第80話 棄てられた王女
前回のあらすじ
アイナは魔法が使えない棄てられた王女
夜ご飯を食べ終わった後、アイナに誘われて彼女と一緒にお風呂に入る。
その際、アレンがすっごく生温かい視線を送っていたけど……気にしたら負けな気がする。
アイナの雪のように真っ白で綺麗な髪を洗ってあげて、彼女の背中も流してあげる。
アイナもお返しとして、わたしの髪と背中を洗ってくれた。
「んしょ……んしょ……」
拙い手つきだけど、誰かに洗ってもらうっていうのはやっぱりキモチイイ。
互いに身体を洗い終わり、一緒に湯船に浸かる。
「ふああああ〜〜〜……」
わたしは気の抜けた声を上げるけど、こればっかりは仕方ない。
誰だってあったかいお湯に浸かれば、声を上げるでしょう?
するとアイナが、湯船の中でもじもじとしていた。
「? どうかしたの?」
「あ、あの……えっと……うぅ……」
わたしが問い掛けると、アイナは戸惑った様子を見せる。
けれどやがて、躊躇いがちにわたしに尋ねてくる。
「あの……えっと……アリシアさんのこと、おねえちゃんって呼んでもいい、ですか……?」
アイナはそう、うるうると潤んだ瞳の上目遣いでそう尋ねてきた。
「うん、いいよ」
わたしは二つ返事でアイナの提案を受け入れた。
こんな可愛らしいおねだりを拒否出来ようか? いや、出来ない(断定)。
するとアイナが、ぱあっと顔を輝かせる。
「おねえちゃん」
「なぁに、アイナ?」
「ふふふ……呼んだだけです」
「そう? ……あ、畏まった口調じゃなくていいからね?」
わたしがそう言うと、アイナは頷く。
「はい……あ、いや……うん、おねえちゃん」
「うんうん」
「おねぇ〜ちゃん♪」
「ア〜イナ♪」
「「ふふふ……」」
わたしとアイナは顔を見合わせ、笑い合う。
それから、アイナが飽きるまでお互いを呼び合った―――。
◇◇◇◇◇
「魔法が……使えない?」
アンジェリカさんの言ったことが信じられなかった。
「え……アイナは、魔力が全く無いんですか?」
魔力が全く無ければ、魔法が使えずとも不思議ではない。
人魔世界でも天空世界でも、本当に片手で数える程度だけど、そんな人はいた。
そういう理由なら、アイナが棄てられたことは納得出来ずとも理解は出来る。
だけどアンジェリカさんは、首を横に振る。
「いいえ、むしろその逆です。アイナは常人よりも遥かに多くの魔力を持っています。その点は流石は王家の血筋、と言ったところですけどね……」
「それなら尚のこと、おかしくないですか?」
膨大な魔力を持っているのに、魔法は全く使えない。
普通は、魔力をほんのちょっとでも持っていれば魔法が使えるのに、アイナは出来ない。
この矛盾を指摘すると、アンジェリカさんは困ったような表情を浮かべる。
「ええ。私もそう思いましたから、そういった事例に詳しいお医者様にも何度か診ていただいたのです。ですけど……」
「……医者全員が匙を投げた、と」
僕がそう言うと、アンジェリカさんは無言で頷く。
その顔には、自分の無力さにうちひしがれる表情が浮かんでいた。
育ての親としての苦悩の一端を感じ取った僕は、それ以上聞くことはしなかった。
「……分かりました。このことは僕の胸の裡に秘めておきます。アリシアには話しますけど、いいですか?」
「ええ、いいですよ」
「もしアイナの症状が改善される何かを見つけたら、真っ先に教えますね」
「ありがとうございます……」
アンジェリカさんはそう言うと、深々と頭を下げる。
「アイナのことが聞きたかっただけなので、僕はこれで失礼しますね」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
僕はそう返し、アンジェリカさんの前から去って行った―――。
◇◇◇◇◇
翌朝。
日課である朝の鍛練の最中に、僕は昨夜アンジェリカさんが教えてくれたことをアリシアにも話す。
ちなみに場所は、教会の裏庭だ。
すると彼女は、見るからに悲しげな顔をする。
「そう、なんだ……。アイナが……」
「うん……。もちろん……他言、無用で……」
なんで言葉が途切れ途切れなのかというと、僕は絶賛アリシアと斬り結んでいるからだ。
呼吸を整えるために、一旦アリシアと距離を取る。
「分かってるわよ。……けど、そうなんだ……わたしは王女サマの姉かぁ……」
「は? 姉?」
聞き捨てならない単語を聞いた気がして思わず聞き返すと、アリシアは気持ち悪……訂正、ニヤニヤ笑いを浮かべながら答える。
「ええ、そうよ〜? アイナにおねえちゃんって呼ばれるようになったからね〜、わたしは♪」
「…………随分と嬉しそうだね」
「もちろん♪ わたしずっと、妹が欲しいなぁ〜って思ってたから。……あ、ちなみに。アイナにはアレンのこと、おにいちゃんって呼ぶように言い付けてあるから」
「……ああ、さいですか……」
ありがた迷惑とは、正にこのことだろう。
なぜ転生してまで、『おにいちゃん』と呼ばれなければいけないのか。
あの、兄を兄とも思わない悪魔の存在から。
……いや、イレーナとアイナを同列視したら、アイナが可哀想だ。
本当にイレーナは、僕を自分の所有物か何かと思っているくらい、兄遣いが荒かった。
だけど恋人からは、兄想いのいい娘だね、と高く評価されていた。解せぬ。
まあ妹の子孫が、今目の前にいるアリシアだけどな!!
閑話休題。
僕は辟易しつつも、炎と氷を纏った両手の剣を構え直す。
そして腰を落とし、一気に地面を蹴り上げたその時――身体から一気に力が抜けた。
「うおっ!?」
突然のことでバランスを崩し、転びかける。
だけど咄嗟に身体を捻って、背中側から地面へと倒れ込む。
「っつ〜……」
「大丈夫、アレン!?」
アリシアは慌てた様子で、僕の方へと駆け寄って来る。
「ああ、大丈夫だいじょう、ぶ……」
無事だとアピールするために右手を上げたその時、異変に気付いた。
右手の剣に纏わせていた炎が、跡形もなく消え去っていた。
僕は慌てて左手も上げるけど、そっちも氷が消え去っていた。
魔法剣は、僕の意思で発動のオンオフが出来る。
外部からの刺激で消え去ることは、まず無い。
だけど僕は発動をオフにしていないにも関わらず、魔法剣は消え去っていた。
「え……?」
するとアリシアのものでも、もちろん僕のものでもない声が聞こえて、そちらに目を向ける。
声は、教会の物陰から聞こえた。
するとそこには、僕の方に右手を向けたまま、きょとんとした表情を浮かべているアイナが立っていた―――。
妹の子孫と恋仲とか、アレンも中々業が深……おっと、誰か来たようだ。
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