48.淡く光る朝の光
空の色が東雲色からオレンジ色に変わる時、朝の柔らかな光がカーテン越しに差し込んでいた。遠くには鳥のさえずりと神殿の朝を告げる鐘の音が聞こえる。
私は目を開けたまま、しばらくそのまま起き上がらなかった。白い天井に施された淡い金色の装飾をただ眺めていた。今日が結婚式だという実感がしばらくわかず、薄らぼんやりとしていた。
(とうとう、今日なんだ……)
しんとした部屋の中、私はひとり胸に手を当てる。紋章もただ胸に『在る』だけで光は放たない。まるで私の今の気持ちのように静かだった。――それが選んできた自分の強さなのだろうか。
本当に今日から正式に王族になるのか。私はいまだに実感がなく、あるのは凪のような静けさだけだ。
私はあたりを見渡す。城に来てから、ほぼここで過ごした部屋は、白に淡い金色の装飾を施された神殿に近い雰囲気の場所だ。窓からは花壇に朝露を含んだ百合、花壇の端に、淡い紫色の『ルエリア』が一輪だけ咲いている。
ふと机の方を見る。
ヴェールに指輪の箱、そして小さな花束が置いてある。
まるで、神殿の祈りの間にいるかのような澄んだ気持ちになる。
その時、コンコンと静かに扉の叩かれる音がした。
「おはよう、花嫁様。ちゃんと眠れた?」
神職の濃紺の正装に身を包んだラヴィニアがふわりと微笑みながら入ってくる。
私は、顔が熱を持っているのを誤魔化すように少し俯く。
「……眠れるわけ、ない」
「そうね。誰だって眠れない」
ラヴィニアが、ふふりと笑う。
「……さぁ、支度しよっか。最高の花嫁様にしてあげる」
ラヴィニアの手際は素早く、私は瞬く間にドレスを身にまとい、髪も綺麗にまとめられていく。鏡に映る自分が、いまいち信じられない。
ドレスの裾を整えながら、ラヴィニアが呟く。
「……ここまで来たね。ルエリアは……逃げなかった」
私は少し笑って、頷く。
鏡に写った自分を改めて見つめる。
剣を持って、母の叱責に怯えていた自分。
傷だらけで泣いていた自分。
それらが、全て今の私の中にいる。
選び続けた私が、ここに立っていた。
しばらくして、騎士団の黒い儀礼服に身を包んだ両親が静かに入ってきた。
父の目が、潤んで、少し揺れている。
はっと息を呑むような仕草をし「……綺麗だ」と呟く。
その父の姿に、私はふっと笑う。
母も、息を呑み、私を見つめる。
動きが、少しぎこちないが、以前の硬さや厳しさはどこにもない。
少しためらいがちに私にそっと触れ。口を開く。
「……これがあなたの選んだ道よ。ルエリア、あなたは、私よりずっと強い」
母の言葉に、少し視界が滲む。
ただ、「はい」と静かに頷く。
視線は、母をしっかりと見つめながら。
今までのことを思い、胸がぎゅっとなるが、私は前を向く。
神殿から式の始まりを告げる鐘がはっきりと大きな音をたてる。
ラヴィニアが、私の頭に花嫁のヴェールを載せ、静かに素早く整えていく。私は、ヴェール越しにもう一度、あたりを見渡す。
その時、もう一度はっきりと神殿の鐘が鳴る。
「……そろそろ行こうか、ルエリア」
スッとラヴィニアが一歩下がり、私の隣へ、父が静かに近づく。
私は、ひとつ深く呼吸をし、ゆっくりと父の腕に手をかける。
そして、母とラヴィニアに静かに膝を曲げ、礼をする。
あんなに鋭かった母の瞳が、潤んでいる。
そして、何よりも暖かい空気が私たちを包む。
神殿への回廊の前で一度立ち止まる。
礼拝堂で、フレンが待っている。彼のそばにいることを選んだ私が、歩いていく。回廊の光が淡く私と父を包んでいた。




