第72話 母の戯れ 中編
前回のあらすじ
アレンがリサの仕事を手伝った
アリシアから頼まれた手紙を出しつつ、十五分ほどでこの町の騎士団の駐屯所にたどり着いた。
入口にある詰所で、リサさんが入所手続きを行う。
「こんにちは、グレイル武具店のリサです。注文の商品をお届けに参りました」
「これはこれはリサ殿、お疲れ様です。それではいつも通り、こちらの紙に記入をお願いいたします」
「はいはい」
リサさんはそう言って、慣れた手つきで紙に何かを記入していく。
すると受付をしていた騎士が僕の方に目をやり、リサさんに尋ねる。
「リサ殿。あちらの青年は?」
「……ああ、アレン君? 彼は娘の彼氏で、私の将来の義理の息子よ」
リサさんはさらりとそう答える。
……何一つ間違ったことを言ってないから、逆に反応に困る。
そんなことを思いつつ、僕はとりあえずその騎士に会釈をする。
ちょうどその時、リサさんの記入も終わったようだ。
「はい、書き終わったわよ」
「拝見します。…………はい、不備はありません。どうぞ中にお入りください」
「ありがとう。……さあ、アレン君、私についてきて」
「はい」
僕はそう返事をして、リアカーを引いてリサさんの後をついていく。
そしてそのまま訓練場の方へと歩いて行く。
訓練場では、多くの騎士が訓練をしていた。……いやまあ、訓練場なんだから当たり前なんだけどね?
すると騎士達をしごいていた人物がこちらに目をやり、彼らに自主訓練を言い渡してからこちらに近付いてくる。
その人物は立派な髭を蓄えた、ガタイのいい男性だった。
「これはこれはリサ殿。ようこそおいでくださいました」
「こんにちは、騎士団長さん。注文の商品をお届けに参りました」
「かたじけない。いつもの場所に置いておいてもらえますかな?」
「分かったわ」
「して……リサ殿。そちらの青年は?」
「アレン君はアリシアの……私の娘の彼氏よ。昨日娘が久しぶりに家に帰ってきたのよ、それも彼氏を連れて。それで今日はアレン君に、私の仕事を手伝ってもらってるの」
「左様ですか」
「ええ。それじゃあ私達は商品を指定の場所に卸してくるわね」
リサさんはそう言うと、騎士団長に背を向けた。
そして僕は彼女についていき、訓練場の片隅にある武器保管場所へとやって来た。
そこで運んできた荷物を卸し、代わりに保管場所に積まれていた廃棄物―刃零れした剣とか柄が折れた槍とか色々―をリアカーの荷台に積んでいく。
それがあらかた終わった後、不意にリサさんが驚きの提案をする。
「ねぇ、アレン君。私と手合わせしてくれない?」
「えっ……!? なんでですか?」
「う〜ん……娘の彼氏がどれ程の腕前なのか確かめたい、から?」
……なんで疑問形?
そう思ったけど、口にすることはなかった。
「……分かりました。それで武器は――」
「アレン君は自前の武器を使っていいわよ。私は……コレを使うから」
リサさんはそう言うと、保管場所に立て掛けてあった何の変哲もない鋼の剣を手に取る。
……それで僕の相手をするつもりなのだろうか? するつもりなんだろうなぁ……。
そんなことを考えていると、リサさんが僕に背を向ける。
「それじゃあちょっと団長に断りを入れてくるわね」
リサさんはそう言うと、鋼の剣を手にしながら騎士団長の方へと向かっていった。
……相手に有無を言わせないほどの勢いがあるのは、アリシアに似ているなぁ……。いや、アリシアがリサさんに似ているのか。
僕はそう思いながら、腰に吊るした魔法袋から二本の愛剣を取り出した―――。
◇◇◇◇◇
僕とリサさんは、訓練場の中央で対峙していた。
訓練をしていた騎士達はその手を休ませて、僕達の戦いを遠巻きに観戦するつもりらしい。
僕が両手に剣を構えると、審判役を務める騎士団長がリサさんに尋ねる。
「ルールは如何なさいますか?」
「相手に大怪我を負わせるような攻撃じゃなければ、何でもアリ。……あ、アレン君は超級魔法を使っていいからね?」
「アレン君『は』ってことは……リサさんも超級魔法を使えるんですか?」
そこに引っ掛かったので、僕はリサさんにそう尋ねる。
ちなみに僕が超級魔法を使えることも、僕しか使えない魔法剣のことも、昨日の内に話している。
するとリサさんは首を横に振る。
「いいえ、使えないわ。だけど折角の機会だし、アレン君の本気を見てみたいじゃない」
「……怪我しても知りませんよ?」
「私に手加減は不要よ。こんなおばちゃんでも、先代勇者だからね」
……リサさんみたいな若々しいおばちゃんがいるものか。
そう思いつつ、僕は姿勢を低くして臨戦体勢を調える。
それを見て、リサさんも剣を構える。
その構えには、一分の隙も見受けられなかった。
「それでは――始め!!」
騎士団長の合図と共に、僕は一直線にリサさんへと接近した―――。
先代勇者の実力は……。
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