固形物のフルコース
「罪人とはどういうことですか?お二人とも身なりは綺麗です。ここには看守もいなさそうでし」
「木偶の坊!これ以上、ペラペラ話すとただじゃな置かないわよ」
死体を小枝で突いてた女が戻ってきた。ケンに睨みを聞かせて「フン」とそっぽを向いた。
「申し訳ありません。体を焼いたお詫びもしたいと思いますので、我々の家まで案内します。ここから歩けば1日のところにあります。我々は馬車で着ておりますので、半日もあれば着くかと」
「ありがとうございます!」
ケンは満面の笑みを女に見せつけるように作って見せた。横目で女の表情を見るとこの世のものとは思えない憎悪に満ちた表情でケンを睨みつけている。
「ところでお二人の名前をお聞きしていいですか」
「ええ。私はリュウと申します。こちらのいらっしゃるお嬢様は、、、」
「私の名前は言うな!」
「失礼しました。親睦を深めてから直接お聞きください」
「こんな歩く死体と親睦なんて深める余地なんてない」
ケンはもはや反応すらしなかった。この女と会話する気力は残っていなかったのだ。
2人は馬車から死体を20体ほど引き出し、作業に入った。死体はどれも痩せており、皮膚には紫や黒みがかった斑点がついている。死体を積み上げ、油をかけて燃やした。
その後、ケンは死体が置かれていた荷台に座って、彼らと移動を共にした。移動中、会話はなかった。荷台に染みついた死臭に鼻を曲げつつ、ケンはようやく深い眠りについた。
「あらぁ、こいつ本当に死体になったんじゃないの。もう一回燃やしてみるのもありね」
女のはしゃぎ声で目が覚めた。あたりはすっかり真っ暗になっていた。
「お前は学習しないのか」
「なんだ生きてるじゃん。つまらなーい。いつでも死んでいいからね。死体が一つ増えても大した仕事じゃないから」
そう言うと女は立派な家に入っていた。
「ここがあなた方のお家ですか」
「ええ。そうです」
「とても罪人が住む場所には思えませんが」
「まずはお食事でもいかがでしょうか。ケン様はもうしばらく何も食べていらっしゃらないでしょう」
「え、食事をいただけるのですか」
「もちろんです。我が家のお客人ですから」
家に入るとそれは煌びやかだった。木で作られた家はどれも光沢がある。床は全く軋むことがない。きっと分厚い木材が使われているのだろう。居間に入ると大きなテーブルがある。席は4つあったが、うち2つは布が被せられていた。
リュウさんは食事の用意をするために、居間から出ていった。入れ替わるように女が入ってきた。
「あら、あなたまだいるの?」
「リュウさんがご馳走してくれるからな」
「そう。よかったわね」
「ここがお前の家か。えらく豪華だな」
「当たり前じゃない。この家だけは守り切ったの。あとは全て奪われたわ」
「何があったんだ」
「あなたに話す義理はないわ!図々しい男ね。なんでそんなに図々しいのにひもじい格好しているの?」
「第10エリアではみんなこうだ」
なぜだろうか。会話がほとんど成り立っていないのに、少し楽しさを覚えている自分がいる。
「そもそもあなた、なんで第10エリアから脱出できたのよ」
「仲間がお金を貯めてくれたんだ。妹が攫われて、探すために出てきたんだ」
「ふーん。人の金で旅しているなんて、やっぱり図々しいわね」
「恵まれたお前に俺のことをとやかく言われる筋合いない」
「あっそ」
リュウさんが食事を運びにやってきた。今まで嗅いだことがない匂いにケンは胸が高鳴った。ふんだんにスパイスを使った肉と豆腐を使った逸品。口にせずとも辛いとわかる香りを漂わせている。白米を山盛り積ん茶碗も並べられた。他にももちもちした布が肉を包んだ料理もある。
「これは餃子と言います。第9エリアで古くから伝わる伝統料理です」
口に運ぶと思わず声が出る。これほどの固形物を食べたことがないケンは、すぐに喉につまらせた。
「卑しいわね」
女が不快そうな目でケンを見つめる。
「いつも味のついたスープぐらいしか食べていないんです。こんなに固形物を食べたのは初めてです」
夢中になってご飯を口にするケンはふと、第10エリアの仲間のことを思い出した。今頃ひもじい生活を送っている彼らを置いて、ご飯を食べている自分に罪悪感が込み上げてきた。
「みんなにも食べさせてやりたいです。自分だけがこんないい思いをしていいのでしょうか。うぅ。申し訳ない、みんな」
「何も泣くことはないでしょ。ご飯が不味くなるじゃない、バカ」
ケンは涙を流していた。それを見た女も流石に哀れんだのか、少し悲しそうな顔を見せた。




