1
5歳
「……あれ?」
目を開けると、知らない天井があった。
白くて、ふわふわしてて、なんか天蓋っぽい布までついている。
(え、病院じゃない)
ぼんやりした頭で周囲を見回す。
広い部屋。
高そうな家具。
可愛らしいぬいぐるみ。
そして――
「……ちっちゃ」
視界に入った自分の手は、驚くほど小さかった。
ぷにぷにで丸い。
完全に子供の手である。
「え、待って」
私は飛び起きた。
しかし身体が小さすぎて、勢い余ってベッドから転がり落ちる。
「ぶべっ」
痛い。
普通に痛い。
その瞬間、扉が勢いよく開いた。
「お嬢様!?」
メイドさんっぽい人が飛び込んでくる。
綺麗なお姉さんだった。
「お怪我は!?」
「え、あ、だいじょ――」
そこで止まる。
(……お嬢様?)
頭の中に、嫌な予感が走った。
「鏡」
「はい?」
「鏡ください」
「え?」
「はやく」
困惑しながらも、メイドさんは手鏡を差し出した。
私は恐る恐る覗き込む。
そこに映っていたのは――
金色の髪の、美少女だった。
「……誰?」
メイドさんが青ざめた。
「お嬢様!?」
「いや待って、ほんとに誰?」
頬をつねる。
痛い。
動く。
自分だ。
「え、え、え、え?」
混乱する頭の奥で、何かが弾けた。
夜道。
眩しいライト。
走る音。
誰かの叫び声。
――刺された。
その記憶が蘇った瞬間、私は固まった。
「……死んだ?」
前世の記憶。
日本。
大学。
コンビニ。
スマホ。
講義サボった記憶。
一気に流れ込んできて、頭がくらくらする。
「転生……?」
思わず呟く。
メイドさんは完全に泣きそうだった。
「お、お医者様を……!」
「待って」
私は勢いよく立ち上がった。
「確認しないと」
「はい?」
「ここ、異世界?」
「いせかい……?」
言葉は通じている。
でも知らない部屋。
知らない服。
知らない顔。
これはもう。
「転生だーーーー!!!!」
「お嬢様ァーーーー!?」
部屋中に叫び声が響いた。
その数分後。
私は椅子に座らされ、両親らしき人達に囲まれていた。
美男美女だった。
すごい。
遺伝子が強い。
「リリア、落ち着きなさい」
父らしき人が低い声で言う。
「急に変なことを叫び出してどうしたんだ」
「父様」
「うむ」
「ここ異世界なのですよ!」
沈黙。
メイドさんが顔を覆った。
母様らしき人は困ったように微笑む。
父様は真顔だった。
「……元からここに住んでいるが?」
「だから異世界なのですよ!」
「違う」
即答だった。
私は机を叩いた。
「じゃあ魔法は!?」
「ない」
「えっ」
「ない」
「剣と魔法の世界じゃないの!?」
「何を言っているんだお前は」
そんな。
じゃあ何系だ。
スローライフ?
冒険?
王宮?
私は真剣に考え込む。
きっとまだイベントが起きてないからこうなんだわ!
それまでどのジャンルなのか確認しないと!
そうと決まれば行動のみよ!!
そう私は真剣な顔で決意した!
そう決意した私の傍らで、
父様達は深刻そうな顔をしていた。




