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ある日の朝。
私は重大な事実に気付いた。
スローライフを試していない。
思わずベッドから飛び起きる。
そうだ。
異世界には様々なジャンルが存在する。
剣と魔法。
冒険。
学園。
料理。
そしてスローライフ。
人気ジャンルである。
なのに私は今まで検証していなかった。
これは由々しき事態だ。
朝食の席に着くなり、私は宣言した。
「畑を作ります」
沈黙が落ちた。
父様がゆっくり顔を上げる。
「何故だ」
「スローライフだからです」
「違う」
即答だった。
しかし私は知っている。
スローライフ系主人公はまず畑を耕すのだ。
これは常識である。
「ということで行ってきます!」
「待ちなさい」
「待ちません!」
私は逃げた。
父様のため息を背中で聞きながら庭へ向かう。
そして倉庫から小さなスコップを発見した。
勝った。
これで開拓できる。
私は庭の端っこにしゃがみ込んだ。
「よし」
土にスコップを突き立てる。
えい。
硬い。
もう一回。
えい。
やっぱり硬い。
それでも負けない。
スローライフは地道な努力の積み重ねなのだ。
三十分後。
私は土まみれになっていた。
目の前には小さな穴。
達成感はある。
しかし畑と言うにはあまりにも小さい。
「お嬢様……」
振り返るとメアリーがいた。
ものすごく困った顔をしている。
「何をなさっているんですか」
「畑です」
「穴ですよね?」
「未来の畑です」
「そうですか……」
全然納得していない顔だった。
その時だった。
「リリア」
聞き慣れた声がして、私は元気よく振り返る。
父様だった。
父様は私と穴を交互に見る。
それから静かに聞いた。
「何だこれは」
「畑です」
「穴だ」
「まだ成長途中なんです」
「穴だ」
父様は頑なだった。
私は立ち上がって説明する。
「ここで野菜を育てて、自給自足して、のんびり暮らすんです」
「公爵家の令嬢が?」
「はい!」
「何故」
「スローライフなので」
父様は目を閉じた。
しばらく何も言わない。
そして。
「リリア」
「はい」
「お前は何故そんなに土を掘りたがるんだ」
言われてみれば。
黒魔術でも掘った。
地下遺跡探しでも掘った。
そして今も掘っている。
私は少し考えた。
真剣に考えた。
そして結論を出す。
「異世界だからです!」
父様は空を見上げた。
その顔は、全てを諦めた人の顔だった。




