46.夜が明ける前、それぞれの場所で
結婚前夜。フレンと母レナータ陛下、ルエリア。
それぞれどう思い、感じるのでしょうか?
季節は夏から秋に移り変わり、十月の終わり。
眠れない私は、ふと部屋のドアを開けた。遠くに神殿の灯りがぽうっと見える。
この時期になると、夜の風はひんやりと冷たく、少し震える。外では庭園にいる虫の声がかすかに響き、季節の移ろいを知らせていた。眠れない夜には、この冷たさが心地よいのだ。
私は、ふと横においてある、自身が使っていた剣を見る。少しくすんだ銀色のそれを見て、私は思い出す。かつては、母にあんなにも怯えていたはずなのに。それもどこか遠い日のように感じる。自身でフレンの手を取り、生きることを選び、ここまで来た。
胸の紋章も光を放つようなことはなく、ただ静かに私の胸元にあるだけとなった。私はそっとそれに触れ、目を閉じる。母に怯えていた日々、フレンの手を取ると選んだ日。アミティエとの確執、神殿が崩れた瞬間、そして兄の回復を待つ時間。次々と光景が浮かんできた。
そして、私は目を開け、これからのことを考える。
もうすぐ、結婚式、そして戴冠式の日が来る。
怖いわけじゃない。でも、戻りたいとは思わない。ただ、選び続けてきた。そして、私はこれからも選び続けていくのだろう。
私は、ひとつ深呼吸をして、窓を閉める。
ベッドへ横になり、ただ一点を見つめていた。
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フレンは、女王の私室の扉を開けた。
装飾も豪華ではない、ただ魔法灯が揺れる部屋に濃い茶色の応接セットが置いてあり、ベッドサイドには今は亡き夫の写真が飾られている。
レナータはフレンを見てふっと柔らかく笑う。
「フレン、どうしたの? 眠れない顔ね……もうすぐ、式だものね。誰でもそうなるわ」
フレンはさっと俯き、曇った表情で口を開く。
「母上、俺は、強い王になれると思います。ただ……それが正しい王のあり方か、わかりません」
レナータは首を振り、微笑む。
「正しい王なんて、最初からいないわ。――いるのは、選び続ける王だけ」
フレンは、俯いたまま、話を続ける。
「ルエリアを守れるか、不安なんです。それでも隣に立つと選んでくれた――彼女も、王妃になることへ不安がないはずではないのに」
レナータは笑みをたたえ、真っ直ぐフレンを見る。
「安心しなさい。あの子はあなたに救われた子じゃない。あなたと同じ場所に立つことを選んだ――強い子だから。あなたと彼女になら、この国を安心して任せられる」
一瞬レナータの顔が曇り、魔法灯がゆらりと揺れる。
「かつて、私はルエラを救えなかった。一番近いところにいたはずなのに。――親友として、何を超えてでもできることがあっただろうに」
レナータはフレンを優しい目で、しっかりと捉える。
「だから、フレン。あなたは――選ぶ人でいなさい。壊せなくても、目を逸らさないで。王である前にひとりの人でいなさい」
フレンは深く頭を下げ、はっきりと答える。
「……はい。俺は、選び続けます」
ゆっくりとレナータは窓辺に行き、外を見る。遠くに神殿の灯りがぽうっと光る。
そして静かに呟く。
「やっと……夜が明けるのね」
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私は、ベッドの上で眠れない夜を過ごしていた。
これから王太子妃……王妃としてどう生きるのだろう。
紋章も、剣も、答えはくれない。
ただ、私は選んでいくのだろう。フレンの横で。
これまでも、選んできたように。
私は天井に向けて、手を伸ばす。
かすかに残った痣があの日々を思い出させてくれる。ただ、私は後悔していない。




