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この剣は、貴方のために  作者: 凪砂 いる
第十章 回復していく時間、そして祈り

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45/66

45.ともに選び続ける光

 カーン、カーンと神殿の鐘の音が遠く、静かに響く。

 

 ——あの日、『彼女』と向き合ってから、数日が経っていた。

 

 朝の光が部屋に差し込み、私の顔を照らす。

 

 何事もなかったように日常は進んでいくが、私は神殿が崩れた日以来、久々に「眠れた」と感じていた。寝ているのか起きているのかわからなかった感覚が、ようやく、はっきりとしてきたのだ。

 

 何事もなかったかのように朝を迎える。それが少し怖くて――しかし、救いでもあった。


 私の胸元の光の紋章は今までのようにぽうっと光ることもなく、ただ、胸に静かに『在る』だけのものになっていた。それと同時に、本当に日常が戻ってきたというほっとした感覚があった。


 「ルエリア、起きたのか?」

 

 ふっと笑うフレンの声がする。目の前にいる彼の姿を見て、今までのことが夢ではなかったことを確信する。彼は、戴冠式を控えて本当に忙しそうで、話をする時間が、あまりとれていない。


 私は、ゆっくり頷き、起き上がる。

 

 顔を合わせられるのは、本当に朝と晩だけ。それでも、彼といる時間が、私の心をじわりと暖めてくれる。


 窓を開けると、空気がふわりと香る。

 カラカラと、朝食が運ばれてくる音がする。


 「殿下、ルエリア様。朝食をお持ちいたしました……おはよう、元気そうね」

 ラヴィニアがふふっと笑う。

 私とフレン、そしてラヴィニアのいつも通りの朝。

 昼間は私とラヴィニアは再開された王太子妃教育。フレンは公務に忙しい。


 「今日は、予定の後、お兄ちゃんのところに行ってくる」

 フレンは微笑んで頷く。

 「フラヴィオに、できるだけついていてやってくれ。俺はなかなか行けないからさ」

 私はゆっくりと頷く。


 フレンに会えない時間は、ふとした瞬間に胸の奥がずしりと重くなる。

 でも、兄が回復するまでの時間、今はこのままでいいんじゃないかって、思えるようになった。


 朝食を終え、部屋の外に出るとゆっくり歩き回る女官の足音が静かに響き、庭の方を見ると、手入れされた百合の花がふわりと揺れている。


 治療室へ入ると、兄が体を起こして待っていた。


 「ダメじゃないお兄ちゃん、無理に身体をおこしちゃ……」

 ふぅとため息をつく。


 兄は少し弱い声で口を開く。

 「早く復帰しないといけないんだ。休んでいられるか……っ!」

 兄が少し顔を歪める。私はそれを見て苦笑いする。

 「ほら、無理するから」


 兄は、ふっと遠くを見る。

 

 「神殿が崩れた時……正直、怖かった。でも、オレは後悔してない。こうして戻ってこれたしな」

 「……うん」

 

 私は、ただ頷く。

 

 「でもさ、あの場で何もしなかったら一生、後悔したと思う。助けた、ってほど格好よくない。ただ……置いていけなかっただけだ」

 

 私の胸が、熱くなる。

 

 「……戻ってきてくれて、よかった」


 その時、両親が入ってきた。


 「ルエリア、フラヴィオ。……元気そうだな」

 父は多くを語らないが、私たちを信じてくれているのがわかる。


 私と父は、お互い頷く。

 「……お前は、よくやった」


 兄も強く頷く。


 「ルエリア。これからも選び続けること。誰のためでもなく、あなた自身のために」

 母の目は、やわらかい。

 治療室に、ふわりとしたあたたかい空気が流れる。


 ---


 夕刻のオレンジ色の光が、裏庭を包む。

 誰もいない裏庭のいつもの場所に私とフレンはいた。


 「……やっぱり、ここに来ると、安心する」

 フレンがふっと微笑む。

 「……そうだね。なんか短い間だったのに、色々、あったね」

 私は、彼を見上げる。


 彼は、頷きながら、口を開く。

 「ただ……君は……ここに立っている。それだけで、答えだと思っている」

 私はゆっくりと静かに頷く。

 「全部、終わったわけじゃないよ。でも……逃げなかった。それだけ」


 遠くに修繕されていく神殿が見える。

 壊れたものは、完全に元には戻らないのかもしれない。

 それでも、私たちは進める場所には、立っている。


 ぽわっと私の胸元の紋章が光る。強くはないが、揺れずにはっきりと。


 これからも、私たちは順風満帆ではないのかもしれない。それでも、この光とともに――選び続けていくのだと思えた。

お読みいただき、ありがとうございます!

次の46話からは結婚式編に入ります。

ついに結ばれるフレンとルエリアを、見守ってください……!

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