第19話 邂逅 後編
前回のあらすじ
元勇者が元魔王と邂逅した
東大陸北部にある港町を出港して、一週間が経った。
この日、ようやく北大陸東部にある港町に入港した。
船を降りて、一週間ぶりの地面を踏みしめる。
ずっと船に揺られていたので、揺れない足下というのは久々だった。
わたしは港を後にして、冒険者ギルドでクエストを受けるために町中に向かう。
◇◇◇◇◇
町の住人に親切に教えてもらったところ、この町に冒険者ギルドはないらしい。
だから冒険者はみんな、街道に沿って次の町にあるギルドに向かうとのことだった。
そのことを教えてくれた人にお礼を言って、わたしは町を出て街道を歩いて行く。
町を出てしばらくは平原を歩いていたけど、今は森の中を歩いていた。
東大陸の森と違い、北大陸の森は針葉樹が多いようだった。
こういった差異を見つけるのも、旅の醍醐味だと思う。
周りの風景を楽しみながら歩いていると、突然わたしの進行方向から凄い速さで人が接近してきた。
その人は両手に持った剣を振り下ろしてくるけど、その剣の状態が異常だった。
右手の剣は炎を、左手の剣は氷を纏っていた。
そのことに驚きつつも、わたしは鞘から剣を引き抜いて二本の剣を受け止め、襲撃者を見る。
わたしを襲ってきた人は、真っ黒い髪で、その瞳も夜空のように黒い、わたしと同い年くらいの少年だった。
彼はわたしから離れ、右手の剣を向けながら叫ぶ。
「見つけたぞ、魔王! 魔王アリュシーザ!」
その言葉を聞き、わたしは目の前の少年が誰なのか察した。……いや、思い出した、と言うべきか。
よくよく考えたら、武器に魔法を纏わせることが出来る人なんて、『彼』しかいなかった。
「アレク……? 勇者アレクシスなの?」
自分でも信じられないほど声が震えていた。
すると目の前の少年はわたしの言葉に、無言で頷く。
それによって、彼の正体も確定した。
目の前の少年は、わたしが前世で魔王として幾度となく刃を交え、恋人として何度も逢瀬を重ねた、勇者アレクシス本人だった―――。
◇◇◇◇◇
前世でわたしとアレクシス―アレクは、戦場で初めて出会った。
わたしは魔王として、アレクは勇者として。
わたしが魔王だった時代は、魔王軍と人類軍の三度目の戦争をしていた。
戦場で何度もアレクと刃を交えるうちに、次第に彼に惹かれていった。
そして何度目かも分からない戦場で、アレクにダメ元で告白したところ、彼はわたしの告白を受け入れた。
だけどわたしとアレクは敵同士。
誰にも気付かれないように、細心の注意を払いながら何度も逢瀬を重ねて、秘密の恋人関係を続けていた。
そんなある日。
人類軍にわたしとアレクの関係が知られ、アレクにわたしを直接討つように命令が下された。
アレクは最後まで抵抗していたけど、個人の力ではどうすることも出来なかった。
アレクは泣きながらそのことをわたしに告げ、わたしはそれを条件付きで受け入れた。
その条件とは、わたしの代わりに世界を平和にするということだった。
アレクはわたしの願いを受け入れ、わたしはアレクの剣を受け入れた。
こうしてわたし達の仲は、運命の悪戯によって引き裂かれた。
◇◇◇◇◇
わたしはアレクに向かって言う。
「ちょっと待って、アレク。今のわたしは―――」
「キミが魔王なんだろう? なら僕が直接、キミを討つ」
悲壮な面持ちでそう言ってくる。
早とちりしてしまうところがアレクのカワイイところ……、ゲフン。唯一の欠点だった。
わたしは彼の誤解を解くために、冒険者カードを魔法袋から取り出す。
「本当に待って。これを見れば、わたしが魔王じゃないことが分かるから」
そう言うとアレクは眉をひそめながらも、右手の剣だけ鞘に納め、わたしに近付いてくる。
そしてわたしから冒険者カードを受け取り、裏面の備考欄を目にした時に驚きを露にする。
「キミ、勇者なの?」
「ええ、そうよ」
わたしは頷き、アレクに改めて自己紹介する。
「今世でははじめまして。わたしはアリシア、勇者アリシアです。以後お見知りおきを……、なんてね?」
最後の方は少しだけおどけると、やっと納得したのか、アレクはわたしが見慣れた優しい笑みを浮かべる。
「うん、誤解してゴメン。それと僕も名前が変わっていてね。今はアレンっていう名前なんだ。今世では……、いや、今世でもよろしく、アリシア」
アレク―アレンがわたしにカードを返しつつ、そう言った。
わたしがカードを魔法袋にしまうと、彼が尋ねてくる。
「それで、キミが魔王じゃないとなると、いったい誰が?」
「そのことについては話してもいいんだけど、どこか落ち着ける場所ってない?」
「この先の町にある宿に僕は今滞在してるから、そこまで行こう」
アレンの提案に、わたしは賛成するように頷く。
「だけどその前に、ギルドに寄っていいかな? クエスト受けてる途中なんだ」
「ええ、いいわよ」
こうしてわたしはアレンと共に、街道の先にある町に向かった―――。
世界最強は勇者の元彼。
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