第74話 報告
前回のあらすじ
アレンがリサと手合わせした
アイシャ……皇帝陛下宛てに手紙を出してから一週間が経った頃になって、彼女から手紙の返事があった。
そこに書かれていた内容は、来週迎えの馬車を寄越すから、それに乗って登城せよとのことだった。
それと、勇者の魔王討伐に協力した冒険者も連れてくるように、とも。
自室でその手紙を読み終わったわたしは、一階のリビングへと向かう。
そこでは、アレンがわたしから借りた本をソファーに座って読んでいた。
テーブルの上には、読書のお供としてお茶と、お母さんが昨日焼いていたクッキーが載ったお皿があった。
わたしはアレンに近付き、声を掛ける。
「ねえ、アレン。ちょっといい?」
「……うん? 何、アリシア?」
アレンは本からわたしに視線を移して、そう尋ねてくる。
「えっとね……アイシャから手紙が来て……」
「アイシャって……この国の皇帝の?」
「うん、そう」
アレンの言葉に頷き、わたしは続ける。
「その手紙に、魔王討伐に協力した冒険者も連れてくるようにって書かれてたんだけど……」
「もちろんついていくよ」
彼は二つ返事で了承してくれた。
すると、お父さんがリビングへとやって来た。
「ああ、アリシア。ちょうどよかった」
「? 何がちょうどいいの?」
「コレだ」
そう言ってお父さんが差し出したのは、すごく小さいダイヤモンドが嵌め込まれた指輪だった。
「指輪……?」
「そうだ、アリシアの婚約指輪だ。さっき完成したんだ」
「こっ……!?」
びっくりし過ぎて変な声が出た。
そしてお父さんはその指輪を、アレンに手渡した。
「確かに渡したからな。それじゃあ俺は仕事に戻る」
お父さんはそう言い残して、リビングから去っていった。
そしてわたしはアレンと顔を見合わせる。
「コレ……どうしようか?」
アレンは指輪を持ち上げながら、そう尋ねてくる。
「えっと……わたしの指に嵌めてくれると、嬉しい……なぁ……」
顔を真っ赤にしているのを自覚しつつ、そう答える。耳も熱い。
するとアレンはソファーから立ち上がり、わたしの前に立つ。
おっかなびっくりにアレンの顔を見上げると、彼も顔を赤くしていた。
そして壊れ物を扱うような手つきで、わたしの左手を取る。
そしてその薬指に、指輪を嵌めてくれた。
「これでいい……?」
「うん……ありがとう」
わたしはそうお礼を言って、感極まってアレンに抱き着いた。
アレンはわたしをしっかりと抱き留めて、わたしの背中に腕を回す。
「うふふ……ラブラブね、二人共」
すると突然そんな声が聞こえてきて、わたしは慌ててアレンから離れて声がした方に目を向ける。
リビングと廊下を繋ぐ入口から顔だけ覗かせた状態で、お母さんがニマニマとニヤけていた。
「お、お母さん!? これは、その……!」
「うふふ……お邪魔虫は退散しますよ〜」
お母さんはそう言い残して、お店の方へと戻っていった。
「お母さん! 誤解だから! ……いや、誤解じゃないけども!」
わたしは説得力のない言い訳をしながら、お母さんの後を追い掛けて行った―――。
◇◇◇◇◇
一週間後。
家の前には、豪奢な造りの馬車が停まっていた。
その馬車にアレンと共に乗り込み、皇帝陛下がおわす帝城へと向かう。
三時間ほどで帝城までたどり着き、係の人に王の間まで案内される。
そして中に入り、玉座に座るアイシャの前に跪き、頭を垂れる。
わたし達の周りには、この国のお偉いさん方が集まっていた。
「面を上げよ」
威厳たっぷりな声音でアイシャがそう言い、わたしは顔を上げる。
「久しいな、勇者よ」
「はっ。皇帝陛下におきましても、ご機嫌麗しく」
「うむ。……して、そなたの後ろにいるのが、此度の件の協力者か?」
「はい」
アイシャの問い掛けに、わたしはそう答える。
するとアイシャは、わたしの後ろにいるアレンに目を向ける。
「そなたの名は何と言う?」
「はっ。私の名はアレン・アークライドと申します」
「アレン……アレンか、なるほど……。そなたの噂は余も耳にしたことがあるぞ。なんでも、世界唯一のSSランク冒険者らしいな。真か?」
「はい、真にございます」
アイシャの問い掛けにアレンがそう返すと、途端に周りがざわめき出す。
だけどアイシャがスッと片手の挙げると、水を打ったようにシン……と静まりかえった。
皇帝っぽい、と心の中でアイシャに失礼な感想を抱いていると、彼女は再びわたしに目を向ける。
「此度の魔王討伐の件で、そなたに褒美をやろう。なんでも申すが良い」
随分と気前の良い申し出だった。
だったらその言葉に甘えようと思い、チラリと後ろにいるアレンに目をやってから、再びアイシャの方に目を向ける。
「でしたら、ミスリル鉱石をいただきたく存じます。それも長剣が二振り出来るほどの量を、です」
「そんな物でいいのか?」
アイシャがそう聞き返してくるので、わたしは頷く。
「はい」
「……よかろう、手配しよう。他にはないのか?」
「いいえ、ございません」
「そうか……ならば退いてよいぞ」
「はっ、失礼致します」
「……ああ、言い忘れておった」
わたしが立ち上がりかけたその時、アイシャがそう言った。
……なんとなく予想はつくなぁ……。
そう思いながら、アイシャの次の言葉を待つ。
「この後、余の部屋に来い。そこのアレンという輩も連れて、な」
「……はい、畏まりました」
予想通りの言葉に、わたしは頭を下げる。
そして今度こそ立ち上がり、アイシャに一礼してから王の間を去っていった―――。
久々のアイシャの登場です。
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