器の所持が認められるのは、准警察活動に該当する行為のみに限定されているの。軍事活動に関しては憲法9条に抵触する可能性もあるし、国民感情的にも問題があるのよ」
「そうだ!それが言いたかった!」
石垣が、声を上げる。
「だったら、私が説明する前に説明しなさい」
「うっ・・・」
石垣が、小さくなる。
「まあ、日本国内には存在しないが、海外では日本人が経営する民間軍事企業も存在する。アメリカ2社、ロシア、ヨーロッパ、中東、アフリカに1社、アジア・東南アジアに3社、存在する。日本人が経営企業だけあって、福利厚生はしっかりしている上に、海外に働く日本人の就職先として、民間軍事企業がある」
オールディスが説明する。
「日本国内には無いけど、日本人が経営する民間軍事企業はあるんですね・・・ねぇねぇ、メェメェ、オールディスさん。日本人が経営する民間軍事企業の仕事は主に何?」
「そうね・・・アジアに本社を置く日本人が経営する民間軍事企業は、中央アジア地域で現地の治安回復のための治安維持活動を行っているわ・・・それ以外にも、地元軍及び民兵の軍事教練や国連の傘下に入って、生活必需品等の物資輸送の護衛と、配給の秩序維持があるかしら」
「ヨーロッパや中東では、治安維持活動と同時に重要防護施設の警備及び要人の警護も実施されている。アフリカでは、反政府軍の鎮圧活動にも従事しているし、アメリカは、麻薬取締局(DEA)又は連邦捜査局(FBI)の指揮下で麻薬戦争やマフィア戦争にも従事している」
「幅広くやっているんですね・・・」
「PMCは、ピンからキリまであるから、それぞれの企業によって、その業務は様々よ」
石垣たちは1トン半トラックの荷台から降りると、ミンダナオ島にある前線の統合基地の空気を身体に感じた。
上空では、AH-64A[アパッチ]が警戒飛行をしていた。
「随分と厳重ですね・・・」
「当然でしょう。ここは前線の統合基地よ」
メリッサが、告げる。
「正規戦は終了宣言を出されているのに、何故ですか・・・?」
「アフガンやイラクでの教訓よ」
メリッサが、答える。
「アフガニスタンとイラクが、何か関係あるのですか・・・?」
「ニュースや新聞で見なかったかのか・・・?」
オールディスが、つぶやく。
「アフガンへのアメリカ軍の侵攻は、2001年に行われた。その2年後に、戦争終結宣言が出された・・・だが、2020年代まで紛争は続いた」
「ええ、知っています。確か、当時のアメリカ国防長官は、アフガンで政権を握っていたテロ集団の背骨を砕いた。と、発表しましたね・・・」
「ああ、そうだ。そして、アフガンのテロ集団には戦う力は無くなったと思われた・・・だが、間違いだった」
「間違い・・・?」
「そうだ。アフガンのテロ集団は、背骨を砕かれても、手足が動いた。その手足は、ソ連との戦争を経験しただけでは無く、アメリカとの戦争も経験した。そのため、より一層狂暴化し、アメリカ軍の戦術にも対応するようになった」
「何故ですか?」
「君は、戦史研究を仕事にしているのに、何も知らないんだな」
「石垣2尉は、おバカですから~」
側瀬がニコニコしながら、告げる。
「何を!」
「黙りなさい。おバカルテナント・イシガキ。ミユキの言い分は正しいわ」
「ぐぬぬぬ~・・・」
「まあ、何だ・・・今から、サルでもわかるように説明してやる」
オールディスは、咳払いをする。
「ある戦争論でも言われているが、戦いが長引けば敵は戦術に対応してくる、アメリカ軍はアフガンのテロ集団と戦い続けただけでは無く、ソ連のアフガン侵攻の時もアメリカ軍は極秘裏に軍事支援を行っていた。当然ながら、武器、兵器の供与だけでは無く、戦術も供与した。このため、アフガンのテロ集団はアメリカの戦いを学び、弱点等を見つけた・・・極秘情報では、ベトナムからも軍事顧問を派遣してもらったというものもある。それらの情報を元に、当時のアメリカ軍は、アフガンだけに兵を送っている訳では無いという事にも気づいた・・・」
「イラクですか・・・?」
「そうだ。イラクにも同時進行で、兵を送っていた。イラクでは旧政府軍からテロ集団に、姿を変えた武装集団が、アメリカ軍にゲリラ戦術を仕掛けていた。イラク旧軍は、アメリカ軍との戦争を経験した猛者ばかりだ。その敵を排除するのは、いくら世界最強のアメリカ軍をもってしても不可能だ」
「・・・・・・」
「さらに、当時の大統領は、アフガンに対して、消極的だった。アメリカ本土を直接攻撃したテロ集団でもあるにもかかわらず、派兵兵力は攻撃をしていないテロ国家の10分の1という規模だった」
