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第75話 新たな旅立ち

前回のあらすじ

皇帝に魔王討伐を報告した

 

 王の間を出ると、目の前には見知ったメイドさんが待機していた。

 彼女に連れられ、アイシャの部屋まで案内される。

 その部屋でしばらく待っていると、私服に着替えたアイシャがやって来た。


「ひっさしぶり〜、アリシアちゃん! 元気してた?」

「うん、元気だったよ。アイシャは?」

「あたしも元気だったよ〜」


 アイシャはそう言い、わたしの手を握ってくる。

 するとアイシャは違和感を感じたのか、手元に目を落とす。


 その視線は、わたしの左手薬指に嵌められた指輪に注がれていた。


「……アリシアちゃん、結婚したの?」

「いや……結婚したんじゃなくて、婚約したんだけど……」

「誰と?」


 アイシャがそう尋ねてきて、わたしは答える代わりに視線を隣に向ける。

 それにつられるようにして、アイシャもわたしの隣にいる人物―アレンに目を向ける。


 するとアイシャはわたしから手を離して、アレンを見定めるようにして視線で彼の身体を舐め回す。


「へぇ〜……ふ〜ん……ほ〜ん……」

「一々仕草がわざとらしいんだよ、お前は」


 するとあろうことか、アレンはアイシャのおでこにデコピンをお見舞いした。

 バヂン! と痛々しい音が響いて、アイシャはおでこを押さえて蹲る。

 そして涙目で、アレンを見上げる。


「いった〜い! それが皇帝にすること!?」

「僕はお前を皇帝だと思ったことは一度たりともない」

「それはそれでひどい!」


 アレンの物言いに、アイシャが抗議の声を上げる。

 その、やけに気さくな雰囲気を醸し出す二人に、わたしは恐る恐る尋ねる。


「えっと、あの……二人は知り合い、なの……?」

「知り合いというか……」

「僕はアイシャといとこなんだよ」

「ええっ!?」


 あまりにも予想外な間柄に、わたしは思わず声を上げた。

 ということは……。


「……アレンって、皇族?」

「いいや、違う」


 するとすぐに、アレンから否定の言葉が返ってくる。


「あたしの父親が皇族で、母親がアレンの母親と姉妹なの。だからアレンは皇族じゃないよ」


 ようやく痛みが引いたらしいアイシャが、立ち上がりながらそう補足してくれた。


「あ、そうなんだ……」

「うん、そうなの。それにしても……アリシアちゃんのお相手がアレンだったとはねぇ……」

「なんだよ? 何か文句でもあるのか?」


 普段よりもぶっきらぼうな口調で、アレンがアイシャに問い掛けていた。

 それに対して、アイシャは首を横に振る。


「ぜ〜んぜん。むしろ、アレンがアリシアちゃんに迷惑を掛けないか心配してただけ」

「余計なお世話だ」


 アレンのその言葉を聞き流し、アイシャがわたしの手を再び握ってくる。


「おめでとう、アリシアちゃん」

「うん、ありがとう、アイシャ」


 アイシャの祝福の言葉に、わたしは笑顔でそう返した―――。




 ◇◇◇◇◇




 アイシャとは二時間ほどお喋りに講じた後、早々に帝城を後にした。

 帰り際にアイシャから、今回の褒美はすでにわたしの実家に送ったと伝えられた。


 帰りの馬車の車内で、窓の外を眺めながら向かいに座るアレンに話し掛ける。


「……ねぇ、アレン。わたし、ずっと考えてたことがあるんだけど……」

「……何?」

「あのね、わたし―――」


 そしてわたしは、この世界に戻ってきてからずっと胸に秘めていた想いを、アレンに打ち明ける。


「……うん、いいと思うよ」


 それを聞いて、アレンは肯定してくれた。


「え? いいの?」


 わたしはアレンの方に向き直り、そう聞き返す。

 するとアレンは、静かに頷く。


「うん。アリシアがしたいことを全力で支えるだけだからね、僕は」

「ありがとう、アレン……」


 わたしにはもったいないほどの心優しい恋人の言葉に、わたしは微笑みながらそう言った―――。




