第37話 これから
前回のあらすじ
偽りの魔王に敗北した
「………………ん。んん…………」
瞼を刺激する陽光によって、わたしはゆっくりと目を開ける。
そして真っ先に目に映ったのは、真っ白な天井だった。
それとわたしは、ベッドに寝かせられているらしい。
もっと詳しく周囲の状況を確認しようとして起き上がろうとしたその時、全身を引き裂くような激しい痛みがわたしを襲った。
「ひぎぃっ!!」
およそ年頃の女の子が出してはいけないような悲鳴を上げながら、ベッドに倒れ込む。
そしてその痛みに耐えるように、自分の身体を抱き締めベッドの上で悶える。
「やっと起きたのね」
するとそんな声が掛かってきた。
痛みに悶えつつも、声がした方に目を向ける。
そこには、椅子に座り膝上のスライムを愛でているゲーティアさんの姿があった。
そのスライムは彼女に撫でられ、ご満悦と言った風にその体をぷるぷると震わせていた。
そこで改めて周囲を見回す。
清潔感溢れる部屋で、窓からは柔らかな陽光が射し込む。
わたしの左右にもベッドが置かれていて、アレンとフレイルがそこで眠っていた。
二人共わたしと同じようなデザインの服を着せられていて、身体の所々に包帯が巻かれている。わたしも例外ではない。
このことから、わたし達は病院の一室に居るのだと判断する。
「ゲーティア、さん……? なんでここに……。それとわたし達は、どうなって……?」
「話してもいいけど、それはまた今度。今は眠って、少しでも回復に努めなさい」
そう言うとゲーティアさんは立ち上がり、スライムを椅子の上に置く。
そしてわたしのベッドに近付くと、わたしの身体に布団を掛け直す。
すると彼女は、わたしの頭を優しい手つきで撫でてきた。
その心地よさに次第にうとうととしてきて、わたしは意識を手放した―――。
◇◇◇◇◇
それから三日後。
なんとか筋肉痛程度まで痛みが引いてきた。それでも動くとちょっと痛いけど……。
アレンとフレイルも目を覚ましていて、多少なりとも痛みに悶えていた。
そしてゲーティアさんは椅子に座り、膝上にスライムを抱き抱えながら事の子細を説明してくれた。
「わたし達が魔王に負けてから、どのくらい時間が経ったんですか?」
「十日くらいかしらね」
「わたし達を病院に運んでくれたのは……」
「わたしよ。竜人の里の近くだったとはいえ、三人運ぶのは苦労したわ」
「ありがとうございます、病院まで運んでくれて」
「感謝されるようなことじゃないわ」
そう言ってゲーティアさんは、首を横に振る。
そしてわたしは、とても気になっていることを尋ねる。
「あの、ゲーティアさん。あの魔王が言っていた『理外者』って、何ですか? あと、貴女が魔王に言っていた、『漂流者』っていうのも……」
「…………」
するとゲーティアさんは口をつぐむ。
長い沈黙の後に、やっと彼女は口を開いた。
「……今は話すことは出来ないわ。ところで話は変わるけど、あなた達はこれからどうするつもり?」
そう言ってゲーティアさんは、強引に話題を変える。
……『今は』と言ったから、いつかは話してくれるのかな?
わたしがそんなことを思っていると、彼女の質問にフレイルが答える。
「モミジとエミリを救い出します! そして、偽りの魔王を倒します!」
「だけどあなた達は負けたでしょう? また同じことを繰り返すの?」
「魔王に負けないだけの実力を手に入れます!」
そう言うフレイルの目は、力強かった。
その目を真っ直ぐ受け止め、ゲーティアさんはわたしとアレンにも尋ねてくる。
「そっちの二人は?」
「フレイルと同じですよ。僕達の手で、モミジとエミリを救出します」
「わたしもです。勇者として、あの偽りの魔王を倒します」
わたし達の主張を聞き、ゲーティアさんはゆっくりと頷く。
「……そう。なら、南大陸の魔法王国にある、王立魔法学院に行きなさい。そこなら、あなた達を強くしてくれるハズよ」
「でも魔法学院って、年に一度の試験に合格するか、誰かからの推薦状がないと入学出来ないんじゃ?」
「その点は問題ないわ」
フレイルの質問にゲーティアさんはそう答えると、懐から三通の封筒を取り出す。
「帝国皇帝直筆の推薦状を預かっているわ。勇者がこれを必要としていると言ったら、嬉々としてしたためてくれたわ」
「アイシャが……」
そう呟き、わたしは可愛らしい皇帝サマに心の中で感謝する。
ゲーティアさんは推薦状をテーブルの上に置くと、立ち上がってドアの方に向かう。
「わたしはこれで失礼するわ。また会う機会が、無いといいわね」
「ま、待ってください!」
そう言って立ち去ろうとするゲーティアさんを、フレイルが引き留める。
彼女はフレイルの方を振り向き、尋ねる。
「なぁに?」
「貴女は……貴女も、原初の魔王の血を引いているんですか?」
「…………それは言えないわ。でも、その人の関係者ではあるわ」
「それは、どういう……?」
「これ以上言うつもりはないわ。それじゃあね」
そう言ってゲーティアさんは、部屋を出て行った。
彼女に関しては、謎が増えるばかりだった―――。
◇◇◇◇◇
病院を出たゲーティアは、その足でテウルギア大霊廟へと向かう。
そして第一層まで下り、『原初の魔王』ノヴァの墓標の前に佇む。
彼女はその墓標を、いとおしそうに撫でる。
しばらくして墓標から手を離すと、それに向かって話し掛ける。
「また来るね、お父さん。お母さん達も、またね。……行こっか、スラちゃん」
そう言ってフードを被り、スライムを連れて第一層から出て行く。
そして『悠久の魔法使い』ゲーティア……否、『永久の魔物使い』ティアは、テウルギア大霊廟を後にした―――。
◇◇◇◇◇
それから二週間後。
完全回復したわたし達は、南大陸にある魔法学院を目指すことにした。
竜人の里の外に出て、わたしはフレイルに尋ねる。
「本当にいいの? わたし達について来ちゃっても?」
「はい。墓守の役目も、わたしの家族がやってくれてますし、大丈夫です!」
フレイルはそう答え、ふんす! と気合いを入れる。
それを微笑ましく見ながら、アレンとフレイルに言う。
「それじゃあ、出発しようか」
「ああ」
「はい!」
そしてわたし達三人は、南大陸に向けて出発した―――。
次回から新章開幕です!
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