「どうして、そのような事が起きたんですか・・・?」
「う~む。これは諸説ある」
「諸説ですか・・・」
「そうよ。これに関しては、アメリカ政府も国防総省も明確な解答を行っていないのよ」
メリッサも、難しそうな顔を浮かべる。
「そうなのですか・・・?」
「ああ、一番しっくり来るのが、アフガンに関しては、地政学的問題があった、という・・・」
「質問~」
側瀬が、手を挙げる。
「はい、ミユキ」
メリッサが、当てる。
「アフガンやイラクには、何故、アメリカ軍が侵攻したの?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
メリッサとオールディスが、同時に言葉を失う。
「ミユキ。9.11を知っているかしら?」
「うん!知っている~旅客機がハイジャックされて、2つのビルに体当たりしたんでしょう」
「そうよ。首謀者は、国際テロ組織のリーダー・・・中東をアメリカからの支配から解放する事をスローガンに、アメリカ本土を攻撃したの」
「何故、中東をアメリカからの支配から解放するの?中東は、アメリカからの干渉を受けていたの?」
「ルテナント・イシガキ」
「はい」
「いい機会だから、何故、イラク戦争とアフガン紛争が勃発したのか、ミユキに説明しなさい」
「はい」
石垣は、側瀬に向き直る。
「中東地域は、古代からヨーロッパの干渉を受けていた・・・」
((いや、そこから!?))
メリッサとオールディスが、内心で突っ込んだ。
ヨーロッパ地域の中東地域への干渉は、古代ローマ時代には、すでに始まっていた。
やがて・・・ローマ帝国が、カトリック系キリスト教を国教として定めて以降、聖地エルサレムを異教徒から奪還するという大義名分で、ヨーロッパ各国は度重なる侵攻を行った。
西ローマ帝国が滅亡後も、聖地エルサレムは、何度も異教徒に奪われた・・・
言ってみれば、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教という、唯一絶対神を信仰するそれぞれの勢力の争いである。
仏教や、他の宗教と違い、本来なら同じ神を信仰している、言わば兄弟のような関係であるにも関わらず、3つの宗教間での争いで、多くの血が流れているのは周知の事実である。
中世、近世からも以降もキリスト教の軍は、ユダヤ教又はイスラム教が占拠するエルサレムの街を奪還・・・という名目で、侵略を繰り返した。
第2次世界大戦時代に、ユダヤ教とイスラム教、それぞれに聖地エルサレムを返還するという話をもちかけた。
第2次世界大戦後、連合国側の勝利に終わると、連合国側は、ユダヤ教にもちかけた話を守った。
エルサレムを中心とした地域を、イスラエル国として、ユダヤ教の国家を建国した。
それがイスラム教とユダヤ教との間に、亀裂を生じさせた。
4度にもわたる中東戦争が勃発し、ユダヤ教とイスラム教が対立し、キリスト教は、それを傍観する。
キリスト教のお望み通りに、ユダヤ教とイスラム教が争い・・・共に共倒れする事を望んでいるだろう。
それを見かねた国際テロ組織の首謀者は、裏で手を引いているアメリカを攻撃する事を計画した。
アメリカは、ユダヤ教とイスラム教の争いだけでは無く、中東の原油の利権を独占する考えを持っていた。
それを知った国際テロ組織の首謀者は、アメリカ本土への攻撃を実施した。
アメリカだけでは無く、アメリカに属する西側諸国への爆弾テロを計画した。
陸海空の3つの次元から攻撃を実施し、アメリカ国民及び西側諸国の国民すべてを恐怖に陥れた。
アメリカは国際テロ組織首謀者の排除のために、アメリカ軍はアフガンとイラクに侵攻した。
「という訳で・・・」
「その辺でいいわ」
「え?まだ説明が・・・」
「お前の間違っているような正しいような論を聞かされるこっちの身にもなれ」
メリッサとオールディスが止めた。
「それに・・・」
メリッサが、側瀬を指差す。
「・・・・・・」
「寝ている・・・立ったまま、寝ている」
余談ではあるが、後に石垣は、戦艦[大和]や、指揮母艦[信濃]の新兵たちの座学で、教官として戦史を教える事になるのだが・・・
あまりの下手くそさに、戦史の教官が、桐生に変更されるという事になるのは、また別の話である・・・
特別編 懲罰部隊 第9章をお読みいただきありがとうございます。
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