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転生して三日。
私は重大な事実に気付いていた。
(まだ何も始まってない)
異世界転生と言えば、普通こうだ。
神様に会う。
チートを貰う。
魔法が使える。
イケメンが現れる。
世界を救う。
なのに現実は。
「お嬢様、本日は刺繍のお勉強です」
「……地味」
「お嬢様?」
「なんでもありません」
優雅なお茶。
綺麗な庭。
平和な屋敷。
穏やかな使用人達。
……平和すぎる。
私は腕を組んだ。
(おかしい)
絶対おかしい。
異世界にはもっとこう、危険とか陰謀とか、そういうのがあるはずなのだ。
つまり。
(まだ隠されてる)
私は真剣な顔になった。
「メアリー」
「はい、お嬢様」
「この家に地下室はありますか」
メイドさん――メアリーが固まる。
「地下室、ですか?」
「秘密の研究施設とか」
「ございません」
「封印された魔導書とか」
「ございません」
「黒魔術の儀式場とか」
「ございません!!」
食い気味だった。
だが私は諦めない。
異世界とはそういうものだ。
表向き平和でも、裏では絶対何か起きている。
私は屋敷を探索し始めた。
本棚を漁り。
倉庫を覗き。
庭の隅を掘り。
使用人達を震え上がらせた。
そしてその日の夕方。
私はついに見つけてしまった。
「……黒い本」
倉庫の奥。
埃を被った古い本。
表紙には難しそうな文字。
私は震える手でそれを開いた。
「これは……!」
パラリ。
難解な文章。
意味不明な図形。
怪しい記号。
間違いない。
「黒魔術の本だわ……!」
「それは古い家計簿だ!」
背後から華麗な突っ込みの声がした。
振り返る。
父様だった。
「えっ」
「三年前の小麦価格について書かれている」
私はもう一度本を見る。
確かに。
よく見れば数字ばっかりだった。
「…………」
父様は深いため息を吐いた。
「何故お前はそんなに黒魔術を探しているんだ」
「異世界なので」
「その理論が分からん」
「だって普通あるじゃないですか!」
「ない」
即答だった。
私は負けじと反論する。
「じゃあ魔法!」
「ない」
「魔王!」
「いない」
「呪術師!」
「聞いたこともない」
そんな。
私は愕然とした。
じゃあ本当に何系なんだ。
スローライフ?
王宮陰謀?
商売系?
考え込む私を見ながら、父様は額を押さえる。
「リリア」
「はい」
「頼むから屋敷に穴を掘るのはやめなさい」
「地下遺跡の可能性が」
「ない」
「絶対?」
「ない」
「ほんとに?」
「ない」
父様は真顔だった。
私はむぅ、と頬を膨らませる。
その時だった。
「旦那様!!」
使用人が慌てて駆け込んでくる。
「お嬢様が庭で描かれた円陣が消えません!!」
父様がゆっくり私を見る。
私は目を逸らした。
「……リリア?」
「黒魔術が発動したんだ!」
「するわけないだろ!」
「そもそも描くな!!!」




