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第71話 母の戯れ 前編

前回のあらすじ

アレンがアリシアの両親と対面した

 

「……わたし達は―――結婚するつもりでいるよ。今すぐにってほどじゃないけど……」


 わたしは顔が赤くなっているのを自覚しつつも、両親の顔をしっかりと見据えてきちんと答える。

 するとお父さんは無言で頷き、お母さんはにっこりと微笑む。

 そしてそのまま、アレンの方に目を向ける。


「そう……アレン君もアリシアと同じ気持ち?」

「はい。アリシアを……娘さんを、僕にください」


 アレンはそう言って、ソファーに座ったまま深々と頭を下げた。

 それを見て、今度はお父さんが口を開く。


「アレン君。まだまだ未熟な娘だが、アリシアのこと、よろしく頼む」

「……! はいっ!」


 アレンは顔を上げて、威勢良く返事をする。


 こうしてわたしとアレンは、わたしの両親の許しを得て正式に婚約した―――。




 ◇◇◇◇◇




 皇帝陛下――アイシャへの報告は直接しないといけないけど、アポイントメントを取らないと謁見は出来ないだろうから、その旨が書かれた手紙をしたためなきゃいけない。

 それにわたし個人としては、久しぶりの故郷でゆっくりと羽を伸ばしたかった。


 そのこともあって、わたし達はしばらくの間リリィの町に滞在することを両親に告げた。

 すると二人共、笑顔で迎えてくれた。


 そしてその日の晩は、わたしの誕生日祝いと婚約記念と称して、お母さんが存分に腕を奮った豪勢な晩ごはんとなった。

 その祝いの席で、これまでの旅路を両親に話した。

 二人共笑顔を浮かべながら、わたし達の話に耳を傾けていた。


 その後、わたしは久しぶりにお母さんと一緒にお風呂に入った。

 魔王討伐の旅に出る前にもたまに一緒に入っていて、最後に一緒に入ったのは旅に出る前日だった。


 お母さんの細く長い指が、わたしの髪をわしゃわしゃとシャンプーで泡立てて汚れを落としていく。

 その指の動きに身を委ねていると、後ろからお母さんが尋ねてきた。


「ねえ。アリシアとアレン君は、いったいどこまで進んだの? えっちぃことはもうしたの?」

「ぶふっ!? わ、わたしとアレンはまだキスしかしてない…………あ」


 お母さんの誘導尋問に引っ掛かったことに気付いて、わたしは顔を真っ赤にして俯く。

 するとお母さんが後ろから抱き着いてきた。


「うふふ……本当にアリシアは可愛いわね」

「もう、お母さん! からかわないでよ!」

「どうしよっかなぁ〜」

「もう!」

「ふふふ……」


 わたしはぷんぷんと怒りを露にするけど、お母さんはクスクスと微笑むだけだった。

 その微笑みを見て、わたしは故郷に帰って来たことを強く実感する。


 その後も、久しぶりの母娘のふれあいは続いた―――。




 ◇◇◇◇◇




 翌日。

 朝食を摂った後、暇を持て余した僕は何とはなしに表に出る。


 するとそこで、アリシアのお母さんであるリサさんと出くわした。

 彼女は何かが入った木箱や、剣や槍などの武器をリアカーに積んでいるところだった。


 何をしているのか気になったので、リサさんに話し掛ける。


「リサさん、何してるんですか?」

「ん……? ああ、アレン君か……コレ? コレはね、この町に駐屯してる騎士団に卸す商品を積んでいるところよ」

「え? 騎士団と直接取引してるんですか?」

「ええ、そうよ」


 リサさんはあっけらかんと答える。


 ……もしかして、アリシアの実家ってスゴいんじゃ……。


 騎士団と直接取引出来るのは、大商人でもそれほどいない。

 なのに、言い方は悪いけど、片田舎の武器屋が騎士団と直接取引してるなんて……。


「あ……商品卸すの手伝いますよ」


 戦々恐々としつつも、僕はそう手伝いを名乗り出る。


「そう? ならお言葉に甘えようかしら」


 リサさんの許可も得たので、彼女と協力して荷造りをしていく。


 最後の木箱を積もうとしたその時、アリシアが家の中から出て来た。

 彼女の手には、一通の便箋が握られていた。


 アリシアは僕とリサさんの顔を交互に見て、きょとんとする。


「あれ? なんでアレンがお母さんの仕事手伝ってるの?」

「いや……やることがなくて暇だったから……」

「そうなんだ。……お母さんはこれから駐屯所に行くところ?」

「ええ、そうよ。アレン君にも手伝ってもらってるの。……アリシア、帰って来て早々悪いけど、店番頼まれてくれない?」

「うん、いいよ。それじゃあ、行き掛けでも帰りでもいいから、この手紙出しておいてもらえる?」


 アリシアはそう言うと、持っていた便箋を僕に差し出してくる。


「うん、分かった。宛先は?」

「皇帝陛下宛て」


 最後の木箱を積んでから、その便箋を受け取りつつそう尋ねると、アリシアの口から予想してた人物が発せられた。


「了解。それじゃあ行ってくるよ」

「行ってくるわね、アリシア」

「行ってらっしゃい、二人共」


 アリシアに見送られながら、僕はリアカーを引いて恋人の母親と一緒に騎士団の駐屯所へと向かった―――。






ちなみにアレンは、アリシアと同じベッドで寝ました。

だけど二人の間には何も起きませんでした。




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