第32話 同行者
前回のあらすじ
女の子を見つけた
「……へっ?」
最初聞き間違いかと思った。
けれどすぐに、女の子のお腹から盛大な腹の虫が鳴り響いた。
「何か、食べ物を……」
女の子が弱々しくそう言ってきたので、わたしは魔法袋をまさぐる。
だけど残念ながら、食べ物の類いは何一つ無かった。
わたしは振り向き、アレンの方を見る。
「わたしは何も無かったけど、アレンは?」
「僕も無かった」
わたしの質問に、アレンは首を横に振る。
すると女の子は、目が虚ろになってきていた。
「もう……限界……」
「え〜っと……。商隊に戻ったら何か食べ物を分けてもらうから、わたし達についてきて?」
「はい……」
「立てる?」
「一歩も、動けない、です……」
女の子はそう言うので、わたしは彼女をおんぶしていくことにした。
そして早足で、商隊の方へと戻って行った―――。
◇◇◇◇◇
余程お腹が空いていたのか、黒髪の女の子は丸太で出来た椅子に座り、すごい勢いでご飯を駆け込む。
それを見ているだけで、こちらは満腹になりそうだった。
わたしだけでなく、他の冒険者や商人達もその食べっぷりに呆気に取られていた。
「ふぅ……。助かったぁ……」
空になった器を両手で抱えながら、女の子はそう呟いた。
それだけなら空腹が紛れての感想と受け取れるけど、ただ……。
わたしはチラリと彼女の脇にある、空になった寸胴に目をやる。
哨戒にあたっていた冒険者のためにと、商人達が用意してくれた夜食を、女の子はたった一人で平らげてしまっていた。二、三十人分はあったハズだけど……。
わたしと同じかそれより年下くらいの見た目なのに、ものすごい胃袋だった。
「ありがとうございます。とても助かりました」
女の子は深々とわたしに向かって頭を下げる。
「それは良かったよ。あは、あははは……」
わたしは苦笑いを浮かべるしかなかった。
するとアレンが、彼女に尋ねる。
「それでキミは、誰なんだい?」
「あぁ……。そういえば、まだ名乗ってなかったですね。私はフレイル、フレイル・ドラグナーです」
「ん? ドラグナー? ドラグナーってことは、もしかして……」
「はい。私は……、ふあぁぁぁ……」
すると女の子―フレイルは、大きなあくびをする。
おそらく、お腹が満たされたことで眠気が襲ってきたのだろう。
フレイルは目を擦りながら、わたし達に言う。
「すみません。自己紹介の続きは、一眠りしてからでいいですか?」
「え? うん、いいけど……」
「ありがとうございます。それじゃあ、おやすみなさい」
そう言うとフレイルは椅子に座ったまま目を閉じ、すやすやと寝息を立て始めた。
すごくマイペースな女の子だなぁという印象と共に、フレイルをわたし達の馬車の荷台へと運び、そこに横たえて眠らせた。
「……僕達も寝ようか」
「うん」
アレンの提案に賛成して、わたし達も再び眠りに就いた―――。
◇◇◇◇◇
翌日。
フレイルはわたし達についてきていた。
というのも……。
「私、竜人の里に住んでるんですよ〜。……え? この商隊の目的地が竜人の里? だったらそこまで私を乗せてってください。報酬は後でちゃんとお支払いしますから」
と、笑顔でそう言ってきたからだった。
それでわたしは商隊のリーダーの人と話し合い、わたしとアレンが責任を持って彼女の世話をすることを条件に、彼女の同行を認めてくれた。
わたしは馬車の手綱を引きながら、改めて隣に座るフレイルに目をやる。
彼女は艶々とした黒髪を頭の左右で結い上げており、アイスブルーの瞳をしていた。
そしてまだ幼さの残る顔立ちをしていて、とても『あの一族』の関係者だとは思えなかった。
「どうしたんですか?」
わたしの視線に気付いたのか、フレイルは首を傾げながら尋ねてくる。
「え? え〜っと……そう! なんでフレイルは、あんなところにいたの?」
わたしはそう取り繕い、ずっと聞きたかったことを尋ねた。
するとフレイルは、頬を僅かに染め上げる。
「いや〜、お恥ずかしい話なんですけど……。ちょっとお散歩してて、あの辺りでお昼寝してたら夜になっちゃってて。それで里に帰ろうにもお腹が空き過ぎて、あそこから一歩も動けなかったんですよ。アリシアさん達が来てくれてなかったら、今頃餓死してましたよ〜」
あっはっはっ、と笑いながら彼女は答えた。
……いや、竜人の里からあそこまで、「ちょっと」どころの距離じゃないんだけど……。
そう思いつつも、ソレは口にせずにぐっとこらえる。
まぁ、わたしの予想通りなら、彼女の種族であればあのくらいの距離は「ちょっと」だとは思うけど……。
そんなことを思いつつ、新たな同行者を加えて、一路竜人の里を目指して進んで行った―――。
腹ペコマイペースな新キャラ、それがフレイル。
ちなみに彼女にはまだ秘密が……。
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