力の把握
「起きなさい!いつまで寝ているのよ。もう太陽出るじゃない」
ゲストルームで久しぶりの睡眠をとっているのに、ドアの向こうから甲高い声が聞こえる。「どんどん」と地団駄を踏んでいるのでタチが悪い。
「わかった、わかった。今行くよ」
「早くしなさい。妹はずっとあなたのこと待っているのよ」
そう言われれば、そうだ。だが5日も飲まず食わずで歩き続けた身にもなってほしい。ドアを開けると昨日とは装いが違うキュウが立っていた。弓を背負っており、服も動きやすいものを身につけている。弓を引くために鍛え上げられた腕がなんとも逞しい。
「さぁ、歯を磨いて。髪の毛を整えて。全部終わったら教えなさい。さっさと特訓を始めるわよ。支度が終わったら、外に出てきなさい」
まだ外は真っ暗だった。そして寒い。リュウさんからもらった服は長袖長ズボンのもので助かった。自分が着ていた服ならすぐに弱音を吐くほどだった。
「きたわね。まずは私の力を見せるわ」
500メートル先にリュウさんが立っている。右手には蝋燭を持っており、なんとか視認できる。遮蔽物がこの辺にはないのか、風がすごい勢いで吹きつけている。
「見てて」
キュウが弓を構え、めいいっぱい引いている。その立ち姿はもはや芸術品だ。少しの無駄もない。まさしく弓を使うために生まれてきたような人間なのだろう。
キュウが手を離した瞬間、弓矢は風を切るような音を立てながらリュウさん目掛けて飛んで行った。
「危ない!」
ケンは思わず叫んだ。
「黙ってみてなさい」
3秒後、リュウさんが消えた。蝋燭の火が消えたのだ。
「リュウさんに当たったんじゃないか」
「違うわよ!あの木偶の坊が持っている蝋燭の火を弓矢で消したの。あなた、昨日の私の話聞いてたの?」
5分後、リュウさんが小走りで戻ってきた。蝋燭を見せてもらうと上の部分が欠けていた。弓矢のあとだ。
「お嬢様、流石の腕です」
「当たり前よ。これでわかった?私の目には風の影響でどれほど軌道が曲がるかもわかる。距離が長ければ長いほど弓矢は放物線を描く。それも見えるの。まぁ私の腕力があれば1キロ先は直線で射抜けるけどね」
「すごい。どうやって自分の力を把握したんだ」
「私の場合は先天性の力だから、先代から教わるの。問題はあなたの力よ。昨日話した内容をもう一度聞かせて」
「相手を一撃で倒せる力。一度あてて、倒れなかった場合、二度目はない」
「矛盾ね。一撃で倒せるのに、二度目のことを語るのは」
「こういうことではないでしょうか。相手が盾でいなしたり、相手の一部に当てた場合、即死には至りませんということかもしれません」
「なるほどね。ということは、相手の攻撃をガードした場合にも発現するかもしれないということかしら」
「可能性はあります」
「つまり力の練習はできないわね。誤って直接攻撃をしたら、リュウや私を殺せてしまうのだもの」
「避ける練習」
ケンがつぶやいた。
「何?」
「避ける練習が必要なんじゃないか。相手の攻撃を一発も喰らわない練習だよ。どの角度からどのような攻撃が来ても瞬時にかわせて、隙ができたら相手の胸を貫くように準備が必要だ」
「いいじゃない、それ。それなら弓がうってつけね」
「は?」
「安心しなさい。最初は矢がついていないもので打ってあげるから」
「当たったら?」
「打撲じゃ済まないわね。さっさと逃げたほうがいいわよ。10秒後には矢が飛んでくるから」
「こいつ、やっぱり信用できねぇ」
ケンは勢いよく西に向かって走り始めた。ちょうど太陽が顔を出し始めて、あたりが見えてきた。妹はあの先で俺を待っている。こんなところでへこたれるわけにはいかない。
シュルルルルルル
顔面の近くを弓矢が通った。
「あっぶね!」
「最初だから甘めに打ってあげたのよー!」
遠くからキュウのはしゃぎ声が聞こえる。
「これ、私の練習にもなるわね。どんどん打ち込むわよー!」
ケンとキュウの特訓はその日の深夜まで続いた。
初めまして!ご挨拶が遅れましたが、皐月と申します。
東奔西走をお読みくださってありがとうございます。小説を書くのは初めてで、色々と不慣れなところがありますが、どうぞよろしくお願いします。
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