 ◇◇◇◇◇




 家に戻ると、お母さんが出迎えてくれた。


「おかえりなさい、アリシア、アレン君」

「ただいま戻りました、リサさん」

「ただいま、お母さん……そうだ。お城から何か届いてない?」


 わたしがそう尋ねると、お母さんが頷く。


「届いたわよ、ミスリル鉱石が」

「それって今どこにあるの? 工房?」

「ええ、そうだけど……」

「なら急がないと!」


 わたしはそう言ってアレンの手を取り、工房へと向かった―――。




 工房に入ると、お父さんがミスリル鉱石とにらめっこしていた。


 ……よかった、まだ加工される前で。


 ホッと安堵の息を吐き、お父さんに声を掛ける。


「お父さん、ちょっといい?」

「……ん? ああ、アリシアか。それにアレン君も。おかえり」

「ただいま戻りました、アルトさん」

「ただいま、お父さん。……それで、お父さんにお願いがあるんだけど、いい?」


 わたしがそう尋ねると、お父さんは笑顔で頷く。


「ああ、いいぞ。何だ?」

「このミスリル鉱石を使って、アレンの剣を打って欲しいの。これから必要になるから」

「剣を打つのはいいが……どういう意味だ?」

「それは……お母さんも交えて、リビングで話すね」

「……分かった。それじゃあリビングに行こう」


 そしてわたし達は、リビングへと向かった―――。




 リビングで、わたしは両親と向かい合って座る。


「あのね……お父さん、お母さん。わたしね……もっと旅を続けたいの。アレンと一緒に世界中を旅して、見て回りたい。またここに戻ってくるつもりだけど、もしかしたら旅先で腰を落ち着かせるかもしれないけど……いい、かな……?」


 わたしがそう尋ねると、二人共笑顔で頷く。


「ええ、いいわよ。アリシアはもう大人なんだから、好きにしたらいいわ」

「ああ、リサの言うとおりだ。俺達はアリシアのやりたいことを応援する。それが親ってものだろう」

「ありがとう……お父さん、お母さん……」


 わたしは涙ぐみながら、二人に向かって頭を下げた―――。




 ◇◇◇◇◇




 それから二週間後。

 わたしとアレンが旅立つ日がやって来た。


 アレンの新しい剣は完成して、鞘に納められた状態で両腰に吊るされている。

 アレンの剣は刀身をミスリル製に変えただけで、柄などは前の剣の物を流用していた。

 お父さん曰く、「剣の握り心地が変わるのは嫌だろう」らしい。


 そしてアレンはというと、その剣の出来栄えにとても満足した様子だった。

 お父さんの腕前がアレンにも認められた気がして、娘のわたしも鼻が高い。


 家の前で、両親に別れを告げる。


「それじゃあ、お父さん、お母さん。いってきます」

「いってらっしゃい。くれぐれも怪我には気を付けてね」

「アレン君。アリシアのこと、頼んだよ」

「はい、お任せください」


 二人に笑顔で見送られ、わたし達は出発した。


 町を出て、わたし達がこの世界に戻ってきた時に躍り出た丘へと向かう。

 両親には結局言わずじまいだったけど、わたし達が旅するのは、世界は世界でも異世界だった。


 そして丘の上までやって来て、わたしは魔法袋の中から旅人の指輪を取り出し、左手に嵌める。

 ちなみに婚約指輪は、紐で括って首から提げていた。


 わたしは隣に立つアレンと手を繋ぎ、指を絡める。


「それじゃあ行こっか」

「ああ。どんな世界があるのか楽しみだ」


 アレンは、ワクワクが抑えきれないといった様子だった。

 その様子に頬を緩めながら、旅人の指輪を嵌めた左手を高々と掲げる。


 するとわたし達の前の空間に亀裂が入り、砕け散る。

 わたしはもう一度アレンの方に目を向けると、彼もわたしの顔に目を向けていた。


 わたし達は無言で頷き合うと、その亀裂に足を踏み入れて、まだ見ぬ世界へと旅立った―――。






次から新章開幕です!




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